温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

多摩境天然温泉 森乃彩 (旧「いこいの湯多摩境店」)

2020年10月08日 | 東京都・埼玉県・千葉県
前回記事まで連続して九州の温泉を取り上げていましたが、今回は一旦東京へ戻ります。
私が最も数多く利用した温泉施設である町田市の「いこいの湯多摩境店」は2018年に突如として営業を中止し、その後復活することなく廃業に至ってしまいました。どうやら建物に何らかの問題が発覚し、安全上の理由で営業が続けられなくなったらしいのですが、平素からなるべく東京圏以外の温泉を取り上げている私もこの時ばかりは強い衝撃を受け、「Good bye forever! いこいの湯多摩境店」と題して拙ブログで悲しみの心情を記事に致しました。東京圏では屈指のクオリティを誇る温泉でしたので、是非とも復活してほしいと願い続けていたら、その甲斐があったのか、2019年にブログ読者の方から工事車両が出入りしているという情報が寄せられたため、同年初冬に現地へ行ってその様子を確かめ、「いこいの湯多摩境店に復活の動き」というタイトルで簡単にレポート致しました。
そして、ついに2020年10月1日、「多摩境天然温泉 森乃彩」としてリニューアルオープン!! 居ても立っても居られなくなった私は、さっそく開業4日目の10月4日に出かけてまいりました。


通りに面して建つ看板は、躯体こそ以前のままですが、名前はしっかり新しいものに掛け替えられていました。料金や営業時間が若干変更されたようですね。


駐車場のレイアウトや建物の外観など、いわゆる外見はほとんど以前と変わりありません。


強いて言えば、軒先の暖簾や提灯が新しくなった程度でしょうか。


玄関前に立っている、当地の温泉を「仙水の湯」と称している理由を説明した(どうでもよい)看板も以前のまま・・・かと思いきや、ちゃんと施設名が「森乃彩」に修正されていました。居ぬきのように見えますが、些細な箇所でも手直しするところはちゃんと直しているようです。

さて、旧「いこいの湯多摩境店」時代は東京電力系の不動産子会社が運営を始めた後、運営会社が何度か変わり、そして2018年にクローズへと追い込まれてしまったのですが、リニューアル後の「森乃彩」はよみうりランドが運営することになりました。よみうりランドは稲城市の温泉施設「季乃彩」やよみうりランド内の温浴施設「丘の湯」(非温泉)も運営しており、同社にとっては3箇所目の温浴施設となるわけです。私は今でも稲城「季乃彩」の回数券を購入して定期的に利用していますので、同じよみうりランドが運営していると知っててっきり不愛想、いや、あっさりした接客なのかと覚悟していたのですが、さすがにオープン直後だからかスタッフの皆さんはとても愛想よく対応なさっていました。

外観に大きな変化が無いように、館内も劇的な変化はありません。ただ、いくつかの変更点を確認しましたので、以下列挙致します。特に最後の(9)は私のような温泉マニアにとって非常に重要な変化点です。

(1)下足箱は以前のままだが、鍵にICタグが付けられた。
(2)退館時は自動精算機で支払い。

(1)と(2)は一つのセットとして捉えるべき変更点です。以前は入館時に受付で下足箱の鍵と引き換えに精算用のリストバンドを受け取っていましたが、リニューアル後は下足箱の鍵につけられたICタグで館内サービスの利用料金を管理し、退館時、出入口に新たに設置された自動精算機にICタグをタッチし、精算完了後にプリントアウトされるQRコードを退館用ゲートに読み取らせて退館する、というフローになりました。近年の温浴施設でよく見られる仕組みですね。とはいえ、自動精算機の反応がいまいち遅いうえに2台しかないため、出口では若干の滞りが発生していました。しかも今時珍しくクレジットカード未対応(現金のみ)というのは非常に残念。今後の課題になるかと思います。

(3)2階休憩ゾーンは当世風に改良
説明の順番が前後しますが、近年開業している他の温浴施設と同じようなサービス水準になるよう、2階の休憩ゾーンは大幅に手が加えられていました。具体的には、以前はお座敷だった窓側の空間にはリクライニングソファーがたくさん並べられ、多くの漫画本が本棚に陳列されていました。近年の温浴施設では漫画喫茶的空間を重宝する傾向にありますね。一方で別の部屋をお座敷に変え、これまた近年人気の大きなビーズクッションが用意されていました。さらに、1階にも休憩スペースが設けられていました。以前より休憩スペースが増加し且つ多様化したことは評価すべきかと思います。

(4)男女各浴場に向かう廊下に並行して、渡り廊下状の休憩スペースを新設
受付を過ぎて右に折れると、まず男湯の入口があり、そこから長い廊下を進んだ先に女湯が位置しています。この位置関係は以前と同様なのですが、この廊下に並行する形で窓のない渡り廊下のような板の間が増設され、長いベンチが置かれていました。お風呂上がりに風に吹かれながら涼んで休憩したり待ち合わせするのに丁度良い空間です。

(5)脱衣室は以前のまま
クロスの張替えや備品交換などリニューアルに際してクリーンアップされているものの、ほとんど変わっていません。でもロッカーは完全新品へ取り替えられました。以前より収納庫数が多く、これに伴い嵩も高くなっています。

(6)内湯もほとんど以前のまま
浴場内(内湯)も、私が見た感じではほとんど以前と変わっていないようでした。もちろん水栓などの修理は行われたのでしょうけど(どのシャワーも吐出圧力は良好でした)、特段目に付くような変更点はありません。いや、節穴だらけの私の目には映らなかっただけなのかもしれません。もし現地へ行ってお気づきの点があればご教示ください。

(7)ミストサウナは改装

(画像は公式サイトより拝借)
以前からこの施設のミストサウナでは、ヨモギを当てたスチームが充満している室内で、体に塩を塗り、ヨモギの香りに包まれながらしっかり発汗するサービスが提供されていました。リニューアル後も同様なのですが、その室内がすっかり改修されました。常に高温多湿の状態に置かれる部屋なので傷み方が激しかったのかもしれません。改修されたとはいえ以前同様にヨモギ塩サウナを楽しめますので、これも大きな変化とは言えないかもしれません。

(8)露天風呂はかなり変化

(画像は公式サイトより拝借)
大きな変化が見られない(と思しき)内湯に対し、露天風呂は分かりやすく変貌していました。
浴槽の配置自体は以前のままなのですが、以前の岩風呂「あつ湯」や「檜風呂」に設けられていた屋根が取り払われ、黒く塗られたパーゴラ風の屋根が岩風呂「あつ湯」のみに建てられました。また「檜風呂」が撤去され、その代わりに加水されたぬるめの温泉が注がれる石板張りの「くつろぎ湯」が新設されました。以前は上述のような屋根があったため、多少の雨でも入浴中には凌ぐことができましたが、リニューアル後は屋根が無く、あっても柱と梁しかないパーゴラですから、露天で雨を凌ぐことはできません。その代わり以前よりも開放的になったと言えるでしょう。

(9)泉質などが変化
さて、本記事における重要なポイントへとやってまいりました。
旧「いこいの湯多摩境店」時代の当施設で私が最も気に入っていたのは、施設の良し悪しでもスタッフの対応でもなく、お湯の質そのものでした。当地で湧く温泉は琥珀色を帯びた食塩泉で、モール泉のような特徴も兼ね備えており、芳しい香りを伴うツルスベ浴感が大変気持ちよかったものです。また湧出量が毎分438L、湧出温度が48℃もあったため、加水や加温することない掛け流しのお湯に入ることができました。多摩地区とはいえ都内でこれだけのハイクオリティなお湯を提供している施設は他になく、下手に遠方へ出かけるよりもはるかに良質な湯あみを楽しむことができました。当時の分析表(抄出)は以下の通りです。

ナトリウム-塩化物温泉 48.6℃ pH7.9 438L/min(動力揚湯・1700m掘削) 溶存物質2942mg/Kg 成分総計2957mg/kg、
Na+:1007mg(95.57mval%),
Cl-:1466mg(89.42mval%), Br-:4.3mg, I-:0.8mg, HS-:0.05mg, HCO3-:287.4mg(10.18mval%),
H2SiO3:31.6㎎、HBO2:97.6mg, H2S:痕跡
(平成16年1月27日)

さて、リニューアル&再オープンに際し、改めて分析が行われました。

その数値(こちらも抄出)は以下の通りです。

ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物温泉 31.6℃ pH8.24 蒸発残留物0.8457g/kg 成分総計1.016g/kg
Na+:250.9mg(88.77mval%),
Cl-:131.1mg(31.17mval%), Br-:0.1mg, HCO3-:489.9mg(67.65mval%),
H2SiO3:97.9mg, HBO2:2.1mg,
(令和2年3月10日)

まず泉質名が、ナトリウム-塩化物温泉からナトリウム-炭酸水素塩・塩化物温泉に変わっています。つまり以前は食塩泉だったものが、今では重曹メインの温泉になったようです。pHが7.9から8.24へと弱アルカリ性に傾いたことも、この泉質変化の影響ではないかと推測されます。そして特筆すべきは湯温と溶けている成分の量。湧出温度が48.6℃から31.6℃へ大幅に低下し、成分総計も2957mgから1016mgへと約3分の1にまで薄まってしまいました(本来ならば溶存物質で比較したいのですが、新データにその記載が無かったため、成分総計で比較しました)。

実際に私が露天風呂に入って実感したことは、お湯の色が以前の紅茶のような琥珀色から黒湯に近い濃い色へ変色した一方、匂いや味がかなり薄くなり、ツルスベ浴感も以前に比べると幾分パワーダウンしたという点です。また、以前は加温しないでも体が真っ赤になるほど熱かった岩風呂「あつ湯」は、以前と同じかけ流しであるもののしっかり加温されていました。源泉温度が31.6℃なので当然ですね。こうした私が実感した質的な変化は、上述の新しい数値によっても裏付けられるでしょう。どのような理由なのかは不明ですが、湯温が下がり薄まってしまったことは事実。営業再開に歓喜しながら露天風呂に浸かったにもかかわらず、このようなお湯の変質を体感した私は、歓喜の感情をどのように持っていったら良いのか複雑な心境になりました。
実はこのような泉質の変化は私も何となく予想していました。というのも、以前の施設が閉館される前から源泉のコンディションにはバラつきがあり、匂いや味がしっかり伝わるときもあれば、妙に薄い日もあったのです。ですからリニューアルに伴って薄くなったのではなく、以前からその現象は既に現れていたものと思われます。となれば、源泉かけ流しの「あつ湯」浴槽も、前施設の晩年においては、非加温を謳っておきながら実は加温されていたのかもしれません。
なぜ温度が下がって薄くなってしまったのか、その理由はわかりませんが、もしかけ流しに拘って長年お湯を汲み上げ続けた結果、地下水が浸入して希釈されてしまったのであれば、運営業者はともかく、無責任にかけ流しを持て囃す私たちユーザーサイドの意識を問い直す必要があるのかもしれません。草津や別府と異なり、東京圏の温泉は石油などと同じ有限の地下資源ですから、汲み上げ続けたらいずれ枯れてしまうのは当然のこと。地球が長い年月をかけて生み出してきた温泉という有限資源を、あっという間に使い果たしてしまうのは、地球に生きる者として無責任と言わざるを得ないでしょう。かけ流しの温泉は確かに気持ちよいのですが、今一度立ち止まってその使い方を考え直すべきなのではないか・・・復活した多摩境の温泉に入り、私はそう反省せずにはいられませんでした。

オープン直後なので混雑しているかと思いきや、意外にも大した混雑は見られませんでした。まだアピール不足なのか、あるいはコロナの影響なのか・・・。現代のニーズに応えるよう館内施設やサービスが新しくなり、またお湯も良質であることには違いありませんので、今後も時間を見つけて利用したいと思っています。リニューアル後も地域の方々から愛される施設になりますよう願うばかりです。


東京都町田市小山ヶ丘1-11-5
042-860-1026
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9:00~24:00(受付23:00まで)
3・6・9・12月の第2火曜定休
平日780円・土日祝 930円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤー完備

私の好み:★★+0.5

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コメント (6)
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