拙ブログでは連続して岡山県美作地方の温泉を記事にしていますが、美作三湯のうち既に湯原温泉と奥津温泉を取り上げていますから、残すひとつである湯郷温泉を取りこぼすわけにはいきません。近年では女子サッカーの「岡山湯郷Belle」によって俄然知名度が全国区になったこの湯郷温泉ですが、その実は1200年以上の歴史を有する由緒ある温泉でして、開湯伝説に登場する白鷺にあやかって、温泉街の中心部には大規模な日帰り入浴施設「鷺温泉館」があり、私が当地を訪れた時にも入浴客が次々に施設へと吸い込まれていました。でも私はそんな人達を尻目に「鷺温泉館」の前を通り過ぎ、その奥側に隣接している「村湯・療養湯」へと向かいました。大きな括りで言えばこの「村湯・療養湯」も「鷺温泉館」の施設の一つなのですが、事前調査によれば、その館内にあるお風呂の規模やお湯の質は、「鷺温泉館」の本館とは全然違うらしいのです。
「村湯・療養湯」の傍にはちいさなお社があり、小祠の手前には温泉のお湯が流されて、お堀のようになっていました。
参考までに、画像左(上)が「鷺温泉館」、画像右(下)は「鷺温泉館」や「村湯・療養湯」の前にある「足湯」です。いずれも観光客で賑わっており、駐車場では他県ナンバーが目立っていました。
「村湯」と「療養湯」は同じ平屋の棟に入っているのですが、それぞれ別施設として扱うべきものでして、「村湯」はその名前からも想像できるように地元民専用で外来者はお断りのお風呂ですが、「療養湯」は文字通り温泉療養を目的としたお風呂であり、一浴のみの外来客も利用可能なんですね。というわけで私は後者へ入らせていただきました。両者とも玄関は共通しており、入館してすぐ右手に番台があって、その前に設置されている券売機で料金を支払います。下足を脱いですぐのところには飲泉場が設けられており、1リットル未満なら無料持ち帰りも可能です。
繰り返しますが、温泉入浴による療養(つまり湯治)を目的としたお風呂ですから、飲泉場の隣にはこのように入浴方法に関する細かな説明が掲示されています・・・と言いたいところですが、この文言って温泉分析表別表に書かれている「浴用の一般的注意事項」そのものでした。
お風呂は男女別の内湯が一室ずつ。露天などはありません(その手の設備を求める方は「鷺温泉館」を利用しましょう)。脱衣室にはロッカーや扇風機などが用意されていますが、あくまでササっと着替えるためだけのスペースとして考えられているのか、3人同時利用で窮屈になりそうな広さしかありません。
また壁には手書きの張り紙が何枚か掲示されているのですが、その中でも注目すべきは「せっけん・シャンプーのご使用は固くおことわりいたします」という文言でしょうね。浴用による療養が主目的なので、洗体や洗髪は「鷺温泉館」の本館に行ってくれ、ということなのでしょう。
浴室に入った途端、タマゴ臭がプンと鼻を突いてきました。早くもお湯に期待させてくれます。壁に木材を用いた古風な造りの浴室は、一見すると集落の共同浴場を思わせるような質実剛健な造りですが、(画像には写っていませんが)浴室内を見上げてみると伝統的な湯屋建築の様式が採り入れられており、湯気抜きを戴く天井が結構高く、その天井を横切っている梁には立派な材木が用いられていて、歴史ある温泉地の浴場として遜色ありません。なお洗い場にはシャワー付き混合水栓が1基取り付けられています。シャワーがあるとはいえ、上述のようにシャンプー類は使用不可ですから要注意ですね。
窓の下には大小に2分割された浴槽が据えられており、槽内にはモスグリーンとエメラルドグリーンという緑系濃淡の小さな丸いタイルが敷き詰められています。右側の大きな浴槽は3人サイズで、お湯はこの浴槽の右側より槽内投入されています。湯加減は40~41℃くらいで、いつまでも長湯できそうな心地良い温度でした。一方、左側の小さな浴槽は1人用となっていて、左右を隔てる仕切りの下に空いている穴を通じて、投入口のある右側浴槽よりお湯を受けているため、かなりぬるくなっていました。いずれの槽の縁からもお湯が溢れ出ており、れっきとした完全放流式を実現しています。
浴室内の壁には、掛け流しをアピールするボードが貼り出されていました。湯郷温泉には多くの旅館や入浴施設がありますが、その殆どは循環されているかそれに近い湯使いとなっているらしく、こちらのように(加温されていますが)加水循環消毒が一切ない放流式のお湯を使っているのは、非常に珍しいそうです。
浴室に漂うイオウの影響で、水栓金具は真っ黒に変色していました。美作の温泉は無味無臭でクセのないタイプが多いため、このお湯のように個性を主張してくるお湯に巡り会えると、とっても嬉しいものです。
お湯は無色透明ですが、湯中には大小様々なサイズがある羽根状の湯の華がたくさん舞っており、右側の浴槽から桶でお湯を汲んだだけで、このようにその黒い湯の華がたくさん採取できちゃいました。この湯の華を手に取り、指先で擦ってみると、指が黒く染まりました。硫化鉄なのでしょう。
もちろんイオウ臭は湯面からも漂っており、口にするとタマゴ味の他、硬水味+うす塩味+弱い甘味が感じられました。湯中で肌を擦った際に感じられたツルスベ浴感がとても心地よく、数分全身浴していると、体中に気泡が付着しました。上述のように湯加減は40~41℃ですから、湯船に浸かってから数分は長湯したくなるのですが、イオウによる血管拡張作用のためかパワフルな温浴効果が発揮され、意外にも長湯できなくなってしまう(体が音を上げ始める)のが面白いところです。このパワーこそ療養に有益な効果をもたらすのでしょうね。私個人としては、岡山県の温泉で最も好きなお湯となりました。
混合泉(湯郷鷺温泉第3泉源・平成源泉)
ナトリウム・カルシウム-塩化物温泉 40.5℃ pH8.4 370L/min(動力揚湯) 蒸発残留物1.81g/kg
Na+:370.0mg, Ca++:250.0mg, Mg++:0.2mg,
F-:6.5mg, Cl-:1010.0mg, SO4--:16.0mg, HCO3-:17.7mg, CO3--:2.1mg, HS-:0.4mg,
H2SiO3:43.7mg, H2S:0.0mg,
加温あり(入浴に適した温度に保つため)
加水・循環・ろ過・消毒なし
岡山県美作市湯郷595-1(鷺温泉館) 地図
0868-72-0279(鷺温泉館)
8:00~20:00 無休
600円
ロッカーあり、他備品類なし(石鹸・シャンプーなど使用不可)
私の好み:★★★