温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

正徳寺温泉 初花

2015年07月05日 | 山梨県
 
今や甲州屈指の名湯としてその名を世に轟かせている正徳寺温泉「初花」。表通りから狭い路地に入った奥というわかりにくい立地であり、大きな看板を出しているわけでもないため、数年前までは地元の方と温泉ファンにしか知られていない存在でしたが、お湯の評判が各所へ及んでいるらしく、近年ではメジャーなガイドブックにも掲載されるようになり、ファンのみならず県内外を問わず、多くの人々から愛される温泉となりました。甲州の温泉めぐりでは欠かせない一湯であり、てっきり拙ブログでも紹介していたものと信じこんでいたのですが、よく調べてみたら未掲載だったことに気づいたので、先日(といっても半年前の冬)に再訪してまいりました。私もここのお湯は大好きでして、今回で5回目の利用になるかと思います。この「初花」で湯浴みした後は、併設されている食堂でうなぎを食い、帰りに界隈のワイナリーへ立ち寄ってワインを買って帰宅するのが、私のお決まりパターンであります。
なお、既に先達温泉ファンによる素晴らしいレポートが、ネット上で沢山アップされていますので、今回の記事ではあまり深入りせず、簡単なキャプション程度に留めておくつもりです。


 

受付から浴場棟へと向かう渡り廊下には、井戸から迸る大量の水を捉えた写真が何枚か展示されているのですが、この写真こそ正徳寺温泉の概要を端的に示すものであります。そもそもここは養鰻場だったのですが、ウナギの生け簀用として使っていた井戸水にミネラルが多く含まれていることを知ったオーナーさんは、一年がかりでボーリングにとりかかり、見事温泉の掘り当てに成功したんだとか。後述するようにこちらの温泉はトロトロでヌルヌルした浴感が特徴なのですが、そうした温泉が、ヌルヌル魚の代名詞である鰻の養魚場から湧いたというエピソードは実に面白く、何かの縁があるように思えてなりません。ちなみに同じ廊下には貝の化石も展示されているのですが、これは甲府盆地から富士川を下った県南部にある身延町で採集されたものであり、当地の地質と直接的な関係は無いようです。


 
浴場入口前には、鉢植えに囲まれたお湯汲み場があり、源泉のお湯がチョロチョロと滴り落ちていました。利用客はお湯を持ち帰ることができるのですが、ペットボトル1本が限度とのことです。


 
脱衣室にはロッカーが完備され、洗面台も綺麗に維持されています。ただ、縦に細長いロッカーをスペースをいっぱいに並べているため、混雑時には若干狭く感じるかも。


 
露天風呂やお庭に面する2方向に、大きなガラス窓が用いられている明るい浴室。窓側(左側)には2つの浴槽が、反対側(右側)には洗い場が配置されており、源泉のお湯が出てくるシャワー付きカランが8基並んでいます。なお浴室の中央には小さなかぶり湯槽があり、かなりぬるくした温泉が溜められていて、ぬる湯好きとしては、つい入りたくなってしまう温度なのですが、あくまでかぶり湯(上がり湯)専用ですから、入浴NGなんですね。


 
浴室内にある2つの浴槽のうち、露天風呂に近い位置にあるのは「高温浴槽」。つまり加温された温泉が張られているわけですね。容量は7~8人で、底ではブクブクと泡風呂装置が稼働しています。高温といっても頑固ジジイが唸りを上げるような熱さでは決して無く、私の体感で41℃前後という実に万人受けする適温にキープされていました。こちらの源泉は湧出温度が約34℃なので、「40℃以上じゃないとお風呂とは呼べねぇな」とおっしゃるコンサバティヴな入浴文化をお好みの方のために、一般的なお風呂の温度にまで上げているのでしょう。加温していながらも放流式の湯使いを採用しているのですが、投入量に対してオーバーフロー量が少ないので、循環が併用されているのかもしれません。


 
 
その左隣りにある「源泉浴槽」は、高温浴槽とほぼ同じ容量ですが、その名の通り非加温の源泉が投入されており、湯船はおおよそ35~6℃です。今回の訪問は厳冬の12月でしたが、入りしなこそ「ぬるさ」を実感するものの、不感温度帯のお湯ですから身体への負担が非常に軽く、いつまでも長湯でき、浸かり続けていると「ぬるさ」を忘れて非常に気持ち良く、むしろ体の芯から温まってくるような感覚すら得られます。もちろんこの湯船は夏に入ると実に爽快。長湯していると、心身が溽暑の疲れから解放されてゆくのが、体感できることと思います。もちろん湯使いは完全掛け流しで、湯量も豊富です。
ちなみにこの「源泉浴槽」の上には、山梨県の温泉界の重鎮であり、温泉ファンの間でもおなじみのT教授による紋切り型の解説が、地質の解説図と共に大きく掲示されていました。文章はともかく、この解説図は実に興味深く、一見の価値あり(県内の他の施設でも見られますけどね)。


 
広く趣きのある庭園の中に据えられた大きく開放的な露天岩風呂は、とても日帰り入浴施設だとは思えないほど立派な造りです。まわりには四季を感じさせる庭木が植えられており、この日は常緑樹以外ほとんどの木が落葉していましたが、辛うじて残っていたモミジが、枯れ色ばかりの冬景色に差し色のような鮮やかさをもたらしていました。この露天風呂ゾーンではメインの岩風呂を中心に、寝湯・サウナ・水風呂・蒸し風呂などバラエティ豊かな温浴設備がその周りを囲っています。



最奥に据え置かれた巨大な岩から、お湯が打たせ湯のようにドボドボと落とされています(おそらく季節により加温あり。この日は加温されていました)。ここだけでも結構な投入量なのですが、広い浴槽を満たすには足りず、温度不均衡も生じてしまうため、内湯に近い底面でも槽内投入が行われていました。こうした複数箇所からの投入により、湯船にはいつも新鮮なお湯が満たされており、しかも長湯仕様のぬるい湯加減ですので、湯疲れを気にせずいつまでも湯浴みし続けられました。なお排湯は、後述するサウナ小屋の方へ川をなして大量に流下している他、底面での吸い込みも確認できました。


 
上述の内湯「高温浴槽」とガラス窓を挟んだ反対側には、寝湯やジェットバスが一体となった槽が設けられています。いずれも2人分が用意されており、寝湯はSUSの手すりで区画分けされ、丸太の枕や木工の背もたれなどが取り付けられていました。この槽のお湯も温泉であり、全量が大きな露天風呂へと流れ落ちているようでした。


 
スーパー銭湯では必須となった人気の甕風呂ですが、こちらの施設では水風呂として使われています。この日は気温が10℃に満たない寒い日でしたので、私を含めて水風呂を利用する人は皆無でしたが、水温は17℃とのことですので、夏季にはとっても気持ち良いでしょうね。この甕風呂の奥には露天の水風呂槽もあり、25℃設定ですので、水風呂に入る瞬間の身が縮こまる緊張感が不快な方でも、こちらでしたらそのハードルがかなり下がって、意外とすんなり入れちゃうかもしれません。



本棟手前に建つ小屋はサウナ。その隣の、瓦で葺かれたトンガリ屋根の建物は…


 
 
「蒸し蔵風呂」と称する、一風変わったお風呂であります。石榴口のような低い戸を潜って中に入ると、薄暗い室内は真っ白い温泉のミストがムンムンと立ち込めており、スペースいっぱいに広がる岩風呂にドバドバと大量の温泉が注がれていました。低い天井の下で温泉が飛沫を上げているため、そのミストで蒸し風呂状態となっているわけですね。お湯は上画像の湯口だけでなく、底からの噴き上げもあり、浴槽に対するお湯の投入量は過剰な程です。ちなみにこの日は40℃前後まで加温されていたようですが、それでもしっかり放流式の湯使いとなっていて、浴槽の湯は出入口の下から川をなして、大きな露天風呂へと流れ出ていました。

さて肝心のお湯に関するインプレッションですが、見た目は薄い麦茶色で透明度も高め。内湯「源泉浴槽」の湯口に置かれているコップで飲泉したところ、各浴槽を赤茶色に染めている金気の味と匂い、重曹味、そしてほのかな甘味が感じられますが、匂い・味ともに薄くてマイルドです。湯中では細かな気泡が待っていましたが、この泡が体に付く時と付かない時があり、この時の入浴では付着しませんでした。なお館内表示によれば塩素消毒ありとのことですが、湯口にコップが置かれているということは、消毒薬を常時投入しているのではなく、清掃時に使用するなど限定的なものと思われ、実際に過去数回の利用において、入浴中の各浴槽から消毒薬臭を感じ取ったことは一度もありません。

「初花」のお湯が名湯たる所以は、いつまでも長湯できるぬるめのお湯を掛け流しにしていること、そしてこの源泉が有する爽快感を伴う極上のヌルツルスベ浴感を存分に楽しめることであります。トロトロと肌を優しく包み込む非常に滑らかなお湯は、まるで化粧水の中に浸かっているような錯覚をもたらし、誰しもがその浴感に感動して虜になること間違いなし。上述のようにカランも温泉ですから、シャワーを浴びた後の髪はコンディショナー要らずでツヤツヤです。このトロトロ湯に逆上せることなく、じっくり湯浴みできますし、しかも湯上がりの爽快感も極上で、肌もサッパリさらさら。エステで施術してもらった後のような、魅惑的な感覚を味わえます。何度入ってもここのお湯は素晴らしい。お風呂で寝ているお客さんをしばしば見かけますが、あの湯加減と浴感に包まれたら、夢の国へ誘われるのもむべなるかな。


 
冒頭で申し上げましたように、私が「初花」を利用する際には、風呂上がりに併設の食堂でうなぎを食べることがお決まりパターンとなっております。何しろこちらの温泉の本業は養鰻業ですから、美味しいうなぎをリーズナブルにいただけるんですね。注文するのはうな重の「上」(上画像・肝吸い付き)。ウナギに関するメニューは、近年の稚魚不足によって以前よりも値上がりしてしまいましたが、それでも都内で同等のうな重をいただくよりは、いくらか安いはず。お重の蓋を開けた途端に上がってくる魅惑的な芳香に思わずニンマリしてしまいます。蒸し焼きのウナギもフワフワでとっても柔らか(いわゆる関東風の焼き方です)。口に入れるとふわっととろけてゆきました。極上の湯浴みに続いて、美味いウナギをいただき、本当に幸せ…。


アルカリ性単純温泉 33.9℃ pH9.4 247L/min(自噴) 溶存物質345.3mg/kg 成分総計345.3mg/kg
Na+:67.1mg(97.99mval%), Fe++:0.3mg,
Cl-:7.6mg(7.29mval%), OH-:0.4mg, HCO3-:41.3mg(23.61mval%), CO3--:49.6mg(57.29mval%),
H2SiO3:165.2mg,
加温あり(入浴に適した温度に保つため)
塩素系薬剤使用(衛生管理のため)
ヘアキャッチャー使用

JR中央本線・春日居町駅より徒歩15分(1.2km)
山梨県山梨市正徳寺1093-1  地図
0553-22-6377
ホームページ

10:00~21:30 木曜定休
700円/3時間
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★★
コメント
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