九、宇宙の勇者
「スケール号ですね。」
スケール号の翻訳スピーカに、突然優しい女性の声が聞こえて来た。スケール号の面々はびっくりして身を固くした。予想も出来ない声だった。
「あなたは、ピンクの銀河ですか。」艦長が緊張して答えた。
「わたしはメルシア、あなた方の探していたピンクの銀河です。」柔らかくゆったりした声だ。
「メルシアと言われるのですか。でもどうして私達のことを知っているのですか。」
「あなた方の事はよく知っています。あなた方は宇宙の勇者、よくここまで来られましたね。」
宇宙の勇者、なんてかっこいい、気持ちのいい言葉だろう。ぴょんたもぐうすかも、もこりんも、艦長も、その一言にすっかり気を良くしたのだった。
宇宙の勇者、宇宙の勇者、宇宙の勇者、みんなは心の中で何度もその言葉を繰り返して、自分がとても偉くなったような気がしていた。
「私はあなた方が来られるのを、こうして待っておりました。」
ピンクの銀河がスケール号にメッセージを送ってくる度に、銀河の輝きが波のように変化した。その光の変化が大きくなって、むくむくとガスのようなものが銀河の中心から立ちのぼって来た。そしてガスが形を取り始め、白光するローブをまとった美しい女性の姿になったのだ。
「驚かないで下さい。あなた方と話をしやすいように、私があなた方の意識の中に作り上げた、私の姿です。私はピンクの銀河、メルシア。どうか私の願いを聞いていただきたいのです。宇宙の勇者スケール号、どうか、私を助けて欲しいのです。」
「私達に何をして欲しいとおっしゃるのですか、メルシア。」
「やはりあなた方は宇宙の勇者ですね。信じていました。願いを聞いていただけるのですね。」
「メルシア、私達に出来ることなら喜んで。でもその前に、あなたは私達を知っていると言われたました。それでは、私達がここにやって来た理由もご存じなのですね。」
「知っています。」
「では神ひと様の事を教えていただけるのですね。」
「私の知っていることはすべてお話ししましょう。でもその前に私を助けていただきたいのです。時間がありません。私の大切な子供達が死にかかっているのです。子供達を救えるのはあなた方しかおりません。どうかお願いします。このとおりです。」
メルシアはひざをついてスケール号に頭を下げた。その目には涙が光っていた。
「メルシア、さあ、頭を上げて下さい。私達は必ず、あなたの力になりましょう。何をすればいいのですか。さあ、元気を出して下さい。」
「ありがとう、スケール号のみなさん。私は前に一度、あなた方に助けていただいた事がありました。ですから、今度もまたそうしてもらえたらと心から願っていたのです。私はこうして、あなた方が来られるのを心待ちにしていたのです。」
「一度助けたですって!?一体どこで?彗星モクモクの事ですか。」
「いいえ違います。それはあなた方が再びここに戻られたときにお話し出来るでしょう。そしてそれが神ひと様に会うというあなた方の手助けになると思います。」
「何のことなのか、よくわかりませんが・・・・。それより、私達は何をすればいいのか、詳しく教えていただけますか。どうすればあなたの子供達を救えるのですか。」
「私の病気を治していただければいいのです。」
「病気ですか。」
「あなた方が通って来た暗黒星雲のことを覚えていますね。あの中の子供達が死にかかっているのです。」
「あの赤い渦巻の中にいた星の赤ちゃんのことですね。」
「そうです。」
「でも、何が原因なんですか。」
「どうした訳か、子供達に運ぶ栄養が足りないのです。どこかでその流れが止められているのかも知れません。」
「そう言えば、赤い渦巻に流れ込んでいる宇宙の塵の量は少ないと言えば少なかったですね。その流れはほとんど気づかないぐらいゆったりとしていました。」
「どこかに、その流れを止めているものがあるようです。それが私の病気の原因なのです。あなた方の力で、それを取り除いていただきたいのです。流れさえ元に戻れば、子供たちは元気になります。それが出来るのはあなた方しかいないのです。」
メルシアは真剣だった。でもスケール号の面々は少し戸惑っていた。
今回の旅は、いつもの倍も時間がかかっている気がする。そろそろ艦長も乗組員たちも家に帰りたくなっている。 一刻も早く目的地に着きたいのに、メルシアの申し出はせっかく来た道を引き返す事になる。誰も本心は、そんなことより早く先に進みたいのだ。
艦長は迷っている。急いでいる事をメルシアに説明して申し出を断る方がいいのではないかと。
引き受けるべきか、断るべきか。艦長は一人で決めることが出来なかった。
「どうします、博士。」艦長は博士に聞いた。
「ここはまず、メルシアの願いを聞くしかないだろうな。」
「メルシアを助けてあげたいだス。でも、引き返すのもいやだスし・・・、」
「病気なんて、治せっこないでヤすよ。食料も少ないでヤすからね。あまりゆっくりできないでヤすよ。」
「メルシアの困っているのをほってはおけませんよ。病人をそのままにしておくことはできないでしょう。艦長。」ぴょんたが言った。
ぴょんたはお医者さんだ。ピピちゃんを助けるため、一人で黒い海に入っていった姿が今も皆の目に焼き付いている。(第3話)その姿を思い出すと、誰もぴょんたの意見に反対できなかった。
「もう一度逆戻りすることになるが、それでも行くと言うのだな。」艦長が念を押した。
「艦長、君の意識の中にはすでに、あの暗黒星雲のことは入っているだろう。つまり、やり方次第では、一瞬でそこに戻る事が出来るはずだよ。」博士が言った。
「なるほど、それならそんなに時間は取らないでヤすね。」
「とにかく行くだス。」
みんなの意見は一致した。艦長もそんな気になって来た。何しろ宇宙の勇者だ。困っているものをほってはおけない。ぴょんたの言葉がみなの心を動かしたのだ。
「メルシア、私達はこれからすぐに出発する。どうか元気を出して待っていて下さい。きっとあなたの病気を治して見せます。」
「ありがとう。心からお礼を言います。でもどうか気を付けて下さい。何か私の体に、邪悪なエネルギーを感じるのです。どうか無理をなさらないようにお願いします。」
「邪悪なエネルギーですか。分かりました。気を付けます。」
艦長の心に、何かの予感が走った。それはネズミの形をしていた。
「では、再び暗黒星雲に戻るぞ。」
「はい!」
「はいでヤす!」
「はいだス!」
「よし、行こう!」
艦長は心の中に暗黒星雲を思い浮かべ、そこに意識を集中させた。スケール号が暗黒星雲に到着する姿を心の中に念じて、艦長の頭の中がその思いだけになった時、スケール号の船体が小刻みに震動し、一瞬その姿が煙のごとくかき消えた。
つづく
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宇宙の小径 2019.7.18
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日照の恵み
今年の梅雨は随分遅かった
その分梅雨明けも遅れている
小さな庭で
キュウリの苗を二本植えていたら
成長して窓に良い日陰をつくるようになった
ところがある日
窓の上に伸びたつるが萎れていた
雨はよく降っているので
水不足ではないはず
首をひねっていると
そのうちに
日照不足で作物が育たないという
ニュースを聞いた
これもそうなんだとやっと腑に落ちた
確かにここ数日
まともに
太陽の光を浴びていない
それが
自分の身の回りに起こって
はじめて理解できる
キュウリに教えてもらった
日照の力である
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