奴奈川姫伝説の本家、糸魚川の奴奈川神社のどんどん焼き「お松っつぁん焼き」は、火起こし神事で始まる。
宮司さんは若い頃に伊勢神宮の忌火屋殿で奉職していた方で、三回も式年遷宮を経験しておられる稀有なお方。
火起こしは伊勢神宮方式の舞錐式発火法で、発火具も同じ物を使用している。
火きり臼は厚み2㎝ほどの檜製・・・和光大学の岩城教授の研究によると発火効率は厚み1㎝くらいが最適とされているが、神事なので発火効率は問題にされていないようだ。
火きり杵の先端は、カートリッジ式の山枇杷製。
火種を育てるおが屑は、匂いと煙くない事と着火効率がいいので、知人の大工さんから檜のおが屑を分けてもらうのだそう。
ゆっくり舞錐を上下させ、約1~2分ほどで火種を作り、おが屑の中に半分くらい埋もれさせた状態で火吹き竹で火種を育てる。次いで杉っ葉に点火して松明状に燃え盛った状態で境内のどんど焼きに着火という手順。
真っ赤に立ち上がるどんど焼きの炎は、雪国に春が近いと知らせる来訪紳。旧年中の達磨や注連縄、お札を焼いた後は、割った鏡餅を焼き、青竹で熱燗を付けて振る舞いになる。
雪国の人が過酷な生活に耐えられるのは、いつか春が来ると知っているから。
先祖代々、そうやって冬を耐え、春を待ち続けてきた。
雪に埋もれたぬなかわヒスイ工房
今日の糸魚川は晴れて、沖には能登半島も見える・・・春は近い。
糸魚川出身の相馬御風の作詞の童謡「春よ来い」の風景は、春を待ち望む糸魚川人の原風景と言える。
私のその話を聞いた富山の友人達が、2年前の12月に発生した糸魚川大火を支援するイベントで復興ソングに使ってくれた。
除雪の一服で食う蜜柑ほど美味いもんはなく、私はわざわざ雪の上に置いて冷やしておく。火照った体に甘酸っぱい果汁が浸み込んでく至福の時。暖かい蜜柑産地の人は思いもよらないだろう。お供え餅の一番上に鎮座まします黄色い蜜柑も、赤い火の神の象徴だ。
越後人にとって、モノクロの冬景色に映えるどんど焼きと蜜柑は春の予感。
天気も気持ちもハレバレするから春なのだな、としみじみ思う。
春を呼ぶ「けんか祭り」まで、あと三ヶ月!
その先駆けができる寺町区と押上区の男たちは果報者だ。