徒然なか話

誰も聞いてくれないおやじのしょうもない話

落語「清正公酒屋(せいしょうこうさかや)」

2013-08-08 16:49:36 | 音楽芸能
 熊本大学学術リポジトリは僕にとって格好のネット上の図書館となっているが、その中に「清正公信仰の研究 : 近世・近代の『人を神に祀る習俗』」という論文がある。加藤清正の死(1611)後、早くから、肥後國にとどまらず全国に広がった清正公信仰についての研究である。端午の節句の幟、錦絵などの題材、浄瑠璃、歌舞伎、講談などの演目にもなった清正公信仰がいかに庶民に広まっていたか、その裏付けとして「清正公酒屋」という落語を紹介している。

▼清正公酒屋(落語あらすじ事典 千字寄席)より

 酒屋の肥後屋の若だんなで一人息子の清七と、向かいの菓子屋・虎屋の娘お仲は恋仲だが、両家は昔から仲が悪く、二人は許されない恋。それというのも、もともと宗旨が一向宗と日蓮宗、商売が酒と饅頭で、上戸と下戸。すべての利害が対立している上、肥後屋は清正公崇拝で、その加藤清正は毒饅頭で暗殺されたという俗説があるから、なおさらのこと。もう一つ、虎屋だけに、虎退治の清正とは仇同士。

 というわけで、とんだロミオとジュリエットだが、この若だんな、おやじの清兵衛に、お仲を思い切らないと勘当だと、脅かされてもいっこうに動じない。勘当はおやじの口癖で聞き飽きているし、こっちは跡取りで、代わりがいないというバーゲニング・パワーもある。思い切れませんから勘当結構、早速取りかかりましょうと開き直られると、案の定おやじの旗色が悪い。結局、お決まりで番頭が中に入り、清七の処分は保留、「未決」のまま、お仲から隔離するため、親類預けということになった。

 そうなると虎屋の方も放ってはおけず、お仲も同じく親類預け。二人は哀れ、離れ離れで幽閉の身に。ところが抜け道はあるもので、饅頭屋のお手伝いと、酒屋の小僧の長松が、こっそり二人の手紙を取り次ぐ手はずができた。

 ある日、お仲から、夜中にそっと忍んで来てくれという手紙。若だんなは勇気百倍、脱走して深夜、お仲を連れだす。結局駆け落ちしかないというので、二人は手に手を取って夜霧に消えていく。

 しかし、しょせん添われぬ二人の仲。心中しようと決まり、ここで梅川忠兵衛よろしく、
「覚悟はよいか」「南無阿弥陀仏」
とくればはまるのだが、あいにく男の宗旨は法華(日蓮宗)。
「覚悟はよいか」「南無妙法蓮華経」・・・・・・
いやに陽気な心中となった。ナムミョウホウレンゲッキョウ ナムミョウホウレンゲッキョ と蛙の交配期のようにデュエットし、にぎやかに水中へドボン・・・・・・

 その時突如、ドロドロと怪しの煙。(ここで芝居がかりになり)「やあ待て両人、早まるな」「こはいずこの御方なるか」「おお我こそはそちが日ごろ信心なす、清正公大神祗なるぞ」「ちぇー、かたじけない。この上は改宗なしたる女房お仲の命を助けて下さりませ」「イヤ、たとい改宗なしたりとも、お仲の命は助けられぬわ」「そりゃまたなぜに」と聞くと清正、ニヤっと笑って「なあに、オレの敵の饅頭屋だから」