(15)2009.12.14(幸せ)
どんどんと手が動く日は楽しそうだ
私が何も言わなくでも絵が進んでいく。
それが私の幸せでもある。
今日は出来上がった絵を前にして合評会をした。
「おばあちゃん今日はどんな楽しいことあったん?」
「そがなもん、なにもないけどの」
「黄色がいいね、青い風船が楽しそうに空に飛んでいきそうや。幸せになる絵やね」
「この紫が気に入らんのやけどの、どうしたらええのかわからんわ」
「このままでええ、このままでええでおばあちゃん。これは本物や」
「本物てか?」
「本物の絵は人を幸せにするんや。この絵はきっと人を幸せにする」
私は本気でそう思った。
「こがな絵がの?」 真顔で母は自分の作品を見る。
「ほれ、幸せになるやろ? 」
「わからんわ」 幸せそうな母の顔だった。
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イキイキとした母を見るのは久しぶりだった。
何も言う必要はなかった。
いつものようにスケッチブックとマーカーを渡すと
すぐに線を引き始めた。
その前から気持ちがたかまっていたのかもしれない
一気に
太い線が横に引かれた。
次々と、堰を切るような勢いに見えた。
私はそっと、汚れ物を持って部屋を出た。
母の勢いは、洗濯室で洗い物をする間も、私の気持ちを充実したものにしてくれた。
部屋に戻ってきても、母の集中はきれていなかった。
「そろそろ色塗るか」
「そやの」
いつものようにクレヨンを差し出すと、迷いなく色を塗り始めた。
私はこの時、これ以上の幸せはないと思った。
今、この母が金銀財宝に包まれていても、どれほどの幸せがあるだろう。
あり得ないことだけれど
もし母が誰からも惜しまれる有名女優だったとしても、それが幸せだとは思えない。
誰にも知られない
場末の貧しい一人の人として、
ただ想いのままに色を塗っているこの瞬間の母こそ、
幸せそのものではないだろうかと。
出来た絵について語り合った。
思えば中学を卒業して社会に出た私は、それ以後、心に降りてくる深い話をした記憶がなかった。
心の土壌で言葉を交わす、それは貴重な時間だった。
私の中に盛り上がった幸福感がそれを証明していた。
今もそう思っている。
→ そうや、そうや ♪
黄色が力強いですね。
この黄色の中にどれだけのパワーが秘められたのでしょうか。
青い風船は、どんな願いが込められているのでしょうか。
そうや、そうや 幸せになる絵・・ですね ♪
sure_kusa様にも、気に入って頂けたのでしょうか。ありがとうございます。
実は私が一番うれしかったのは、母がこの紫が気に入らないと言い出したことです。
絵を受け身ではなく、自発性の中から出た母の、いわゆる専門用語。
おーぅ、絵を語るようになってきた!!
でし^た^。^よ^