梅雨入りになったが、この地方にはまだ梅雨らしい雨は降らない。野菜畑の乾燥を潤す程度のいわゆる「いい雨」である。それでも季節の花は咲く。ツツジが終わって、春のバラも盛りを過ぎたため、すっかり紫陽花がその主役の座を占めた感がある。
詩嚢涸れ紫陽花の藍浸々と 鈴木 花蓑
ところで紫陽花の学名は、H.M.var Otakusa とついているそうだ。これはオランダ軍医、かのシーボルトの命名によるものだ。シーボルトは医者であり、動物学や植物学を研究する学者でもあった。医者であったため、長崎に住むことを許され、鳴滝塾という医院兼学校のようなものを開き、日本人の病人を診察しながら、日本にある珍しい動植物を採集していた。ここで知りあったお滝さんという女性と婚姻関係を結び、稲という子を設けている。オタクサという学名は、シーボルトの日本人妻の名前に因んだものらしい。新発見の植物に自分の妻の名をつけるなど、当時の日本人の発想にはなかったであろう。