のしてんてんハッピーアート

複雑な心模様も
静かに安らいで眺めてみれば
シンプルなエネルギーの流れだと分かる

北大 2

2009-08-23 | 小説 忍路(おしょろ)

私は食事をとるためにホテルを出た。好みの店を探す余力もなかったのでホテルのすぐ横あいにある小さな店に入った。「えずや」というどうにも腑に落ちない名をつけた、安い食堂であったが、中は一見して北大の学生相手の店だということが分かった。
 たくさんの漫画が本棚にあって、学生らしい青年が一人先客でいた。彼は漫画を見ながら大盛りのピラフを食っていて、私に気付きもしなかった。
 私は安いメニューを見ながら厨房に向って注文し、待つ間にもう一度ゆっくり店内を見回した。どこかの工事現場に設けられた飯場のように陰気で飾り気のない雰囲気の中で、漫画本のあふれた本箱だけが妙な活気を与えていた。
 その本箱のすぐ横にピラフを食う学生がいる。彼の眼は漫画に吸いついていて皿の方は全く見なかったが、しかし器用にピラフをすくっては過たずに口に運んでいた。
 幾分感心した面持ちで学生を見ているうちに、漫画の本箱の上に十数冊の大学ノートが立てられているのに気付いた。そのノートはどれの手垢で薄汚れていた。
 何気なく手に取ってみるとそれは学生たちの雑記帳だった。この店に集まる学生たちが気ままに自分の思いや日記などを書き綴っているのっだった。
 パラパラとめくって見ると、そのほとんどが北大の学生の記事だったが、中にはこの店の噂を聞いてやって来たという女子高生のものもあった。
 
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