温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

般若寺温泉

2014年01月24日 | 岡山県
 
奥津温泉の中心部から吉井川の渓谷に沿って下ったところにある一軒宿「般若寺温泉」は、元々は天台宗寺院の宿坊として開かれたんだそうでして、その後昭和30年代に看板を旅館に変えて今に至っており、現在でも日中でしたらは日帰り入浴を受け付けているのですが、たとえ日帰りでも事前予約制となっているため、一日に入浴できるお客さんの数は限られている、少々ハードルの高い温泉であります。私が当地を訪れた日の午前中に、ダメで元々の覚悟で電話をかけてみますと、運が良いことに11:00か12:00なら大丈夫との返答をいただきましたので、11:00に伺うことにしました。
道路に面した駐車場に車を止め、その脇から伸びるアプローチを下ってゆきます。


 
翠緑の柔らかな光が美しい竹やぶを下ってゆきます。途中の立て札には「ご予約のお客様以外の入園はお断りします」と書かれていました。オイラは予約してあるから大丈夫だもん。


 
緩やかな坂を下りきったところには、とても平成の世とは思えない茅葺屋根の伝承建築が佇む風景が広がっていました。昔話の世界に紛れ込んでしまったかのような錯覚に陥りながらこの光景をカメラに収めていますと、私の足元をスルスルっと真っ黒なカラスヘビがすり抜け、一瞬その場で動きを止めて様子を窺った後、ゆっくりと竹やぶの方へ姿を消していきました。ネット上では番犬が来客に向かってけたたましく吠え立てるとの情報を得ていたのですが、この時は犬の咆哮など少しも聞こえなかったので、犬の代わりにこのカラスヘビが歩哨をしていたのかもしれません。


 
素晴らしくフォトジェニックな母屋です。とても平成25年に撮ったとは思えず、カラーよりもセピア色の方が似合いそうだったので、画像の色を変えてみましたがいかがでしょうか。縁側から声を掛けますと、ご主人が笑顔で対応してくださいました。
お風呂は内湯と露天があるのですが、その両方を1組だけに貸し切る方式のため、先客が上がってこないと私はお風呂へ行くことができません。この時も先客のご夫婦が時間より少々遅く出てきたために私の利用開始時間も遅れてしまったのですが、先客を待つ間にはとても物腰の柔らかなご主人とお話して色々と教えていただきました。曰く、この温泉は川のすぐ傍にあるため、上流のダムの放水量によってはすぐに川に呑み込まれてしまい、その都度備品類を高いところへ上げたり、水が引いたら清掃したりと、増水の度に苦労しているんだそうです。また内湯と露天で使用している源泉は3つあるのだが、その3つ以外にもこの辺りはあちこちでお湯が湧いているんだそうです(ただ浴用に常用できるほどではないようです)。


 
先客の方がようやく身支度を調えて出てきましたので、入れ替わりに私がお風呂へ向かいました。
奥津八景の一つである「鮎返しの滝」を右手に見ながら、まずは内湯へ。そういえば、ご主人曰く、この川岸には頻繁にオオサンショウウオが出没するんだそうですよ。



お風呂と言われなければ倉庫と勘違いしてしまいそうな、コンクリ造りの小さい質素な湯小屋。秘湯好きにはたまらない風情です。


 
1畳半程しかない狭い脱衣室には、スノコの上にプラ籠が置かれているだけですが、寧ろこのシンプルさは質素な湯屋の外観にマッチしていますし、室内はきちんと手入れされていますので、簡素ながらも好感が持てます。なお壁の一部は天然の岩肌の崖を活用しており、その下の小さな棚には壺に流木らしき枯れ枝を挿した飾り付けが置かれていました。
私がここで着替えを済ませて、全裸というまさに丸腰状態になったちょうどその時、壁の隅っこで何やら動く影を発見…。何とここにもヘビがいたのでした。そこここから温泉が湧き出る場所ですから、その温かさにつられてヘビが集まっちゃうのでしょう。とはいえ、ここは元々宿坊ですから殺生は禁物。ヘビさんも私の醜い体から目を逸らしたかったのか、壁と戸の隙間に体をねじ込んでシュルシュルと逃げていきました。


 
質素で地味な外観とは裏腹に浴室内は、峡谷の荒々しい岸壁が入浴客を威圧し、お風呂ではなく洞窟の中に潜り込んだかのような雰囲気でして、その天然の岩肌も上屋のコンクリもグレーであるため、室内を占めるそのモノトーンな色調が余計に迫力を強調していました。
室内にはシャワーが1基取り付けられており、お湯のコックを開けると源泉が出てきました。


 
崖下の湯船は石を敷き詰められた岩風呂であり、容量としては2人サイズ。このお宿で使用している3つの源泉のうち2本を混合した上で湯船に注いでおり、湯使いは加温加水循環消毒が一切ない完全掛け流し、浴槽縁より2筋に分かれて溢れ出ていました。無色透明、清らかに澄んだお湯はほぼ無味無臭でクセが無く、肩まで湯船に浸かって肌を撫でたりお湯を掻いたりしてみますと、優しい浴感とともに滑らかなトロミが感じられました。




 
つづきまして、一旦内湯を出てから湯小屋の外側を回りこんで、露天風呂へと向かいましょう。ちょうど湯小屋の真裏にあるのですが、湯小屋の下足場にはツッカケが用意されているので、スッポンポンのままツッカケを履いて移動すればOKです。川に向かって垂直に落ちている断崖絶壁の真ん中、岩壁をへつった狭い足場の先っちょに、角がとれた三角形の小さな浴槽が据えられています。湯船の大きさは2人しか入れない小さなものですが、あたかも山水画のような奥津渓の美しい景色と一体になれるこの露天風呂は、他に類を見ないほど素晴らしいロケーションであります。絶景のみならず、頭上に高く聳える絶壁の迫力や、ちょっとでもバランスを崩したら直下の川に転落してしまいそうなスリリングな雰囲気もたまりません。

この岩を穿って造られたプリミティブな湯船には、内湯にも負けず劣らずの澄み切ったお湯が張られており、言わずもがな完全掛け流しの湯使いです。トロミのある内湯に対し、こちらはサラサラとした爽快感が前面に出ていました。


 
3つある源泉のうち、この露天には露天専用の源泉1本のみが使われており、槽内供給によって湯船にお湯を張っています。私の入浴時において、その供給口付近では40.3℃でしたが、槽内では38.5℃まで下がっており、「風呂ってもんは熱くなきゃいけねぇんだ」と仰る頑固親父には物足りないかもしてませんが、不感温度帯に近いこの湯加減のお陰で、逆上せること無くじっくり長湯することができますので、私も長湯しながら何も考えずに、ただただ景色をぼんやりと眺め続けました。日帰り入浴では一組当たり1時間の時間制限があるのですが、この露天に浸かっていると、1時間なんてあっと言う間に過ぎちゃいます。


 
ちなみに現行の露天風呂の奥には、このような空っぽのコンクリの構造物があるのですが、これは旧浴槽跡のようです。


 
上述の通り源泉は3つあり、いずれも敷地内で湧出しているのですが、湧出温度が異なっており(低い方から39℃、40℃、43℃)、平常時は本文中で述べたように2本混合を内湯で、43℃の1本を露天で使用しているのですが、内湯用の2本は温度が高くないため、冬には露天を閉鎖して、温度が高い露天用のお湯を内湯にまわしているんだそうです。湯小屋の手前にはこのような配管が剥き出しになっており、各配管を辿ると湧出地に行き着きます。



あまりに開放的で素敵な露天だったので、ついつい自分撮りしてしまいました。私はいつものように一人で利用しましたが、ここは是非ご夫婦やカップルなど、仲睦まじい人同士で湯浴みしていただきたいですね。こんなロケーションを有した開放的な貸切露天風呂なんて、個性あふれる温泉が余多ある日本でもなかなかお目にかかれません。敢えて余計な設備を排しているからこそ、その魅力が際立つのでしょう。


温泉分析表掲示なし

津山駅より中鉄北部バスの石越・奥津温泉方面行で「小畑」下車、徒歩10分(700m)
(奥津温泉の温泉街中心部より徒歩約20分(1.5km))
岡山県苫田郡鏡野町奥津川西20  地図
0868-52-0602

日帰り入浴10:00~16:00
1000円/1時間
事前予約制
シャンプー類あり

私の好み:★★★
コメント (2)
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