
シネマート新宿で上映中の映画「タクシー運転手 約束は海を越えて」を見てきました。
『戒厳令下の物々しい言論統制をくぐり抜け唯一、光州を取材し、全世界に5.18の実情を伝えたユルゲン・ヒンツペーター。その彼をタクシーに乗せ、光州の中心部に入った平凡な市民であり、後日、ヒンツペーターでさえその行方を知ることのできなかったキム・サボク氏の心境を追うように作られた本作は、実在した2人が肌で感じたありのままを描くことで、1980年5月の光州事件を紐解いていく。』(HP「Introduction」より)

ソウルのタクシー運転手キム・マンソプは、11歳の娘と暮らすシングル・ファーザー。少ない稼ぎで日々かつかつの生活をし、韓国で起きている戒厳令反対の学生デモには、「そんなことをするために大学に行ったんじゃないだろう」と冷めた目で見る平凡な庶民です。
ある日、光州で起きている民主化運動の実態を取材したいと韓国に訪れたドイツ人記者ユルゲン・ヒンツペーター(ピーター)の、ソウル~光州間タクシー往復で10万ウォンの話に乗って、マンソプはピーターを自分の車に乗せて光州を目指すことになります。

途中通行禁止のバリケードと軍人の検問に何度も阻まれながら、何とか光州に入り込むと、そこには民主化を求める学生や一般市民と、彼らを黙らせようと目を光らす軍のにらみ合いがありました。

当初事態はそれほど酷くなくて、学生も表情に余裕がありましたが、民衆デモが拡大していくと見るや、軍はこん棒をふるい、銃を発砲するなど、状況は悪化。軍の無差別な暴力によって、学生や市民に多くの犠牲が出ます。
そんな様子を記録し続けるピーターにも軍は警戒の目を向けて、ピーターと彼をソウルまで無事送り届けようとするマンソプ、彼らを捕捉しようとする軍の両車、マンソプたちを助けようと駆け付けた光州のタクシー運転手たちの、命を懸けたカーチェイスが始まります。
何とかソウルに到着したピーターは金浦空港を離れ、光州の現状を世界に発信します。・・・といったストーリー。
主役のタクシー運転手キム・マンソプも、広州のタクシー運転手ファン・テスルも、夢多き大学生ク・ジェシクも、大らかで、ある種適当で、でも情に厚く家族や隣人を大切にする(おそらく韓国人共通の)温かい人柄は、とてもナチュラルで好ましく、親しみを感じます。
そんな彼らや光州の人々が軍部の弾圧に傷つく姿は痛ましく、苦しく、これが今から38年前に現実に起きたということに、愕然とする思いがします。それだけに、今の民主主義が進んだ韓国社会の重さは、彼らにとっても得難いものではないかと思いました。
昨日の2時20分からの上映は全席満席で、ネット予約、先行予約以外は立ち見となりました。韓国の今の民主化の姿とようやく訪れた南北朝鮮の雪解けの兆しに、日本の私たちも敏感に反応しているのかもしれませんね。(三女)
