温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

上の湯温泉 銀婚湯 その4(貸切露天風呂「かつらの湯」「杉の湯」)

2013年01月06日 | 北海道
前回記事の続編です。
他のお風呂および館内に関しては、前回までの記事をご参照ください。
その1(客室・食事編)
その2(内湯「渓流の湯」「こもれびの湯」「せせらぎの湯」)
その3(貸切露天風呂「どんぐりの湯」「もみじの湯」)
その5(貸切露天風呂「トチニの湯」)


年始から連続して取り上げている北海道・上の湯温泉「銀婚湯」。
4編目となる今回は、前回に引き続き宿泊者専用の露天風呂にスポットライトを当てます。前回は赤い吊り橋を渡った対岸にある「どんぐりの湯」と「もみじの湯」でしたが、今回は橋を渡らず、橋の手前側(つまり旅館と同じ落部川の右岸側)にある「かつらの湯」と「杉の湯」です。


●かつらの湯
 
旅館からぐるっと回って吊り橋へ向かう途中、橋の手前右手に背高ノッポな桂が整然と2列に並ぶ並木道が伸びています。今回取り上げる2つのお風呂は、この並木道の先にあるんですね。ワクワクしながら砂利を踏みしめて歩みを進めます。


 
並木道を数十メートル歩いて左手に「かつらの湯」が聳え立っていました。玄関から歩いて4~5分の距離にあり、貸切露天の中では最も近いところに位置しています。こちらのお風呂は「もみじの湯」以上に砦のような外観をしていますね。スタジオジプリのアニメに登場しそうな佇まいで、巨大な岩の上に高床式のステージのような露天風呂が建てられているのであります。凄いな、こりゃ。


 
他の露天同様に天然の素材を存分に活かして周辺の環境と自然に調和しているのですが、「かつらの湯」という名前は、単に桂並木の道沿いに位置しているばかりでなく、脱衣小屋も桂の幹を刳り貫いて造られているんですから、これまた驚きです。

浴槽はステージ上の高床の下に据えられている巨岩を刳りぬいて造られたもので、湯船のフィーリングとしては「もみじの湯」に似ていますが、この巨岩のお風呂が地面に埋め込まれているのではなく、高床の上に設けられているということが不思議ですね。何も面白くさせようとして高床式にしているのではなく、大きな岩の上に湯船を刳りぬいたからこそ、その高さに合わせているわけです。こんなお風呂、他では滅多にお目にかかれませんね。どうやってこの巨岩を運んできたのかしら…。なおお風呂の周囲は塀で囲ってあるので、外部からの視線を気になさる方でも心置きなく湯浴みが楽しめるでしょう。

肝心のお湯ですが、他の貸切露天同様に川向1号・3号という2つの源泉の混合泉が用いられています。つまり落部川を渡ったお湯がここまで引かれているわけですね。貸切という利用特性ゆえに、各浴槽ともコンパクトなサイズなのですが、決して多くない源泉供給量に見合ったサイズであるとも言えますし、コンパクトであるからこそお湯の鮮度が維持され、常にシャキっとしたコンディションのお湯を堪能できるのかもしれません。

人間という生き物は高みに上がると誰しもが交感神経を昂ぶらせてアドレナリンを分泌しちゃうものですが、このお風呂では高い位置による興奮を得つつ、温泉に浸かって更に交感神経を働かせ、めちゃくちゃエキサイティングしながら「かつらの湯」での湯浴みを楽しみました。


●杉の湯

「かつらの湯」から並木道をさらに奥へ進むと、途中で鬱蒼とした杉木立に向かって右へ小径が分岐しています。



小径の先には、まるで集落を守る神様が祀られた祠のような小さな建物が、杉木立に守られるよにひっそりと佇んでいました。そのロケーションが「杉の湯」という名前の由来かと思われます。他の貸切風呂と異なり、ここだけは露天ではなく内湯です。


 
他の露天と異なり、このお風呂は施錠がしっかりしており、しかも施錠されるギミックがかなり凝っています。帳場で借りる棒状の入浴札を扉の横の穴に突っ込むと、特に音は鳴らないのですが内側のつっかえが傾いてカギが外れ、扉が開くようになっています。使用中は扉を閉めて、棒を所定の位置に差し込んでおくと、つっかえが水平状態で固定されて施錠されます。逆に内側から開ける場合は、つっかえを下から指でクイっと上げると引っ掛かりが外れて解錠される仕組みになっています。このギミックを設計し作り上げた職人さんって凄いですね。仕組みを理解するまで私は何度も施錠と解錠を繰り返してしまいました。女将いわく、このお風呂は他の貸切風呂と異なり、周辺の民家や道路から容易に辿りつけてしまうため、勝手に利用されないよう、カギを本格的なものにしているんだそうです。



戸を開けると、小さな窓から漏れ入ってくる薄明かりによって、真ん中に据えられてる浴槽がボンヤリと姿を現しました。室内に照明は無く、この窓から入ってくる明かりだけが頼りなのですが、私はこのお風呂を日没の時間帯に利用したため、入っているうちにどんどん暗くなり、やがて真っ暗になってしまったので、どうせ誰もここを覗きに来ることはないだろうと判断し、扉を半分くらい開けて辛うじて視野を確保しました。


 
フラッシュを炊くとこんな感じ。小さいながらも総木造の本格的な建築ですね。備品類は特に用意されておらず、桶と腰掛け代わりの切り株が置かれているだけです。
浴槽の隅っこには石材がセットされていますね。どこかで同じような石を見た気がするなぁ、と思いついて必至に脳味噌の引き出しを掻き回して記憶を探してみたら、この銀婚湯の女性用内湯「こもれびの湯」でも同じように浴槽隅に切り出された石材が立てられていることに気づきました。総木造の室内にアクセントをもたらすべくデザインとして据えられているのでしょうけど、もしかしたら石材に何らかの文字が彫られているかもしれず、それを読むかあるいは館内の案内を見れば、この石の意味がわかるのかもしれません。しかしながら、そういう細かな点に気付かない愚鈍な私は、ついぞ石の意味がわからないまま今に至っています。なお画像の右隅で見切れているのは湯もみ棒ですが、この時はちょうど良い湯加減だったために湯もみせずに済みました。



フラッシュ無しではこんな感じ。閉所恐怖症あるいは暗所恐怖症の方でしたら利用しにくいお風呂かもしれませんが、私のようにそうした点を苦にならない方でしたら、無音で薄暗い室内環境が却って入浴中に落ち着きをもたらし、何者にも邪魔されること無くじっくりお湯と対峙することができました。換気目的のためか外気もちゃんと入ってくるので、半露天のような雰囲気も楽しめます。
雰囲気の良い温泉は津々浦々に数多あれど、お湯と一対一でじっくり向き合えるお風呂って意外と少なく、「杉の湯」での入浴は貴重な体験となりました。露天も良いのですが、この「杉の湯」も深い印象を与えてくれました。


さてさて、銀婚湯の最終回となる次回は、私が貸切露天の中で最も気に入った「トチニの湯」です


川向1号・川向3号の混合
ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉 74.5℃ pH7.3 23.5L/min(混合) 溶存物質7.364g/kg 成分総計7.606g/kg
Na+:2265mg(93.83mval%),
Cl-:2203mg(58.07mval%), SO4--:953.1mg(18.54mval%), HCO3-:1521mg(23.30mval%),
H2SiO3:109.9mg, HBO2:136.8mg, CO2:242.3mg,


※貸切露天風呂は宿泊者専用です。日帰りでは利用できません。また夜間も使用不可です。

次回へ続く。
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上の湯温泉 銀婚湯 その3(貸切露天風呂「どんぐりの湯」「もみじの湯」)

2013年01月05日 | 北海道
その1その2に引き続き今回も「上の湯温泉 銀婚湯」です。
今回からは3編に分けて、銀婚湯の真骨頂といっても過言ではない宿泊者専用の貸切露天風呂5ヶ所をすべて取り上げていきます。この貸切露天風呂を巡りたいがために銀婚湯を宿泊する方も多いのではないでしょうか。かく言う私もその一人であります。まずは「どんぐりの湯」と「もみじの湯」から。


 
銀婚湯は5つの源泉を有しており、そのうち4つもしくは2つをブレンドして、館内の内湯や貸切露天風呂へ引いています。今回の話題とは関係ありませんが、画像左(上)は源泉1号、画像右(下)は源泉2号で、それぞれ本館の傍に位置しており、館内の内湯や露天で用いられているそうです。1号に関しては成分の関係で配管内にスケールが詰まりやすいので、加水して詰まりを防止しているとのこと。湯小屋と見紛うその姿に、私はてっきりここでも入浴できるものと勘違いしてしまいました。

宿泊者専用の貸切露天風呂は5つあり、それぞれが広い敷地内に離れて位置しています。
貸切露天を利用する際には、帳場で希望する露天風呂の入浴札を受け取ってから、その目的地へと歩いて向かいます。帳場に希望する露天の入浴札が無い場合は、既に他の宿泊客がそのお風呂を利用中ですから、そのお客さんが帳場へ札を戻してくれるのを待つか、あるいは他に空いているお風呂を利用することになります。このようなシステムですから、もし露天をハシゴしたくても、一旦帳場に戻って札を戻してから、改めて次に目指すお風呂の入浴札を受け取る必要があります。
なお多少の雨でも入浴は可能でして、そうした日には玄関でゴム長靴と傘を貸してくれます。


 
5つある貸切露天のうち、3つは落部川の対岸に設けられており、そこへ向かうにはこの赤い吊り橋を渡っていくことになります。注意書きによれば、この橋は一度に五人以上で渡ってはいけないみたいです。


 
吊り橋から落部川を川を眺めます。川底の石ひとつひとつがくっきり見える、非常に清らかな流れです。


●どんぐりの湯

渡り切ったら道が三方向に分岐しており、道しるべが立っています。
露天まで散策を兼ねてちょっとした探検気分が味わえるのが面白いところです。まっすぐ進むと「トチニの湯」、左へ折れて川上へ向かうと「もみじの湯」、右への川下方向へ往くと「どんぐりの湯」です。私が一番初めに入手できた入浴札は「どんぐりの湯」のものでしたから、ここでは右へ進みます。


 
落ち葉の絨毯が敷き詰められた落部川の左岸の爽快な遊歩道を、川下に向かってテクテクと歩きます。空気が清らかでとってもいい気分。
帳場から約7~8分、吊り橋から約3~4分で「どんぐりの湯」に到着です。森の中にポツンと佇む微笑ましい構えですね。


 
野趣あふれる雰囲気ですが、貸切施設としての役割を果すべく、扉は意外としっかりとした構造になっていて、帳場で借りた入浴札を戸の裏の穴に差し込むと、閂が動かなくなって鍵がかかるようになっているのです。これは他の貸切露天でも同様です。



戸から緩やかに右へカーブする階段を下りてゆくと、川岸に文字とおりドンクリのような可愛らしい形状をしている露天風呂が私を待っていました。絵葉書にできそうな明媚なロケーションと、可愛らしいお風呂に思わず一目惚れしちゃいました。




お風呂の傍らには、原木を製材せずそのまんま骨組みに用い、茅で側面を囲った小屋が建てられており、ここで更衣します。衣類用にカゴが2つある他、小さな置時計もひとつ用意されていますので、適宜時間を気にしながら他のお客様にも配慮して利用させていただきました。


 
湯船の一部にも屋根がけされているので、小雨程度でしたら支障なく入浴できるでしょう。 
オカメドングリのような真ん丸い浴槽は石や湾曲した自然木で縁取られています。湯口の樋にも自然に湾曲した木を刳り貫いたものが使われており、川向1号・3号源泉がチョロチョロと落とされていました。旅館内の内湯こちらと同じ源泉の他、旅館傍の2源泉も一緒にブレンドされていますが、こちらは川向の源泉のみでブレンドされており、川向の源泉の方が若干成分が濃いらしく、色合いも知覚面(塩味・出汁味・炭酸味など)もこちらの方が強く表れているように感じられました。また内湯と異なり、こちらは加水の無い完全掛け流しのようで、浴槽を満たしたお湯は槽の切り欠けから静々と溢れ出ていました。
清流を望む開放的なロケーションの中、自然木の質感と周囲の環境を存分に活かした、可愛らしい露天風呂でした。


●もみじの湯

さて続いては、上述の道標から川上へ向かったところにある「もみじの湯」です。「どんぐりの湯」の入浴札を一旦帳場へ返した上で、改めて「もみじの湯」の入浴札を借り、再び赤い吊り橋を渡って十字路を左へ向かいました。次々回で取り上げる予定の「トチニの湯」を含め、今回は吊り橋の対岸の露天風呂3つ全てを制覇していますので、入浴札を帳場へ戻したり借りたりするため、吊り橋を3往復したことになります。本来ならば連泊してゆったりとハシゴしてゆくべきなのでしょうが、生来の貧乏性とせっかちさが仇になり、悲しいかな、一気に攻めないと気が済まないのです。


 
川沿いの遊歩道は川岸からちょっと離れて森の間を抜けていきます。3つの露天を回遊路のように結んでいるこの遊歩道ですが、短いながらも景観は変化に富んでおり、またとても歩きやすいので、お風呂に入らずにただ散策するでも爽快です。朽ちながらも立っていた枯れ木にはサルノコシカケが分厚く育っていました。



「もみじの湯」は川の対岸にある露天風呂の中では吊り橋から最も近く、橋から2~3分歩けば着いちゃいます。玄関からですと6~7分といったところでしょうか。川岸の崖が目隠し代わりになっている「どんぐりの湯」と異なり、こちらは遊歩道側からも川を挟んだ対岸の旅館側からも視界に入っちゃうフラットな立地だからか、周囲の囲いはガッチリとした造りになっています。



あたかも砦のような雰囲気ですね。これなら敵に攻め込まれる心配なし! でも敵なんてどこにもいませんけどね。


 
こちらの脱衣小屋も自然の素材の味わいを活かして建てられていますが、「どんぐりの湯」と比べて一回り大きく、造りもかなりしっかりしており、ありがたいことに内部にはハンガーが用意されていました。
川に面して目隠しの柵が立っていますが、程よく隙間が開いているので、景観をあまり邪魔しません。銀婚湯の敷地内では一番立派なモミジの銘木が川の畔にせり出ており、その根元にお宿のスタッフが一年がかりで作り上げた露天風呂がこの「もみじの湯」なんだそうです。清流を望むこじんまりとした浴槽の頭上で、樹齢200年のもみじが泰然と枝を伸ばしていました。



対岸の下流側斜め前に旅館の建物が臨めます。冬場は木々がすっかり葉を落としてしまうので、柵以外に視界を遮るものがないんですね。といっても肉眼ではっきり見えるような距離じゃありませんし、銀婚湯に泊まるお客さんは皆さん紳士淑女が多いでしょうから、余計な心配はご無用でしょう。


 
銀婚湯の貸切露天風呂は、単なる露天ではなく、小屋やお風呂に用いている素材の全てが天然物であり、それゆえに周囲の環境と何らの違和感なく溶け込んでいるところが秀逸なんですよね。
「もみじの湯」において浴槽や湯口には岩が使われており、体を湯船に沈めるとしっくりとフィットする安定した入り心地に包まれました。この岩のお風呂ともみじの老木のおかげで、入浴中は落ち着きとゆとりが辺りの空気を支配し、軽くうとうとしてしまいました。
訪問時は雪こそ降っていませんでしたが、辺りの木々はすっかり葉を落として冬支度を調え終わった後でしたから、残念ながら紅葉を愛でることはできませんでしたが、秋にこの露天風呂に入ったら、さぞかし美しい紅葉に抱かれながら湯浴みすることができるのでしょうね。ちなみに「もみじの湯」は冬季閉鎖となるそうです。


貸切露天風呂はまだまだ続きますよ。
次回は吊り橋の手前にある「かつらの湯」と「杉の湯」です。


川向1号・川向3号の混合
ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉 74.5℃ pH7.3 23.5L/min(混合) 溶存物質7.364g/kg 成分総計7.606g/kg
Na+:2265mg(93.83mval%),
Cl-:2203mg(58.07mval%), SO4--:953.1mg(18.54mval%), HCO3-:1521mg(23.30mval%),
H2SiO3:109.9mg, HBO2:136.8mg, CO2:242.3mg,

※貸切露天風呂は宿泊者専用です。日帰りでは利用できません。また夜間も使用不可です。

次回に続く…。
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上の湯温泉 銀婚湯 その2(内湯「渓流の湯」「こもれびの湯」「せせらぎの湯」)

2013年01月04日 | 北海道
前回記事「上の湯温泉 銀婚湯 その1(客室・食事編)」の続編です。前回は館内の諸々やお食事に関してでしたが、今回からは温泉についてレポート致します。まずは館内の内湯および露天風呂から取り上げてまいります。


●渓流の湯

館内に2つある大浴場のうち、男性用浴場に設定されているのが「渓流の湯」ですので、まずはこちらから。
なお、夜中0時には男女浴室が暖簾替えされ、宿泊すればこの「渓流の湯」と後述する「こもれびの湯」の両方を楽しむことができますから、無論温泉バカの私は寝る間も惜しんで両方に入っております。
「渓流の湯」は奥行きの長い浴室であるため、入口および脱衣室は手前と奥の二手に分かれています。初見時は両者で何か違いがあるのか、もし当たり外れがあったらどうしよう、などと下らないことを考えてしまいましたが、こんな些細な事で無駄に妄想を膨らませるのは私のみならず多くの方にも当てはまるのではないかと、自らのバカっぷりを普遍的な心理現象であると自分に言い聞かせて気持ちを鎮め、とりあえず手前側の暖簾をくぐってみることに。


 
手前側の脱衣室は広くてひと通りの備品も備わっており、手入れもよく行き届いていて快適です。販促目的のお試し品など余計なものが排除されていることも好印象。


 
一方、奥の脱衣室はただ棚と洗面台が設けられているだけで、手前側脱衣室と比べて半分ほどの面積しかなく、ドライヤーなどの備え付けもありませんが、内湯と露天の両方へ直結している点は便利です。2つの脱衣室についてまとめてみると、手前側の方が広くてドライヤーがあって便利だが直接つながっているのは内湯のみ、奥はシンプルだけど内湯と露天の両方に直接行ける、といった感じになるでしょうか。まぁ特に大した違いは無いかと思います。なお、内湯から露天へ移動する際には構造上、どうしてもこの奥側の脱衣所を通過する必要があります。



浴室は落部川に沿って奥へ長く造られており、その長さは20メートル弱はあるでしょう。川に面してガラス窓が並び、窓の向こうには目隠しの木々を挟んで落部川が流れています。室内は経年を感じさせるやや古い造りですが、メンテナンスの状態が良いので快適に利用できました。浴槽は所謂岩風呂でして、ゴツゴツとした大きな岩が切り出された時の姿のままで配置されているのですが、夜の薄暗い状態で湯船に入ると、浴槽内で出っ張っている岩に躓きやすいので、私のようなマヌケな人間は念のため注意しましょう(実際に私は脛を打っちゃいました)。



川と反対側の壁面には混合水栓が9基一列に並んでおり、うち5基はシャワー付きです。一箇所ごとの間隔が広く確保されているので、隣のお客さんとの干渉を殆ど気にせずに済みます。なお、ここの洗い場に備え付けられているシャンプー類は、秘湯を守る会オリジナルのくまざさシリーズでした。


 
浴室の一番奥は壁一面が岩組みになっており、入浴客を圧倒するような迫力を放っていますが、かつてはこの岩からお湯が落とされていたような形跡が見られるものの、現在はその脇から突き出ている木の樋を混合源泉が流れて、浴槽へと注がれています。このお風呂では敷地内で湧出する4つの源泉を混合して使用しており、うち1号源泉は泉質の関係で配管内にスケールが詰まりやすいため加水して詰まりを防いでいるとのこと。若干黄色い笹濁りで、湯中では橙色のような湯の華が浮遊しています。加水以外の加温循環消毒は行われていない完全放流式の湯使いで、湯船のお湯は浴槽を形作る岩の隙間からオーバーフローしており、その流路の床は黒く染まってました。こちらのお湯は飲泉許可を得てませんが、ちょっと口に含んでみますと、出汁味が効いた明瞭な塩味と土類系の味が感じられ、何かが焦げたような香ばしい匂いが湯面からはもちろんのこと、浴室内にも漂っていました。湯加減の調整具合が絶妙で、いつまでも入っていたくなる心地良いお湯です。


 
奥側の小さな脱衣室を経由して露天風呂へ。
周囲は木々で囲まれており、梢の向こうからせせらぎの音が聞こえてくる、実に良い雰囲気です。今回は日没後に利用したため、日中の状態はわかりませんが、夜が更けて闇が深くなる時間でも照明を極力減らしているので、多少足元は見えにくいかもしれませんが、その暗さが却って落ち着き効果をもたらし、森閑とした環境の中で湯浴みしながら夜空を見上げて、煌々と輝く北の星空を眺めることができました。なお内湯と異なり露天では2つの源泉の混合となっているんだそうでして、トロミのある浴感が気持ちよく、外気に冷やされているためか内湯よりはややぬるめの湯加減だったのですが、むしろそのおかげでじっくり長湯させてもらいました。



●こもれびの湯

次に「こもれびの湯」へ。こちらは日中および夜中の0時までは女湯ですが、夜中0時以降は男湯へ暖簾替えされるので、宿泊すれば男性でも「こもれびの湯」に入浴することができるんですね。こちらは上述の「渓流の湯」よりも新しいお風呂なので、どこもかしこも明るくてピカピカしています。


 
脱衣室に入って感心させられたのが、一箇所ずつパーテーションでセパレートされた洗面台です。ここは普段女湯として使われているわけですが、女性はお風呂から上がって着替えをしたらメイクが欠かせませんよね。この洗面台ではアメニティ類を用意している他、このように仕切を設けることによってパウダールームとしての機能も高め、心置きなくメイクに専念していただこうという算段なのではないかと思われます。男でしたら全く気付かない点ですが、こうした女性に対するさりげない配慮が根強いリピーターを生むポイントなのかもしれません。


 
川側はガラス張りで採光バッチリの内湯。綺麗で新しいお風呂は、湯船に入る前から既に良い気分になれますね。大きな湯船は縁に質感の優しい木材が用いられ、隅っこにはワンポイントで石材が立っています。こちらも混合源泉で完全放流式の湯使いですが、「渓流の湯」よりもいくらかぬるめの温度に設定されており、これはもしかしたら大きな湯船でノビノビゆったりと入浴してもらおうという宿側の配慮なのかもしれません。


 
洗い場にはコの字状にシャワー付きの混合水栓が配置されているのですが、左側のガラス窓側には金属製のシャワーが採用されており、これによって全ての水栓にシャワーが装備され(他の施設でしたら、ガラス部分にはシャワーフックを設置できない、という理由でスパウトのみの水栓を設置することでしょう)、且つガラス窓から眺める景色も損なわれないという、実用性と景観面を兼ねた設計になっていました。


 
露天風呂は落部川に架かる赤い吊り橋付近に位置しており、「渓流の湯」同様に目隠しの木々が周りを囲っていますが、木の植え方が疎になっている部分があって、そこから川面の様子がはっきりと眺められました。私がここを利用した日はあいにく未明から雨が降っていたのですが、湯船の半分近くを屋根が覆っていたため、雨粒を気にせず入浴することができました。
こちらは2源泉混合のお湯で、やはり完全放流式の湯使い、ビタミンドリンクを彷彿とさせる山吹色に笹濁り、湯中では湯の華が浮遊しており、浴槽縁の岩には赤みを帯びた黄土色の析出が付着していました。出汁味+塩味+ほろ苦味といった味覚に焦げたような匂いが感じられ、こちらも体に負担なくゆっくり長湯できるややぬるめの湯加減となっていました。

ワイルドな男湯「渓流の湯」と、上品な女湯「こもれびの湯」、どちらも甲乙つけがたいのですが、私個人の感覚ですと僅差で後者に軍配を上げさせていただきます。



●せせらぎの湯

「こもれびの湯」入口の隣には宿泊客専用の家族風呂「せせらぎの湯」があり、空いていれば私のような一人客でも自由に利用できます。


 
家族で貸切って利用するお風呂ですから、まるで民宿みたいにこじんまりとした造りです。脱衣室内にはベビーベッドが置かれていました。幼い子供連れのお客さんでも、貸切風呂なら他の客を気にせず温泉を楽しめますね。赤ちゃん連れのみならず、体が不自由な方など、貸切風呂の需要って意外と多いんですよね。


 
四角形の浴槽とシャワー付き混合水栓がそれぞれひとつずつという、実にコンパクトな造り。でも銀婚湯のクオリティはこのミニ浴室でも遺憾なく発揮されており、お湯はもちろん掛け流しですし、浴室内のお手入れも抜かりなく、非常に気持ち良い状態で利用できました。備え付けのシャンプー類は他の内湯同様に秘湯を守る会オリジナルくまざさシリーズです。


 
一見何の変哲も無いように思われる浴槽ですが、縁には丸太が据え付けられており、これを枕にして頭を載っけて入浴すると実に気持ち良い。実用的な浴室にも細かな配慮を忘れていないんですね。素晴らしいです。

さて次回からは宿泊客しか利用できない、貸切の露天風呂を取り上げてまいります。
銀婚湯の本当の素晴らしさは貸切露天風呂にこそあるのです!


川向1号・川向3号・源泉1号及び源泉2号
ナトリウム-塩化物温泉 60.2℃ pH7.5 147L/min(混合) 溶存物質6.641g/kg 成分総計6.708g/kg
Na+:2033mg(91.31mval%),
Cl-:2098mg(60.76mval%), SO4--:896.4mg(19.16mval%), HCO3-:1101mg(18.52mval%),
H2SiO3:130.7mg, HBO2:129.5mg, CO2:66.9mg,

北海道二海郡八雲町上ノ湯199
0137-67-3111
ホームページ

日帰り入浴12:00~16:00 日帰り入浴は原則的に月曜お休み
(詳しくはHP参照のこと)
700円
シャンプー類・ドライヤーあり

次回につづく…
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上の湯温泉 銀婚湯 その1(客室・食事編)

2013年01月03日 | 北海道
あけましておめでとうございます。本年も何卒よろしくお願い申し上げます。

 
2013年第一回目は、その名も目出度い北海道・道南の名湯「温泉旅館 銀婚湯」からスタートを切らせていただきます。こちらのお宿は宿泊したお客さんが異口同音に絶賛なさっており、その誉を自分でも体験してみたく、昨年晩秋の某日、頑張って背伸びして1泊させていただきました。大変人気のお宿で、時期によっては予約が難しいこともあるそうですが、私のような一人客でも部屋が空いていれば快く受け入れてくれます。今回はお伝えしたい内容が多くなってしまいそうなので、全5回に分けて記事を書き綴ってまいります。第1回目は私が一晩お世話になったお部屋とお食事など、館内に関する諸々を取り上げます。

結論から先に申し上げますと、ぶっきらぼうな旅館が多い北海道にあっては非常に貴重な、まるで本州の高級旅館を思わせる素晴らしいホスピタリティと、北海道らしい気さくなスタッフの人柄が絶妙な調和を生み出しており、美しく爽快な自然環境と上質なかけ流しの温泉、そしてその自然をたっぷり味わえるいくつもの貸切露天風呂が、他に類を見ない個性的な魅力を訪問客にもたらしていました。再度訪れたい旅館は他にも数あれど、再訪は無論のこと、友人や親族にまで積極的に紹介したくなるほど、非常に印象的なお宿でした。



帳場前から2階へ上がる階段の踊り場ではクマさんがお出迎え。


●部屋
 
赤貧生活を送っている私は、一番リーズナブルなクラスのコース&お部屋(1泊2食で11,700円)をお願いしました。お部屋は旧館の一室で、レイアウトとしてはごく一般的な旅館の和室、トイレや洗面台は共用です。たしかに築年数は相当経っているのでしょうけど、メンテナンスが丁寧なのか、古さが全く苦にならないほど綺麗に整えられています。



旧館客室の窓から眺められる内庭は、内といっても背後に山林が広がる本格的な庭園で、周囲に人家などはありませんから、景色としても充分に満足できるものでした。



浴衣や丹前とともに用意されているのが、クローブの独特な芳香を放つ丁子染の足袋とタオル。


 
座卓に置かれているファイルの中には、源泉の使用状態や源泉の混合方法など、こちらの温泉に関する子細な説明や、宿泊者専用貸切風呂の案内図が綴じられていました。温泉に関する情報を積極的に開示する姿勢は素晴らしいですね。お宿のお湯に対する矜持が感じられます。なお、温泉については拙ブログの次回以降でレポートさせていただきます。


●夕食
 
夕食はお部屋出しです。まずはお品書きから。


 
 
繰り返しますが、お代は11,700円。にもかかわらず目の前には次々と、とても繊細で彩鮮やか、山海のバランスが良い本格懐石が並べられます。こんなに豪勢で秀麗なお料理をいただいていいのかしら。同じ内容を本州でいただいたら、間違いなく倍のお代を要するでしょう。抜群のコストパフォーマンスです。
お品書きを書き写してみますと…
小鉢:牛乳豆腐
前菜:ふくら豆五目煮、南瓜ポタージュ、クリーム新上、とうもろこし寄せ、青つぶ煮、
刺身:三点盛りあしらい
焼物:銀むつ西京焼
蓋物:湯葉八方煮
鍋物:鶏鍋、松永さんの玉子
揚物:海老・蟹、厚沢部の舞茸
食事:上の湯ななつぼし自家精米
上椀:きのこ汁
果物:ぶどう、梨


 
朝食は1階の食堂へ。献立こそ一般的な日本旅館の典型かもしれませんが、器は品が良く、料理も一品一品が丁寧に作られており、味や食感がとても上品なのです。こちらのお宿では朝食の玉子焼きに熱い思いを注いでいるらしく、卓上の器とともに並べられた説明には、近所の松永農場の玉子を使用しており、黄身は透明感のあるレモン色であるという旨が記されていました。たしかに画像右上に写っている玉子焼きの色もレモンイエローに近い色合いですね。近年の鶏卵は黄身の色を濃くするため色素を餌に混ぜようとする傾向にありますが、逆にこのような薄い色合いですと余計な物をニワトリに食べさせず、飼料であるトウモロコシの色が素直にあらわれていることがわかり、添加物などを気にする方でしたら安心できるかと思います。


●館内その他

1階の帳場奥には、薪をくべる暖炉が置かれたラウンジが設けられており、薪がバチバチとはぜる音を耳にしながら、ぬくもりの中で、観光ガイドや温泉関係の書籍、そして新聞を読むことができました。


 
帳場方面から館内の各浴室へ向かう途中には水琴窟が。耳を澄ますと底の方から美しい音が響いてきます。


 
館内のソフトドリンク用自販機はなんとEdy, nanaco, WAON,対応。
なお自販機ではビールなどの販売を行っていないので、アルコール類が買いたい場合は帳場へ。


 
長いイントロダクションもここまで。
次回からは拙ブログの本題であるお風呂を取り上げてまいります。


北海道二海郡八雲町上ノ湯199
0137-67-3111
ホームページ

次回に続く…
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