岩手県の一関から厳美渓を経て栗駒山や須川高原方面へ向かう国道342号は、その途中で一気に本格的な山道へと様相を変えるのですが、その変化を見せる地点こそ今回取り上げる真湯(しんゆ)温泉です。こちらは公営の温泉施設であり、今回取り上げる「温泉交流館」のほか、宿泊用のコテージやアウドドア施設などが一体になっている公営の複合施設です。以前は「真湯山荘」という名称でしたが、2011年の夏にリニューアルオープンし、お風呂の造りや温泉の湯使いなどが良くなったという情報を得ていたので、満を持して今回伺うことにしました。
尖り屋根の共用玄関から館内へ入り、「多目的スペース」と称されている廊下のような空間を歩いて、受付があるロビーへと向かいます。
受付ロビーから今度は浴場入口ホールへと進むと、正面奥にカーペット敷きの小上がりが設けられており、それを挟むように右手が女湯、左手が男湯と分かれていました。
リニューアルオープンからまだ5〜6年しか経っていないので、脱衣室は綺麗な状態が保たれており、使い勝手も良いのですが、風情よりも機能性を重視した誂えになっているので、どちからと言えば温泉というよりはスポーツジムの更衣室のような雰囲気です。
内湯も実用性や機能面を優先したような造りであり、妙に明るくて床面積も広く、壁や床には白いタイルが、そして浴槽にはスカイブルーのタイルが用いられているため、お風呂というよりプールのような印象を受けます。
洗い場にはシャワー付きカランが7基設置されていました。
窓下に設けられた主浴槽は、スペードを半分に割って逆さにしたような曲線を描く形状をしており、収容可能人員は不明ですが、なかなかの広さを有しています。そして洗い場側は浅い造りになっていました。露天風呂出入口付近に湯口があり、洗い場側の湯尻にオーバーフローを受ける排水口が設けられていますが、浴槽内にもお湯の供給口と吸引口があるので、お湯の循環が行われているようです。しかしながら、湯尻の排水口からは、湯口からの投入量に見合うだけのお湯が溢れ出ているので、浴槽のお湯を循環消毒しながら、源泉の投入も同時並行で行う、循環放流兼用の湯使いなんだろうと推測されます。
小さな副浴槽は4〜5人サイズ。湯口からチョロチョロとお湯が落とされており、その影響なのかぬるめの湯加減になっていました。なお浴槽縁の切り欠けの外側(床側)には、オーバーフローのお湯が床に流れていかないよう、ガイドが取り付けられていました。
この内湯の主浴槽と副浴槽に用いられているお湯は「3号源泉」と呼ばれるお湯で、見た目は無色透明ですが、主浴槽の湯口には白い析出が少々こびりついているほか、浴槽底面のタイル目地が虹色に輝いて見えたり、湯面で陽光を青白く反射したりと、無色透明の硫酸塩泉らしい視覚的特徴が確認できます。また湯口から吐出されるお湯からは仄かながらはっきりとしたタマゴ臭が嗅ぎとることができ(湯口のみで、浴槽のお湯からは匂いません)、石膏感も得られました。
一方、露天風呂は櫓の下に浴槽が設けられたような趣きで、この櫓状の構造物により頭上は完全に覆われてしまっていますが、側面は柱以外に視界を遮るものはなく、周囲の森の緑に囲まれ、温泉浴と森林浴を同時に楽しめるような環境になっていました。
この露天風呂。明らかに内湯とお湯が異なっており、無色透明だった内湯とは対照的に、橙色に強く濁っています。それもそのはず、内湯とは別の源泉(鹿の湯源泉)を使用しており、しかも内湯と違って循環消毒のない放流式(いわゆる掛け流し)の湯使いを実践しているのです。季節によっては加温されることがあるそうですが、私が訪れたのは夏でしたから、加温も無い完全掛け流しの状態だったと思われます。
露天の湯口まわりには析出物がびっしりとこびりついていました。この湯口から注がれる時点でのお湯は無色透明で50℃近くありますが、外気に触れたり温度が下がったりするうちに、強い濁りを呈するようになるのでしょう。循環ろ過をしていないため、湯船のお湯は濁りや膜などを形成することがあり、事情を知らないお客さんのために、そうした事象についての説明が掲示されていました。
浴槽の底には沈殿がたくさん溜まっており、私が湯船の中を歩くと、真夏の積乱雲みたいにその沈殿がモクモクと舞い上がって、濁り方がますます強くなりました。浴槽内にはステップが設けられていたり、処々に岩が置かれていたりと、いろんな「トラップ」が仕掛けられているのですが、お湯の濁り方があまりに強いために、湯舟の中がどうなっているか目視することができません。このため受付で「お風呂では足元にご注意くださいね」と説明を受けましたが、なるほどその注意の通り、湯舟では慎重に歩かないと足指をどこかにぶつけて「痛てぇ」なんて叫んでしまいそうです。
上述のように湯口では50℃近くありますが、湯船では42℃前後というちょうど良い湯加減に落ち着いていました。加水なしでこの温度に保たれているのですから、湯量をコントロールすることで湯加減を調整しているのでしょうね。湯口のお湯をテイスティングしてみますと、まず金気味が口の中に広がり、遅れて芒硝や石膏の風味も感じられました(なお金気の匂いは弱めでした)。湯中ではギシギシと引っかかる浴感があり、細かな浮遊物が肌のシワに入り込んでまとわりついてくるような感覚すら得られます。お風呂はちょうど良い湯加減であるにもかかわらず、温泉由来の温浴パワーが強いのか、肩まで浸かって間もなく体がガツンと重くなり、長湯することができなくなりました。また、この露天風呂から上がってタオルで体を拭うと、タオルがオレンジ色に染まりました。内湯とは対照的な、あまりに個性的なお湯にビックリです。
癖のないお湯をご希望の方は内湯へ、いかにも温泉らしい濁り湯をご希望の方は露天風呂へと、使い分けできるのが面白いところですね。一回で二度美味しいこの温泉施設、私が訪れたのは平日の昼間でしたが、それでも常時5人前後のお客さんが利用しており、人気の高さが窺えました。
【屋内風呂】
真湯温泉(3号泉)
ナトリウム・カルシウム-硫酸塩温泉 51.2℃ pH8.7 溶存物質1088.4mg/kg 蒸発残留物1166mg/kg
Na+:195.4mg(57.74mval%), Ca++:120.1mg(40.69mval%),
Cl-:8.5mg, HS-:0.4mg, S2O3--:0.3mg, SO4--:699.0mg(95.03mval%),
H2SiO3:37.8mg,
(平成24年7月31日)
循環・消毒あり(浴槽衛生保持のため)
加温・加水なし
【露天風呂】
真湯温泉(鹿の湯)
カルシウム・ナトリウム-硫酸塩温泉 53.8℃ pH7.1 溶存物質2.294g/kg 成分総計2.310g/kg
Na+:210.2mg(27.57mval%), Mg++:35.2mg, Ca++:417.3mg(62.80mval%), Fe++&Fe+++:5.6mg,
Cl-:3.3mg, SO4--:1446.0mg(93.77mval%), HCO3-:114.8mg,
H2SiO3:56.2mg, CO2:15.6mg,
(平成17年8月16日)
加温する場合あり(入浴に適した温度にするため)、加水循環消毒なし
JR一ノ関駅より岩手県交通の須川温泉行き路線バスで「真湯山荘」バス停下車すぐ
岩手県一関市厳美町字真湯1 地図
0191−39−2713
ホームページ
10:00〜19:00(受付18:30まで)
600円
ロッカー(100円リターン式)・シャンプー類・ドライヤーあり
私の好み:★★