プロレスラー墓名碑2022 ~アントニオ猪木 ②
アントニオ猪木が脱兎の如く、ロープ最上段に駆け上がり、鷹のように空中から舞い降りて襲い掛かる。
フライングニードロップだ。猪鬼はキラー・コワルスキーになった。
プロレス界の暗黙の了解のひとつに他人の技を使ってはならないというものがある。
プロレスラーの必殺技は大切な商品であると同時に専売特許なのだ。
むやみに人真似することは許されない。
ところが、猪木はプロレスラーでありながら、プロレスラー・ファンなのであった。
彼は憧れのレスラーに成りきって、その技を駆使して見せる。
いつの間にか、彼だけに許された特権なのだろうか。
ダブルアーム・スープレックスの猪木はビル・ロビンソンになった。
バックドロップの猪木はルー-テーズになった。
ジャーマン・スープレックスの猪木はカール・ゴッチになった。
エルボーバットを繰り出す猪木はジョニー・バレンタインになった。
まるで、彼等との激闘の思い出を懐かしむように「掟破り」を敢行していた。
古舘伊知郎が「掟破りの逆サソリ」という名フレーズで藤波・長州戦をリリースするのは、それより、ずっと後のことであった。
「闘魂注入ビンタ」だという。
「1,2,3,ダアー!」と共に、猪木引退直前から引退後の彼の代名詞なのであるが、全盛期を知るものとしては、これほど、違和感を憶えるパフォーマンスはない。
鈍った人間にカツを入れるという意味では、確かに猪木は昔から使っていた。
出稼ぎレスラーというものがいる。
ギャラを稼ぐためだけに日本にやってきた外人レスラーのことだ。
彼等はケガをしないように適当なファイトでお茶を濁す。
もちろん、生活がかかっているのだから、それもわからないではない。
だが、オーナーでもある猪木はお金を払って見に来てくれるファンのため、それを許さなかった。
強烈なビンタを喰らわして彼等の闘争心を目覚めさせ本気を出させるのである。
攻撃型のビンタもある。
星野勘太郎が、このビンタを喰らって鼓膜が破れたというのを聞いたことがある。
「1,2,3,ダアー!」にしても、全盛期には1,2,3なんて、言わなかった。
観衆が同調するかなんて、お構いなし。
拳を天に向かって突き上げて、ダアーなのか、何か叫んでいただけなのか、わからないがシンプルな勝利の雄たけびだった。
自分のためだけに勝利の余韻と恍惚に浸っていたのだろう。
まさに燃えるようなギラギラした目と鋼の肉体に豹のような柔軟さ、バネを併せ持つ。
引退後の猪木しか知らないファンに、リアルイノキは本当に凄かったんだぜと自慢したくなる。
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