「私のために悪いですから、札幌の街を見て帰ってください。」
一人取り残された里依子が小走りに私を追ってきて、哀願するように言った。私はそんなことはないと言い張った。
「一緒に帰らせてください。」
私はいくらかおどけた調子で言い、そんな身振りをして見せた。それを見て里依子は笑ったが、互いの心は張り詰めるばかりだった。
「私のために悪いから・・・」
里依子は何度もそう繰り返した。
「私はいつも自分で一番大切と思う事をしているんです。今はあなたと一緒に帰ることが一番嬉しいのです。」
追い詰められて私がそう言うと、
「私は、残っていただく方が嬉しいのです・・・」と、うつむいて弱々しく里依子の声が続く。
里依子の執拗な抵抗を受けて私はたじろぎ、やがてこれは一緒に帰っては困る里依子の側の理由があるのではないかと思い始めた。
けれどもそれを里依子に云う勇気がなかった。その理由が、もしもあるとするなら、私には耐えがたいことのように思われた。そしてまた、このままここで別れてしまうことも、私には耐えがたい事なのだった。
結局私は身動きできないまま、自分の気持ちを押し通す他はなかったのである。それが里依子を苦しめていると知りながら自分を責めても、どうすることも出来ない自分の姿を見て途方にくれるばかりだった。
HPのしてんてん
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます