今回から連続して北海道の渡島・後志・胆振エリアに湧く温泉を取り上げてまいります。その手始めは、函館のフェリー埠頭からさほど離れていないところにある「東前温泉 しんわの湯」です。津軽海峡フェリーで青森から函館へ渡っていた私は、景色を眺めるべく甲板に出ずっぱりだったのですが、潮風にあたっていたら当然ながら体が冷えきってしまい、一刻も早く体を温めたかったので、フェリーを降りてからすぐにこちらへと向かいました。国道227号沿いで周囲には何も無く、また道路沿いには大きな看板が目立っているので、迷うこと無く辿りつけたのですが、週末の夕刻という時間帯だけあって、広い駐車場には敷地を埋め尽くさんばかりの車が止まっており、人気の高さが窺えるどころか、相当混んでいることが察せられ、混雑を回避して利用をやめるべきか入館するか迷ってしまいました。
「ホテル秋田屋」や生鮮食品店が併設された建物に入って「しんわの湯」のエントランスへと進むと、その内部は食堂・軽食コーナー・マッサージルーム・床屋さん・ゲームコーナーなど各種サービスを兼ね備えたいわゆるスーパー銭湯そのものでして、ロビーホールはとっても広々しており、案の定多くのお客さんで賑わっていました。券売機で料金を支払い、券と下足箱(100円リターン式)の鍵をフロントに差し出して、その引き換えにロッカーキーを受け取ります。
こちらの施設は湯使いの良さを積極的にアピールしており、館内のあちこちにこのような文言が表示されていました。右(下)の画像には「ナトリューム泉」「アルカリ泉」と2種類の泉質名が表示されていますが…
こちらでは実際に2つの源泉が使用されており、それぞれ掛け流しの状態で供給されているのですから、大したもんじゃありませんか。しかも浴用のみならず、保健所から飲用許可もちゃんと受けているんですから立派です。浴室入口の手前にはこのような飲泉所が設けられていますので、両者を飲み比べてみました。
まず画像左手の「アルカリ泉」ですが、白い紙コップにお湯を注ぎますと、そのお湯は薄い褐色を帯びており、鼻を近づけますとふんわり且つほんのりとアブラ臭に近いモール臭が香り、僅かですが清涼感を伴う苦味が感じられます。分析表を見ますと泉質名は単純温泉でありまして、溶存物質は0.852g/kg、ナトリウムイオンが81.77mval%、炭酸水素イオンが91.75mval%といった数値が記録されており、そうした数値から見ますと純重曹泉に近いものであり、また知覚から大雑把に捉えればモール泉と言うこともできそうです。
一方「ナトリウム・カルシュウム泉」(以下「ナトリウム泉」)は極わずかに白く靄掛かっているように見え、口にするといかにも函館地区の温泉らしい特徴、即ちニガリ味を伴うしょっぱさが感じられます。この「ナトリウム泉」の湧出地は浴場の所在地と同一ですが、「アルカリ泉」の方は浴場からちょっと離れた国道の反対側となっており、わずかな位置の差でも全く異なる泉質のお湯が湧き出ることは実に興味深い点です(源泉井の掘削深度が全然違うのでしょうね)。
脱衣室も広々しており、洗面台もたくさん用意されているので、他客に気兼ねなくゆっく鏡の前で身支度を整えられます。一般的にスチールロッカーには、コインロッカーでしばしば採用される正方形に近いタイプと、企業やスポーツジムの更衣室で採用されるような縦長タイプに分類することができ、前者はいろんなものを収められる反面、衣類に皺ができやすい欠点がありますが、一方で後者はハンガーが使えるので衣類を綺麗に収納できる反面、幅が狭いので大きな荷物が入らなかったり、開閉時に隣の客と干渉しやすい傾向があります。ちょっと長い前置きになっちゃいましたが、こちらの施設で採用されているのは後者のタイプであり、しかも2段重ねとなっているのですが、たまたま私は下段があてがわれてしまい、また運悪く左右サイドのお客さんと開閉するタイミングがバッティングしてしまったため、使用時はかなり窮屈な思いをしてしまいました。でもこの構造のお陰で余多のお客さんの荷物を収容できるわけですから、これも致し方ないと考え、荷物を広いところへ移動させて着替えました。
まるで体育館を彷彿とさせるほど広い浴場は、そんじょそこらの旅館の「大浴場」が可愛く思えるほどの空間が広がっており、何十人という多くのお客さんが利用しているにもかかわらず、その広さのお陰でちっとも混雑を感じさせません。浴室は手前半分に洗い場が、残り半分に各種浴槽が配置されており、(男湯の場合は)洗い場には計46基のシャワー付きカランが何列にも分かれてズラリと並んでいました。なお各カランはオートストップ式の単水栓となっており、お湯(沸かし湯)しか出ません。また洗い場の左側には、サウナ・水風呂の他、打たせ湯など仕掛けのあるお風呂が並んでいました。
各種浴槽ゾーンに関しては、右側から中温「ナトリウム泉」(正しくは含塩化土類・食塩泉)、中温「アルカリ泉」(正しくは単純泉)の主浴槽、そして高温「ナトリウム泉」の順に各浴槽が並んでおり、「ナトリウム泉」のお湯は透明ながら微かに白く濁る一方で、「アルカリ泉」のお湯は薄い琥珀色ですので、浴槽における両者の違いは一目瞭然です。いずれの浴槽もたくさんのお客さんを擁しても余裕のキャパがあり、しかも各槽とも放流式の湯使いを実現しているため、ストレスなくおもいっきり足を伸ばしてゆっくり湯浴みをたのしむことができました。また浴室最奥のガラス窓沿いは小高くなっており、デッキチェアが並べられ、湯船から上がってクールダウンをする方々が、横になりながらゆっくり寛いでいらっしゃいました。
露天ゾーンにも多様な浴槽があり、好みに応じて入り分けることができます。具体的には、窓側(建物側)にはぬるめの「アルカリ泉」の寝湯、寝湯の隣のちょっと高い位置には「ナトリウム泉」の檜風呂、中央には「ナトリウム泉」が張られた屋根付きの円形主浴槽、その右側には「アルカリ泉」泡風呂、さらに奥にはぬるめの「アルカリ泉」が張られた周回コースの歩行湯・・・といった感じです。
浴槽によって2つの源泉が使い分けられており、一見すると漠然と分けられているようにも思えるのですが、ぬるくしてゆっくり入る寝湯や、湯中で体を動かす歩行湯、そして気泡を発生させる装置にお湯を通す泡風呂など、体への負荷が少ない方が良い、或いは機器への負担を軽くすべきお風呂には「アルカリ泉」、静かに全身浴して体を温める(且つ気泡発生装置等を通さずに済む)檜風呂や主浴槽には「ナトリウム泉」、というように、用途に合わせて泉質の特徴を上手く使い分けているのです。こちらのお風呂では規模の大きさや浴槽の多様性、そして掛け流される湯使いなどに関心が寄せられがちですが、こういう泉質に合わせた使い分けや配慮といった面も大いに評価すべきではないかと思います。
お風呂から上がった後、施設の裏手に回って、目の前に広がる函館郊外の夜景を眺めながら、火照った体を冷ましました。こちらの施設は温泉ファンからの評価が比較的高く、「鄙び」や「静寂」といった要素を愛するはずの温泉ファンが、どうしてスーパー銭湯を評価するのかわからなかったのですが、実際に利用してみてその訳がわかりました。規模が大きく、多種多様な浴槽に、2つの源泉を掛け流す、温泉資源の豊富な環境のメリットを存分に活かした素晴らしい入浴施設でした。混雑するのも納得です。
「ナトリウム泉」(湧出地:北斗市東前85-5)
ナトリウム・カルシウム-塩化物温泉 76.2℃ pH6.8 610L/min(動力揚湯) 溶存物質8.187g/kg 成分総計8.433g/kg
Na+:2004mg(65.34mval%), Mg++:167.8mg(10.35mval%), Ca++:580.1mg(21.70mval%),
Cl-:3649mg(78.37mval%), S2O3--:0.2mg, SO4--:722.7mg(11.46mval%), HCO3-:807.8mg(10.08mval%),
H2SiO3:106.7mg, CO2:246.3mg,
「アルカリ泉」(湧出地:北斗市東前3-47)
単純温泉 45.0℃ pH8.0 430L/min(自噴) 溶存物質0.852g/kg 成分総計0.857g/kg
Na+:152.7mg(81.77mval%), Ca++:12.5mg(7.64mval%),
Cl-:19.2mg(6.19mval%), HCO3-:488.8mg(91.75mval%),
H2SiO3:149.6mg, CO2:4.2mg,
北海道北斗市東前85-5 地図
0138-77-8000
ホームページ
5:00~23:00 年中無休
400円
ドライヤー(有料30円)・ロッカーあり、入浴道具販売有り
私の好み:★★+0.5