戦争のおきる仕組みと実態を知りたい人におすすめしたいのが、日活で1970年から3年間に渡って公開された「戦争と人間」全3部作。
昭和3年に関東軍(日本陸軍の中国方面隊)が独断専行で自作自演の「張作霖爆殺事件」を起こし、邦人保護を理由に戦争を起こしたのが「満州事変」で、ここから上海事変や日中戦争(支那事変)、そして太平洋戦争までの泥沼の「15年戦争」になった訳だ。
上海事変の発端はロシアが主張するウクライナ侵攻の理由に似ているが、その正当性の是非や結果は、後年の歴史家に委ねるしかない。
この映画は昭和初期から太平洋戦争直前のノモンハン事件までの10年間前後の史実を丁寧に描き、雑多な登場人物が綾なす群像劇の形式になっている。
日本側は財閥・軍閥・満州浪人・マスコミ・生活苦にあえぐ庶民(労働者や娼婦など)、中国側は国民党・八路軍(共産党軍)・匪賊(馬賊)・朝鮮族パルチザン・庶民など、それぞれの立場が公明正大にきちんと描かれ、ラブロマンスもある3時間の大作が3部作もあるのに、ダレ場も齟齬もない神がかった作品。
古くは東映の戦争映画大作、最近では「永遠のゼロ」や「男たちの大和」が典型だが、ヒットしても「戦争を美化している」と酷評もされた映画には共通の特徴がある。第一に人気俳優の起用と特撮が売り。
戦争を知らない世代が祖父に戦争体験を聞き、当時を回想して物語が始まるといったベタな展開、状況や心理を長ゼリフで説明して大仰な演技で表現、史実を切り張りしつつ在りえない漫画チックなエピソードで繋いでいくお涙頂戴のストーリーなどなど、深い哲学を感じない安易な大衆迎合的な傾向があるのだ。
その点、この映画のリアリティは凄いの一言。メインヒロインは財閥の令嬢役の吉永小百合さんだが、サブヒロインの身売りされた貧困層出身の娘役がどこかで観たような南国風の別嬪さんで、ググったら日活女優の夏純子さんと判明。
夏純子さんは小学生の時に密かに恋心を抱いていた「シルバー仮面」の妹役の人だった。子供の頃から南国風のキリリとした美人が好きという好みは変わってなかった(笑)
兵隊さんも将官も軍帽を脱いだら、野球部員みたいに額に日焼けの痕がクッキリなんていうのは一例だが、この映画は歴史学者や軍事評論家が観ても納得できるレベルの考証をきちんとしている。
登場人物ひとりひとりにもリアリティがあり、カメラワークもストーリー展開も魅力的で、映画の中に引き込まれてしまう。
すごい映画だと感動していたら、エンドロールに「監督 山本薩男」とあって納得。
山本監督は戦前の東宝の黎明期から活躍していた社会派監督で、最高傑作は全国の農協婦人部の義援金で撮った明治から高度成長期の農村を舞台にした「荷車の歌」ではないだろうか。
戦争映画は東映がファンタジー路線、東宝は実録路線、松竹は人情喜劇路線、日活は???とイメージがあったが、ヒーローが登場しない地味だが骨太な戦争映画に金を出したとは、日活もやる時はやる。
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