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日本映画の伝説的な名作といわれる、山中貞雄監督の遺作「人情紙風船」をBS2で初めて観た。観ながら、黒澤明の「どん底」も小泉堯史の「雨あがる」も山田洋次の「たそがれ清兵衛」も、みんなここに原点があったのだという思いを強くした。昭和12年(1937)、27歳の時の作品だというから驚きだ。27歳で、この江戸の市井の人々のペーソスが描けるというのは凄いことだ。黒澤明と同年代ながら、ひと足先に監督デビューし、28歳の生涯を駆け抜けた。黒澤を始め、多くの監督を目指す者の憧れの的だった男、山中貞雄。彼がもし、若死にせずに作品を作り続けていたら、どんな傑作が生まれただろうかと思わずにはいられない。俳優では、チョイワルの髪結新三を演じた中村翫右衛門の演技は素晴らしい。今日見ても、とても新鮮だ。