徒然なか話

誰も聞いてくれないおやじのしょうもない話

「ぞめき」のはなし。

2015-12-11 16:41:47 | 歴史
 長唄や端唄など、和楽では「ぞめき(騒き)」という言葉がよく出てくる。辞書には、「浮かれさわぐこと」や「遊郭や夜店などをひやかしながら歩くこと」「ひやかし客」のことなどとその意味が書かれている。「ぞめく」という動詞の名詞形が「ぞめき」。古い文献によると、遊郭の冷やかし客のことを京では「ぞめき」、江戸吉原では「とりんぼう」と呼んだとも書かれている。また、古くは「そめく」と濁らなかったそうだ。それではもともと「そめく」の語源はいったい何なのだろうか。
 ここから先は僕の推測にすぎないが、「そ・めく」から来ているのではなかろうか。古い言葉で「そ」というのは「馬を追うときの声」や「相手の注意を引く声」を意味する感動詞だ。例えば「万葉集巻十四」に

左奈都良の 岡に粟蒔き 愛しきが
   駒は食ぐとも 我はとも追じ

という歌がある。

「さなつらの岡に蒔いた粟の種を私の愛しいお方の愛馬が食べても私は追っ払うなんてことはしません」という意味。
「めく」というのは「春めく」とか「ざわめく」のように、「そのような状態になる」「それに似たようす」を表す接尾語だ。つまり、「そめく」というのは、まるで馬追いでもするように騒々しいことを言ったのではないだろうか。
 ちなみに江戸吉原では、冷やかし客のことを葦原(よしはら)に群生する「よしきり」に見立てて「吉原雀」とも言った。
※上の絵は鈴木春信の「張見世」