六、かたちを生み出すもの
「スケール号!原子の大きさになれ!」
スケール号への命令は声にならずに、艦長の心の中だけに響き渡った。ほんの数秒の間に、艦長は精一杯、宇宙の広さと、その宇宙を作っている小さな原子の世界を思い描き、太陽系のような形をした原子の姿にまで意識を広げて行った。
そしてチュウスケの打ちおろすパルサーの剣の切っ先がスケール号を切り裂くその瞬間、艦長の意識がついにスケール号に届いたのだ。
スケール号は無条件に反応した。
全身に強い圧力を感じたと思うと、次の瞬間にはスケール号の外の光景が一変していた。そこはまさに小さな原子の世界だったのである。というより、スケール号は無数の原子のなかにうずもれているのだった。
「艦長!見てください!ここは遊園地のボールのプールでヤすよ」
「ほんとだ!」
「ほんとだス。ボールのプールだス。きもちよさそうだスねぇ」
「博士、遊びに行っていいでヤすか。ボールもぐりが最高でヤすからね。」
「待て待てみんな、ここはブラックホールのお腹の中なのだ。」博士が注意深く周りを観察しながら言った。
「えーっ!それじゃ、飲み込まれたのですか、いやだよ」ぴょんたが耳をくの字のまげて言った。
「博士、これからどうなるのですか」艦長が博士の方を見た。
「それより艦長。よくやった。君はこれで、本当に一人前のスケール号の艦長になった。」
「よくわかりませんが」
「君の意識がスケール号と繋がったのだ。忘れないようにな。」
「は、はい」
「やった、やった!艦長万歳!」ぴょんたが耳をばたばたさせて跳び上がった。
「艦長、すごいでヤす。」
「すごいだス、艦長。」
「よくやった。艦長。おかげでみんな助かったのだ。」
みんなは一様に喜びの声を上げた。ぐうすかともこりんは抱き合って何度も跳びはねた。博士は艦長の肩をしっかり握り締めた。
追い詰められた艦長の心からの叫びは、スケール号に通じた。意識がスケール号を動かしたのだ。
スケール号はブラックホールに吸い付かれたまま、一瞬の間に巨大な星の大きさから目に見えない小さな原子に縮小した。
しかしその一瞬の間に、スケール号はブラックホールの内部に落ち込んでいた。
ブラックホールに飲み込まれながら、間一髪で、スケール号は原子の大きさにみずから縮む事で、ぺシャンコにされるのを免れたのだ。原子の大きさになったスケール号はブラックホールの中を自由に動くことが出来る。しかしその空間は、原子のぎっしり詰まった超過密空間だった。どこを見回しても原子が群がっており、スケール号は真っすぐに飛ぶことが出来なかった。スケール号は原子のプールを泳ぐようにしてブラックホールのお腹の中に漂っているのだ。
「でも、それじゃ、スケール号はこのまま外に出られないということでヤすね。」もこりんが初めて気付いて言った。
「もこりんの言うように、確かにここはブラックホールの中なのだ。」博士が言った。
「ブラックホールに飲み込まれて、どうやって助かるのですか。」
「もう助からないんだスか。」ぐうすかが情けなさそうに質問した。
「心配はいらない。大丈夫だ、きっと助かるよ。」博士が落ち着いて答えた。
「でも、ブラックホールに落ち込んだら、光さえ外に出られないって言うでしょう。」
「我々はスケール号のおかげで、ぺシャンコになる所を助かったのだ。このぎっしり詰まった原子の空間は、押し潰された物の成れの果てなんだよ。我々はそうならずにこうして生きているじゃないか。それに我々はこうして、この中を進むことが出来るんだ。希望はあるさ。」
「それより艦長、このままでは窮屈だ。スケール号をもっと小さくしてみようじゃないか。この原子はもっと小さな素粒子の粒が集まってできているんだ。その素粒子の粒の上に乗っかれるくらい小くなってくれないか。」
「はい」
「ゴロニャーン」
今やスケール号は、艦長の命令を口で伝える必要はない。思うだけでスケール号は動くのだ。瞬く間にスケール号は小さくなっていく。それをスケール号の窓から見ると、ボールだった原子が金星のような大きさになっていく。金星のように見えたボールは、いくつもの小さな粒の集まりだったことがわかり、その小さな粒の間には宇宙空間が広がっているのだ。その空間の中に浮かんでいる小さな粒がどんどん大きくなって、とうとう地球のような大きさになった。
小さくなったスケール号は、地球のような素粒子を眺めながら、原子の宇宙空に浮かんでいるのだ。
スケール号の乗組員たちは、窓の、移り変わる風景に、ただ言葉もなく見とれていた。
「でもここは、ブラックホールの中、そう思うと、ここは墓場なんでヤすね。気味が悪いでヤす。」
もこりんがだれよりも早く気付いて言った。モコリンはモグラだけに、暗いところに気付くのが得意なのだ。
「みんな、暗く考えるのはよそう。何とかなるさ。」艦長がみんなを励ました。
「ここは墓場なんかじゃないよ。逆に新たらしい命が生み出されている場所なのだよ。」博士は優しい口調で言った。
「ほんとだスか。」
「あれをご覧。」
つづく
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宇宙の小径 2019.6.26
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意識という光
光はものの外側を照らし出す
光がなければ何も見えない
暗闇の中で
光は
どれほどの救いになるか
体験しようと思えば
かんたんに体験できる光のありがたさだ
見えなかったものが見える
その喜びは
しっかり自分の位置を見極めた喜びにつながる
光のありがたさは無上のものだ
だが
光は内側を照らし出してはくれない
世界に光が満ち溢れていても
小さな路傍の石ころでさえ
その内がわは
見せてはくれないのだ
光は己を照らし出してはくれない
*
内側を照らす光はないのか
実はそれが
意識なのだ
意識は
その内側において
光と全く同じ働きをしてくれる
意識は
紫外線の領域をさらに深く潜った微細の光なのだ
空間の持つ私の本質だ
そしてそれは
内側から己を照らし出す
己のすべてが
そこにある
瞑想するという事は
意識の海に入ること
その実感は
正しく瞑想に入ったものには明白だろう
目で見る宇宙空間のように
心の空間はどこまでも広がっている
意識が
サーチライトのように
空間を照らす
見えなかった力が照らし出される
それは偶然の時もあるが
鍛錬の後に見える時もある
その度に
人の能力は上がる
無限の可能性は
いつも心の空間にあるのだ
意識を照らせ
意識は
五次元を
見せてくれる
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