温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

大中山温泉

2014年01月26日 | 岡山県

半月に及んだ岡山県の温泉の記事も、ひとまず今回で一区切り。大トリは岡山県きっての珍湯「大中山温泉」にお出で願いましょう。この温泉施設を訪問するに当っては事前にネットでどんなところか調べていたのですが、検索して得られるページには総じて「B級」「コンテナ」「怪しい」「綺麗とは言えない」といったような、決してポジティヴではないワードが並んでおり、その上、施設側のホームページにも…
設備は決して立派ではなく、娯楽施設ではありません。温泉を掘り当ててから少しずつ、老夫婦が手作りのような温泉を営んできました。ネットでもたくさんの方たちが賛否両論の評価をしていただいて、本当に有難く思います。(ホームページより抜粋)
と自ら「賛否両論」と言っちゃっているのです。しかしながら、今までの湯めぐりの経験則にもとづいて考えれば、施設のB級感の強さとお湯の良さは比例する傾向にありますので、怪しい施設だからと言って訪問しないと後悔する可能性も高いわけです。何事も、行動しないで後悔するなら行動して後悔すべき、と言いますから、多少の負傷は覚悟して、旺盛な好奇心を満たすべく行ってみることにしました。

和気市の中心部から4~5km、山陽道の和気インターから2km弱、それぞれ国道374号線を南下してゆくと、国道沿いには上画像のような立派な看板が立っており、これを見る限りでは大きな規模のちゃんとした温浴施設があるんだろうと考えるのが普通です。この看板に誘われて、何も知らずに矢印の方向へハンドルを切った人も、今まで何人もいたことでしょう。でもその矢印に従って国道から路地へ入ってゆくと、早くも凸凹の激しい砂利道となり、本当にこの先に温泉があるのか不安になります。


 
砂利道を下っていった先には、工事の資材置き場のような荒涼とした風景が広がっており、その中央にプレハブ小屋やトレーラー用のコンテナが据え置かれていました。往年のドラマ「西部警察」だったら、間違いなくコンテナに隠れている犯人と銃撃戦の後に、大門団長が撃つショットガンに追われた廃車寸前のセドリックが突っ込んで大爆破されそうですし、あるいは戦隊ヒーロー物でしたら、ショッカー的な悪の秘密結社がヒーロー達と戦闘を繰り広げた挙句にやっぱり大爆破されちゃいそうな、はたまた「お笑いウルトラクイズ」でダチョウ倶楽部やたけし軍団の皆さん方が絶叫しながら爆破カースタントを受けていそうな、とにもかくにも爆破撮影が似合いそうな、温泉ではなく「アジト」という言葉がぴったりな佇まいなのであります。

そのコンテナには大きく「大中山温泉」と書かれており、その脇には申し訳程度に小さく「仮設浴場」と記されていました。ここに至ってようやく温泉施設であることが確認できましたが、資材置き場かと見紛うようなその状況に直面すると、果たしてちゃんと営業している施設なのか否かという、新たな不安が沸き起こります。国道沿いの立派な看板を見て、きれいな温泉に浸かれることを想像していたにもかかわらず、この佇まいを見て逃げ帰ってしまう方も多いことでしょう。小屋の裏手にある駐車場へ廻りますと、駐車場には車が数台とまっているので、訪えば何とかなるだろうと割りきって、プレハブ小屋へ向かったのですが、その入口の外側には靴がたくさん並べられているではありませんか。小屋には下足場が無いため、靴は外に出しっぱなしにしなけれならないのです。客商売している施設とは思えないその光景に怖気づきそうになる反面、怖いものを見たいという好奇心もフツフツと頭を擡げ、結局後者の方が勝ったので、私も先客に倣って靴を外側に放置し、プレハブのドアを開けたのでした。


 
プレハブの内部はいろんなものがゴチャゴチャ散らばって雑然としており、生活臭が強く放たれているのですが、雰囲気を表現する意味としての「臭い」ではなく、実際に嗅覚としての不快な「臭い」が充満しています。足元ではニャンコが徘徊していましたし、床にはネコの餌が散乱していたので、それらが原因の一つかもしれません。そんな室内にもかかわらず、入口のそばには券売機が設置されており、これで料金を支払うのであります。普通の人でしたら立ち入りを躊躇ってしまうほど雑然とした環境に似つかわしくないマシーンの存在こそが、客商売をしている証なのでしょう。私は意を決して券売機に500円玉を投入し、吐き出された券を傍のソファーで寛いでいたご夫婦に手渡たして、奥にある脱衣室へ向かいました。

その脱衣室も「衛生」や「清潔」とは程遠い雰囲気でして、茣蓙敷きの室内には錆びたガタガタのスチールロッカーが設置されており、無料で施錠できる点はありがたいのですが、トイレが近いからか臭気が侵入しているばかりか、ヨレヨレの雑巾が何枚も干されているので、表現のしがたい異臭が鼻を突いてきました。
また室内の片隅には姿見代わりの化粧台が置かれているのですが、埃にまみれている上にいろんなものが周りにゴチャゴチャ放置されていますし、台の上には一応ドライヤーも用意されているのですが、吸込口は埃で目詰りしていますし、その前に置かれた扇風機もやはり埃だらけでして、これらで風を吹かすと体調に支障をきたしそうな予感がしたので、手を付けないでおきました。


 
コンテナ外観の隅にちいさく「仮設浴場」と書かれていましたが、浴室はまさにその言葉がぴったりな造りで、壁や天井などあちこちが傾いでおり、サビやくすみが目立っています。うなぎの寝床のように細長い室内の手前側には洗い場が並び、その奥に浴槽が2つ設けられているのですが、5基のシャワー付き混合水栓が並ぶ洗い場の床に敷かれている石板タイルは、色に統一感がなくバラバラで、建材屋さんで余っていたものを適当に並べたような感じです。またシャワー下の台も、一見すると化粧板でしっかり作られているように見えるのですが、その実はコンクリブロックの上に俎板状の石板を置いただけという、とっても簡素なものです。なおシャワーとは反対側の壁にはフックがたくさん並んでおり、常連さんはここへお風呂道具やタオルを掛けていました。


 
浴槽は長方形で同じサイズ(5~6人)のものが2つ並んでおり、いずれもコンクリ打ちっぱなしで、その様相は金魚の養殖池を彷彿とさせます。浴槽傍の壁の隙間からは雑草が入り込んでおり、ワイルドな感すら受けます。この2つの浴槽は温度が異なっており、右側はやや熱めで43℃くらい、左側はぬるめで34~5℃くらいに設定されていました。源泉温度は19.5℃ですから両浴槽とも加温されたお湯が注がれているわけであり、右が熱くて左がぬるいという区分は日を問わず固定されているようですが、両浴槽の間に設けられた加温湯(ボイラーで沸かされた源泉)と冷鉱泉(生源泉)の蛇口を開閉することによって湯加減が調整できちゃいますから、常連さんは好みに応じてお湯や水を吐出させており、温度に関しては先客の好み次第でかなり上下するかと思います。ちなみに私がお風呂に浸かっていたら、浴場のご主人も湯船に入ってこられ、右側の槽に浸かって曰く「今日は熱い」と仰っていましたから、普段の右側槽は43℃より低いのでしょう。

さて肝心のお湯に関するインプレッションですが、見た目は無色透明で無味無臭、クセも無ければ柔らかさも無い、ごくごく普通の浴感です。強いて言えば、冷たい生源泉を口にした時には重曹泉的な清涼苦味が感じられ、また湯中ではそして引っ掛かり浴感が微かにあったような気がしますが、あまり自信はありません。2つの浴槽とも、源泉温度が低いために加温されていますが、加水循環消毒は行われていません。冷たい蛇口に至っては生源泉100%であり、入浴客の皆さんは必ずと言ってよいほど、入浴中にこの冷鉱泉を飲んでいらっしゃいました。といっても、溜め湯式の湯使いですからどうしてもお湯がなまりやすく、特に私が訪れた夕方は若干の濁りが発生していました。また浴槽の底には細かい砂利が沈殿しているのですが、ご主人曰く源泉は自噴しているそうですから、鉱泉と一緒に地中から上がってきて、お風呂に紛れ込んでしまうのでしょう。

私としては左側のぬるい浴槽が心地よかったので、たまに体温維持のために熱い浴槽へ入る以外は、ひたすらぬるい浴槽に浸かっていました。ご主人曰く、常連さんの中には私のようにぬる湯好きがいて、そういう人は皆さん1時間以上長湯するんだそうです。
35~6℃の湯船ですから、湯上がり後に逆上せることはありませんが、長湯したからか、あるいは鉱泉が秘めたるパワーを有しているのか、湯上がり後もしばらくは湯冷めせず、まるで体内に熱源を宿したかのように全身がポカポカし、やがて汗がじんわりと噴き出してきました。でも不快な熱の篭りは無く、爽やかなサッパリ感もあり、相反する感触が同時に感じられる何とも不思議な浴感なのであります。



雑草が隙間から入り込む浴室の窓から外を眺めると、このような設備が目に入ってきました。おそらく源泉井なのでしょうね。ご主人曰く、地下1000mボーリングしており、しかも自噴なんだとか。



入浴中にご主人といろいろとお話した後、私が遠方から来た人間だとわかると、帰る際にお土産として、パッケージされたこの温泉の源泉(鉱泉水)を手渡してくださいました。こちらの鉱泉水は、浴用のみならず飲用として持ち帰る方も多いんだそうでして、ご主人の説明によれば、この水は所謂「水素水」と称するもので、医者から見捨てられたような重病の患者さんがこの水を毎日1リットル飲んだら効果が現れたとして評判なんだそうです(ご主人は具体的な病名を言っていましたが、敢えてここでは触れません)。また健康な人でも、この水を飲んだら我慢できないほど利尿作用が強く働くとのこと。とはいえ、たとえ水を飲んで健康になれるとしても、浴場の環境が衛生という概念と隔たりのある状況ですから、入浴と飲泉を併用したところでその効果は相殺されてしまいそうな気もします。また、自分のブログだからこそ申し上げますが、私はこの手の話には眉にベッチョリと唾を付ける性格でして、あくまで伝聞としてお伝えするまでですから、水の効能に関しては各自でご判断願いたいのですが、尤も、病の治癒におけるプラシーボ効果はかなり大きいと聞きますし、薬漬けに陥るよりはこの水を飲んでいる方が、結果の如何はさておき、遥かに体への負担が少ないことは間違いないでしょう。水の効能や、お風呂の怪しげな雰囲気など、この温泉に関する全てについて、ご主人は「わかる人だけわかれば良い」と、まるでドラマ「あまちゃん」の花巻さんのようなセリフを語っていらっしゃいましたが、確かに信じる者こそ救われるのかもしれません。そして私のような一見の客にも商品である水を譲ってくださる優しさや、病に苦しむ人達に心を寄せて難病回復を願うその気持ちに、嘘偽りはないのでしょう。


単純弱放射能泉 19.5℃ pH8.1 湧出量測定不能(自然湧水) 溶存物質0.18g/kg 成分総計0.18g/kg
ラドン含有量31.3×10^-10Ci/kg 
Na+:24.0mg(50.24mval%), Ca++:20.0mg(48.31mval%),
Cl-:5.7mg(7.84mval%), SO4--:9.3mg(9.31mval%), HCO3-:95.4mg(76.47mval%), CO3--:2.1mg,
H2SiO3:24.6mg, H2S:0.1mg,
加温あり

岡山県和気郡和気町大中山池尻1798-1  地図
0869-92-0522
ホームページ

9:30~18:00頃 元旦および1月2日以外は無休
500円
ロッカー・ドライヤーあり

私の好み:★★
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする