十、 チュウスケ
パルサー星と共にブラックホールに飲み込まれたチュウスケは、巨大な重力によって一瞬のうちに押し潰されてしまった。
「チュくしょうー!」
「チュくしょうー!」
チュウスケの体はブラックホールの中で、一生外に出られないかに見えた。
ところが、チュウスケは魔法使いだった。チュウスケの姿は、魔法によって映し出された幻だったのだ。
チュウスケの魔法は、邪悪なエネルギーを操って、どんな大きさにも変身することが出来るし、どんな所にも行くことが出来るのだった。
そしてその実体は、地球に棲む魔法使いのネズミなのである。
宇宙の彼方で、スケール号を待ち伏せしてブラックホールに落とそうとたくらんでいたチュウスケは、チュウスケネズミの魔法によって集められた邪悪なエネルギーの塊だったのである。
そのエネルギーが、ブラックホールに吸い込まれてぎゅうぎゅうに押し込められて小さな塊になった。
どんなに小さく押し潰されても、エネルギーが死ぬことはない。逆に邪悪なエネルギーはより強いエネルギーになり、ブラックホールに落ち込んだ物質をどんどん邪悪なものに変え始めたのだ。
ブラックホールに落ちた物はみなその形を失い、その物を作っていた原子同士の友情が失われ、無関心が生まれて、皆がばらばらになっていた。そこにチュウスケの邪悪なエネルギーがやって来たのだ。
ばらばらになった原子達は、自分の目的をなくしてしまった為に、簡単にチュウスケの誘惑に乗ってしまったのだ。
ブラックホールの中はすぐに邪悪なエネルギーで一杯になった。チュウスケはその邪悪なエネルギーを集めて、チュウスケ化した原子を組み立てて自分の手下を作り出した。
「親分、およびでポンすか?」
タヌキのポンスケは背中の旗をはためかせてひざまずいた。
「親分、、ごようはなんですカン?」
カラスのカンスケは、羽を広げて見せた。
「思いきり暴れまわるのだチュウ。はむかうやつは叩きのめせ。全員われらに従わせるのだチュウ」
こうしてチュウスケは、魔法で作り上げた手下に命じて、ブラックホールの腹の中を思い切り暴れ回らせたのだ。
「イテテテテ」
ぽっかり口を開けて居眠りをしていたブラックホールはおなかを抱えてうめいた。しかしその痛みに気付いた時には、ブラックホールのからだは、ほとんどチュウスケに支配されていた。
「た、助けてくれー!」 ブラックホールは悲鳴を上げて助けを呼んだがもう遅かった。
チュウスケと手下共はますます激しく暴れ回わり。腹の壁を引っ掻くもの、噛み付くもの、体当たりするもの、ブラックホールの腹の中はゴロゴロと音がして上を下への大騒ぎとなった。
生まれたばかりの原子たちは、瞬く間にチュウスケ色に染められ、やがて巨大なブラックホールは、その身体ごとチュウスケの分身となってしまったのだ。
「わたチュの命令に従うチュウか。」チュウスケはブラックホールのお腹の中から呼びかけた。
「何なりと、ご主人様・・・」ブラックホールは痛いお腹を抱えてうめいた。
「まず、わチュらを外に出せチュうのだ!」チュウスケはブラックホールのお腹を蹴飛ばして言った。
「ヒエッ~、分かりました。ご主人様」
ブラックホールは腹を抱えて転げ回り、とうとう、チュウスケを吐き出してしまったのである。
「チュくしょうめ、ひどい目にあっただチュ。それにしてもにっくきスケール号、覚えているだチュウ。」
チュウスケはブラックホールに飲み込まれたお陰で、仲間を増やした。しかしチュウスケの恨みは強く、それぐらいでは収まらないのだ。
怒りの眼差しが、出てきたばかりのブラックホールに注がれた。
「覚えていろチュウ」
魔法の杖をブラックホールに向けて呪文を唱え始めた。するとブラックホールがチュウスケのからだに吸い込まれ始めたのだ。見るからに恐ろしい光景が宇宙空間に出現した。
二人の手下は恐ろしさのあまり、口もきけないで抱き合いながら震えていた。
怖さのあまり目を閉じて、再び目を開けたとき、そこにでっぷりと太ったチュウスケが立っていた。ブラックホールは完全に跡形もなく消えていた。
吸い込みの技を覚えたのだ。
二人の手下は何もない空間に浮かんで、見えない地面に頭を擦り付けるようにしてひれ伏している。
「者ども、出発だチュウ!」
「へい、親分、分かったポン。」タヌキのポンスケが言った。
「へい、親分、分かったカウカウ。」カラスのカンスケが言った。
ポンスケもカンスケも、どちらもチュウスケが魔法で作り出した子分だ。返事が早い。
「でも親分、どこに行くのでポン。」
「黙ってついて来ればいいんだチュウ。」
「へい、ポンポン」
チュウスケ達は宇宙の闇の中に姿を消した。
つづく
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宇宙の小径 2019.7.20
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求めて来たこと
年を重ねるにしたがって
可能性が消えていく
それは仕方のないことだ
それはあたりまえのことだから
気にしないでいい
大事なことは
残されて
煮詰まってきた
可能性の中に
自分の本心が残されているかだ
何トンもの鉱石から
数グラムの貴金属を取り出すように
間違いなく本心が残されているかが
大事なのだろう
では本心とは何か
それは
心からやりたいことだと
思ってきた
心からやりたいこと
それは
しびれるほどの充実感だろうか
自分の人生の
純度がたかまるということは
他の可能性が消えていくということ
それは同時に
そこから
大きな可能性が生まれる
ということなのだろう
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