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世界遺産に登録されてから俄然脚光を浴びるようになった石見銀山とともに、近年観光客の足を集めるようになった温泉津。旅の僧侶が温泉で傷を癒している狸を見つけたのが開湯の縁起とされ、以来約1300年の歴史を有しており、今も昔と変わらぬお湯が湧き続けています。石州瓦の甍が続くしっとりとした温泉街を歩けば、絵画の風景に迷い込んだかのような心地がしてきます。
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なまこ壁の蔵が残る
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温泉街
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温泉津名物の薄焼き煎餅屋さん
この温泉津で一番古いお湯が「元湯」で、狸が湯浴みしていたというお湯は正にこの元湯のことなんだそうです。温泉津にはもうひとつ「薬師湯」という外湯がありますが、「薬師湯」は外来専門であるのに対し「元湯」は湯治のお客さんも来るようです。古い建物なので造りは至ってシンプルですが、縁に析出物がコンモリと付着した浴槽を見れば、お湯は決してシンプルでないことが容易に想像されます。
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吐出口の2~3メートル先で湧き出しているというそのお湯は、吐出口では無色透明ですが、浴槽では黄土色に混濁し、強い塩味と金気味に炭酸味を帯び、微かに土のような匂いが漂ってきます。また浴槽は源泉が直接投入される熱めの槽と、そこから幾分冷めたお湯が流れてくるぬるめの槽があるのですが、僅かな温度の違いによって二つの浴槽のお湯の色が異なっており、当然ですが熱めの方が湯冷めによる析出が少ない分透明度が高くなっています。熱めの浴槽に浸かると忽ち体が真っ赤になるほどで、10秒入るのがやっと。殆ど修行の世界でした。ぬるめの方もそれほどぬるい訳ではないのですが、それでもじっと浸かっていると体がお湯に馴染んできます。飲泉しながら入っては出るを何度も繰り返して、濃い温泉津のお湯を堪能しました。食塩泉だけあって、お湯から上がっても全然湯冷めしません。
一緒に入った地元の老翁は「いろんなところの温泉に浸かってきたけど、ここのお湯が一番だ」と自慢げに語っていました。地元の誇りに裏打ちされた歴史あるお湯に浸かれて、誠に至福のひと時。
ナトリウム-塩化物泉
49.7℃ pH6.1 59L/min 成分総計8.12g/kg
JR山陰本線・温泉津駅 徒歩20分(1.6km)
島根県大田市温泉津町温泉津 地図
0855-65-2052(長命館)
問い合わせ等は斜前の長命館で行っています
大田市観光協会温泉津支部
長命館
5:00~20:20 無休
300円
私の好み:★★★