旅の疲れが抜けないまま、青森から帰ってすぐに県立海洋高校の授業で丸木舟体験会。
本当は小泊~筒石間往復10キロ航海をしたかったのだけど、授業のカリキュラムや天候の関係で防波堤の中での試乗会にとどまった。
それでも四年前の日本海縄文カヌープロジェクト設立時に、地元の海洋高校と連携したい旨を相談に行った。その時は対応に当たった事務方は取りつくシマもなかったのに、今回は現場の先生からの要望で実現したのが嬉しい。
海洋高校は年々入学者が減ってきており、そのことに危機感を持つ松本先生から海をテーマに新風を吹き込みたいのだと相談を受けたのが去年の冬のこと。
青いライフジャケットを着ているのが松本先生。山岳部顧問の山男だけど、漕いでもらったらガシガシと上手に漕いでくれた。まだ私の体力は回復していなかったので、後半は船尾の艇長役を替わってもらった。
微妙な年齢の高校生が相手だから、学校の授業でカヌーや丸木舟を漕がした場合、好奇心旺盛で熱心な生徒もいれば、白けた感じの生徒もいる。学校の先生は大変だ。
体験会の翌日からは、糸魚川市内の本町通りにある「糸魚川の町屋文化を守り伝える会」主催で、日本海縄文カヌープロジェクト展の開催。
今回は、日本海縄文カヌープロジェクトの設立時から、「海のヒスイ・ロード」航海実験まで、これまでの歩みが解るように工夫された企画展。
初日の夜は歩行者天国でもあったので、友人達が激励に来てくれた。
壁一面に日本海縄文カヌープロジェクト関連の新聞記事などを張り巡らす展示と、私のコレクションの縄文土器や石器など展示。
この会は、「ぴあにゃん」で有名な糸魚川出身の童話作家の小川英子さんが主宰しており、彼女の実家である旧倉又茶舗の町屋を使って様々な企画をしているのだ。
旧倉又茶舗さんの奥は、鰻の寝床そのままの町屋。
昔ながらの三和土(たたき)の土間があり、風が吹きぬけてくれるから真夏でも涼しい。
井戸も復活させたので、訪れた子供たちは井戸のポンプに取付いて、面白がって水を出していた。
7月27日には、私が講師の火起こし体験会も開催。
参加者には発火道具を作る所から体験してもらった。
発火道具作りをすることで火が起きる理屈を学べる。
個人的にはそこのところが最も重要だと思うし、小川さんもそのことに賛同してくれた。
参加者が作った道具で火が起きない・・・なんでだろう?
そこで指導者が道具や体の使い方をチェックして、どうして火が起きないかを教える。
場合によっては発火道具を直したり、発火の補助をしたりして発火に成功させる。
こんなプロセスがあってこそ、参加者は火が起きる原理が理解でき、体験会の後でも独自に発火に成功するのだ。
実際に発火法体験会参加が二度目のOさん親子は、私の指導無しでも発火に成功したので、周りの人の面倒をみてもらった。
成功した人が教える・・・いい循環である。
今回教えたのが手で竹を回転させるキリモミ式発火法と、小型の弓を使った弓キリ式、そして小学生でも比較的簡単に発火できる紐キリ式の3つ。
多くの地方自治体や博物館主催の火起こし体験会で教えているのは、丸い円盤を上下に動かして発火させる舞キリ式発火法が主流。
舞キリ式は、それほどの技術も体力もいらないという利点はあるが、発明されてから二百年ほどしか経っていない新しい技術。
そこの所を知らずに古代の発火法として教えている指導者が多く、また事前に揃えた道具を使わせるだけの内容が多いようだ。
これでは「やったことがある」というだけ経験であり、「できる」というレベルには程遠い。
自分の手で道具作りして、考え、工夫すること・・・このプロセスは外せないし、本来の体験会の意義や在り方だと思う。
発火に成功すると、やんやの喝采。
発火できなかった子供たちがいたとしても、こんな雰囲気を体験してもらうだけでも成功。
摩擦で起こした小さな火種をほぐした麻の繊維に包み、手で回して空気を入れると、突然に炎が立ち上がる。
参加者が「うわ~!」と驚く顔を観ることが私の愉しみ。
友人の青年会議所グループは、一度や二度の発火成功に飽き足らず、代わる代わる賑やかに何度も繰り返しキリモミ式に挑戦していた。
自分で起こした火で煙草を吸いたいという一念である(笑)
右端の嶋田君は、煙草に火を付けようとしている所。
苦労して火を付けた煙草は身に染みて本当に美味い。
子供たちに、大人が本気に遊んでいる姿を見せることは大事だ。
火起こしに飽きたり、諦めかけた子供たちが「えっ?そんなに楽しいの???」と、興味津々で周りに集まってくるのだ。
医者から禁煙を勧められていた人も、「美味そうだなあ~、もう禁煙止めた!」と火起こしに取り組み、煙草をふかす・・・おおらかな時間が流れていた。
子供の近くで煙草を吸うなんて、と苦情が出そうだが、「楽しい」という感覚を共有できている場では、多少のマナー違反は勘弁してもらいたい。
もちろん喘息の人の前では煙草は厳禁だし、嶋田君も煙草に着火した後は外に出て美味そうに吸っていた。
仕事は楽しく、遊びは真面目にというのが私のポリシー。
体験会も、御田植式のような最後の行程だけを体験させるようなことはしたくない。
自分で考え、遊びながら工夫すること。
こういった大人の姿を子供に見せることが大事だと思う。
これから三内丸山遺跡に預かって貰っているシーカヤックを引取りに行く。
軽トラに乗って、シーカヤック旅では訪れることのできなかった内陸部のヒスイ出土地や、博物館、埋蔵文化財センターを訪れるゆっくりした旅の予定。
この旅が終わって、初めて「海のヒスイ・ロード」実験航海が完結する。
帰ったら報告書作りと仕事、それに縄文土器つくり体験会が待っている。
今年も熱い夏。