蚊遣火(かやりび)はふもとの庵(いほ)にくもれども夏の夜(よ)すずし軒の山風(安嘉門院四条五百首)
あたら夜(よ)の軒もる月もくもるまで伏屋(ふせや)にくゆる夏の蚊やり火(安嘉門院四条五百首)
来る人もなき山里は蚊遣火のくゆるけぶりぞ友となりける(散木奇歌集)
夜(よ)もすがらしたもえわたる蚊遣火に恋する人をよそへてぞ見る(能宣集)
蚊遣火はものおもふ人のこころかも夏のよすがら下(した)に燃(も)ゆらむ(拾遺和歌集)
けぶり立つ賤(しづ)が柴屋(しばや)の蚊やり火にわがしたむせぶこころをも知れ(為家五社百首)
蚊やり火のけぶりを見ても思ひ知れたちそふこひの身にあまるとは(続後拾遺和歌集)
夏草のしげきおもひは蚊やり火の下(した)にのみこそもえわたりけれ(新勅撰和歌集)