温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

湯の川温泉 ホテルかもめ館

2013年01月11日 | 北海道
 
前回取り上げた「富岡温泉」からバスで五稜郭方面へ戻り、ちょっと歩いて函館の名物ご当地ハンバーガー「ラッキーピエロ」で人気メニューの「チャイニーズチキンバーガー」を頬張って胃袋を満足させてから…



市電に乗って湯の川温泉へ。
湯の川温泉は空港から近いので、飛行機へ乗る前にひとッ風呂浴びたい時には便利です。


 
「湯の川温泉」電停の前には足湯があるのですが、この日は強風と小雨というあいにくに天気だったためか、利用者ゼロでした。


 
特にあてもなく、どこかで適当に入ってみようと漠然とした発想で温泉街を歩いていたところ、電停から5分ほどで今回取り上げる「かもめ荘」の看板が目に入ってきました。スマホで検索してみると、入浴のみの利用も積極的に受け入れており、朝6時から夜中0時までというかなり長い時間帯で入浴が可能、しかもお風呂はかけ流しの湯使いであるとの情報を確認できたので、こちらへ訪ってみることにしました。ネット上で公開されている温泉ファンの皆様の情報って本当にありがたいです。



後で知ったことなのですが、こちらは比較的廉価で気軽に宿泊できるお宿なんだそうですね。私が訪ったのは最も客がいない真っ昼間というタイミングだったためか、フロントは薄暗くて人の気配が感じられなかったので一瞬不安を抱いたのですが、声をかけたらすぐに女性スタッフの方がやってきて、快く対応してくださいました。


 
浴室は玄関と同じ1階にあり、フロントからも近い位置にありました。浴室入口の直前には100円リターン式の下駄箱が設置されているので、こちらで靴を脱ぎます。スリッパに履き替えてください、と案内されていますが、すぐ目の前が浴室なので履き替える必要は無いかと思います。



こちらの施設はスペースが限られているらしく、玄関から浴室までの間にある下足場や脱衣室などはギュッと凝縮されたようにコンパクト。なお、こちらの施設では岩盤浴(1,200円)も利用できるんだそうです。


 
限られた空間を有効に活かすべく階段下のスペースは小さな休憩室になっており、湯上りに水分補給ができるよう冷水が用意されていました。


 
浴室は改修工事を終えたばかりで、脱衣室にはまだペンキの匂いが残っていました。室内には無料で使えるロッカーの他、洗面台が2台据え付けられています。さすがに工事直後だけあって、どこもかしこもピッカピカ。



ただでさえこぢんまりとした室内空間ですが、その真中に太い柱が立っているため、この柱が余計に圧迫感をもたらし、動線を邪魔しちゃうのが残念なところ。でも柱は撤去するわけいきませんから致し方ないですね。



お風呂は男女別の内湯のみで、窓に面してL字を逆さにしたような形状の浴槽がひとつ。
薄い桜色に塗装された浴室内には、塗りたてのペンキの匂いが湯気とともに充満していました。改修されたとはいえ、建物自体の築年数が相当経っているため、確かに綺麗ではありますが、厚化粧をして皺や肌荒れを必至に誤魔化すオバサンみたい・・・。


 
室内左右に洗い場が配置され、シャワー付き混合水栓は計6ヶ所。


 
湯の川温泉といえば激熱で有名ですが、その定説を裏付けるように浴槽の縁にはかき混ぜ棒が用意されています。入浴前にしっかり湯もみしなきゃいけないな、と心の準備をしながら試しに手を湯船へ突っ込んでみると、あれれ?全然熱くないぞ…。温度計を突っ込んでみたら湯加減は40.6℃でした。一般論としてはちょうどよい湯温なのですが、ヤワな他所者には決して媚ない熱湯風呂でお馴染みの湯の川らしくないぬる湯に、力んで臨んでしまった私はちょっと拍子抜け。あらゆる方が利用する旅館という施設の性格上、あえて万人受けする温度に調整しているんだろうと推測されます。


 
湯口は析出で瘤取り爺さんみたいにコンモリしており、そこから突き出たパイプにはガーゼが巻かれていました。またパイプの上には木の棒が突っ込んであり、それを抜いたり挿したりすることで湯量を調整するようになっていました。湯口から出てくる時点では55.7℃という湯の川らしいアツアツのお湯ですが、訪問時は木の棒がしっかり差し込まれて湯量が絞られていたため、結果として湯船の温度が大人しい状態になっていたわけです。このように熱いお湯を加水することなく投入量を絞ることによって温度調整すれば、多客時にお湯が汚れやすくなるデメリットを孕んでいるものの、お湯の成分が薄まること無く濃いまんまで湯浴みできますから、私としては高く評価したいと思います。なお、浴槽内での吐出や吸引は確認できず、浴槽縁の上を静々とお湯がオーバーフローしていましたので、おそらく放流式の湯使いでしょう。

9つの源泉をブレンドされているこちらのお湯は、いかにも湯の川らしくほぼ無色透明ながら微かに白く靄がかっており、口に含むと甘塩味+弱ニガリ味+石膏味+薄出汁味+微金気味がミックスされて感じられました。当初はぬるめだった湯船ですが、しっかり熱いお湯に入って湯の川に来たことを実感したかったので、湯口の栓を抜いて源泉投入量を増やし、他のお客さんに迷惑がかからない程度(43℃)まで熱くさせていただきました。等張性の食塩泉なのでよくあたたまり、湯上りはしばらく外套が着られないほど体が発熱しつづけました。
空港連絡バスのバス停(湯の川温泉)にも近く、しかもリーズナブルで使い勝手も良さそうなので、今度函館を訪れるときには、ビジネスホテルではなくこちらでお世話になろうかな。


湯川3丁目源泉イ号井~オ号井混合(イ・ロ・ハ・ニ・ホ・ト・チ・リ・オの9源泉)
ナトリウム・カルシウム-塩化物温泉 63.5℃ pH7.0 2030L/min(動力揚湯・混合) 溶存物質8.777g/kg 成分総計8.952g/kg
Na+:2147mg(64.85mval%), Mg++:188.2mg(10.76mval%), Ca++:622.8mg(21.58mval%),
Cl-:3872mg(77.78mval%), SO4--:802.0mg(11.89mval%), HCO3-:880.5mg(10.28mval%),
H2SiO3:80.5mg, HBO2:26.0mg, CO2:175.1mg,

湯の川温泉電停より徒歩5分、または空港シャトルバス or 函館駅より函館バスの6系統(日吉営業所行)あるいは五稜郭から86系統(啄木小公園循環)で「湯の川温泉」下車徒歩1~2分
北海道函館市湯川町1-5-18  地図
0138-59-2020
ホームページ

日帰り入浴6:00~24:00
500円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり

私は好み:★★
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函館市街 富岡温泉センター 家族風呂

2013年01月10日 | 北海道
道南での湯めぐりを終えて飛行機で羽田へ戻ろうとした某日のこと、定刻通りに飛行機へ乗り込み、ドアが閉じられてボーディングブリッジが離れていったは良いが、滑走路に出ようとした時から機体は微動だにしなくなり、やがて機長から「エンジンが動かなくなった」というアナウンスが流れ、小一時間機内で待ってから再び空港の待合室へ戻り、更に一時間待機の後に欠航が決定。係員よりお詫びの1000円をもらってから空港カウンターに並んで振替の手続きをするものの、この日の便は既に出払っているため、明日の便になってしまうとのことだったので、転んでもタダでは起きない私ですから、それなら折角だから函館でも湯めぐりしちゃえと思いつき、航空会社が用意してくれたホテル(東横イン)に宿泊した翌日、振替便が出る時間まで市街地で温泉をハシゴすることにしました。まずは昭和方面にある「富岡温泉」を目指します。


 
函館駅より路線バスに乗って「桐花通中央」バス停で下車。


 
横殴りの雨が降る中、バス停から歩いて2~3分ほどで目的地に到着です。こちらは函館によくある温泉銭湯ですが、週末のみ家族風呂が営業しており、他人を気にせずゆっくり入りたかったので、今回はその家族風呂を利用します。



浴場からのお湯が捨てられる周囲の排水溝からは湯気が朦々と立ち上がっています。



3階建ての1階は駐車場、2階は公衆浴場、そして3階が家族風呂といったように階層によって分かれているので、エレベーターで3階へ上がります。



下足箱は銭湯らしい松竹錠です。
週末しかオープンしない3階にも専用の受付があります。この日はおばあちゃんがカウンターに座って店番しており、私が旅行者だとわかると「こんな酷い天気なのにバスに乗ってきたの?」と驚いていらっしゃいました。料金は先払いで、代金と引換にお風呂の個室の番号が書かれた札を受け取ります。



廊下の両側に家族風呂(個室)の扉が並んでいる光景は、帯広の「たぬきの里」を思い起こさせます。天井には剥き出しの配管が這っており、各室へと分配されていました。



個室群と並んでパウダールームも設けられており、ミラーとドライヤーが並んでいました。なおドライヤーは有料です。


  
今回指定された個室は10号室。ドアを開けると脱衣室と浴室がガラスで仕切られているレイアウトになっており、帯広の「ローマの泉」みたいです。


 
室内はシンプルで、籐のカゴが2つ、スツール、ミラー、時計、ハンガー、扇風機があるだけ。
「65度のお湯が毎分600リットル湧出…」という文言が誇らしげです。



浴室はタイル貼りで2人サイズの浴槽がひとつ据えられ、左右両側にお湯と水の押しバネ式カランが1組ずつ設置されています。


  
廊下同様、個室内でも配管むきだしです。左右にひとつずつあるカランのうち、右側には固定型のシャワーが併設されています。館内表示によると、上がり湯は熱交換により得られた温泉熱を熱源としているんだそうです。


 
一般的に家族風呂は利用する度にお湯を張り替えるタイプと、放流式により常時お湯を供給しているタイプがありますが、こちらは後者の湯使いでして、客がいようがいまいが、絶え間なく湯船に塩ビの配管から源泉が注がれています。浴槽から溢れるお湯は洗い場には流れず、全て浴槽右側のスペースへ落ちていました。
源泉温度は64℃ですが、上述のように熱交換により温度を下げているので、湯船にて加水しなくとも入浴できる湯加減になっていました。剥き出しの配管類をたどってみますと、以前は温泉のみならず真湯(沸かし湯)の配管も湯船まで引かれていたようですが、現在その配管は支持金物が残るのみで天井にて封栓されていました。

お湯はほぼ無色透明ですが澄んでいるわけではなく、どちらかと言えば微かに赤みを帯びているように見え、浴槽のまわりもうっすらと赤く染まっています。辛くはないけれども明瞭な塩味と薄い出汁味、弱金気味、咽喉に引っかかるニガリ味、そして磯のような匂いとガスっぽい匂いが渾然一体となって感じられます。食塩泉らしいスベスベ浴感が得られました。
そんなに塩辛くはありませんし、熱交換によって函館の温泉には珍しく入りやすい適温になっていましたが、さすがに等張性の濃い食塩泉ですからパワーは凄まじく、湯上りの保温力が強力で寒くても汗がなかなか引きませんでした。迂闊に長湯すると体力を奪われてヘロヘロになること必至でしょう。家族風呂は1時間までの時間制で延長することはできますが、無理して延長せず1時間で切り上げた方が良いかもしれません。北国のしばれる冬に心強い、体の芯に熱源をもたらしてくれるパワフルなお湯でした。


富岡温泉センター2号井
ナトリウム・カルシウム-塩化物泉 64℃ 600L/min(動力揚湯)
井戸水を加水

函館駅・五稜郭より函館バスの27ループ106(or27)番の昭和営業所方面行きバスで「桐花通中央」下車、徒歩1~2分
北海道函館市富岡町1-23-7  地図
大浴場0138-41-0055、家族風呂0138-41-0099

大浴場6:00~20:30 無休
420円
家族風呂は土日祝のみ営業。土曜16:00~22:00、日曜・祝日10:00~22:00
2名一室700円/1時間、1名1室900円/1時間、10分延長につき200円
シャンプー類販売・ドライヤー有料

私の好み:★★★
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濁川温泉 温泉旅館美完成

2013年01月09日 | 北海道

前回に引き続き北海道の濁川温泉です。今回は国道5号から濁川のカルデラへ上がっていき、まるでウェルカムゲートのように道路の上を横断する地熱発電所の太い配管を潜った先、楓橋を渡ってすぐ右手にある「温泉旅館美完成」で立ち寄り入浴致しました。メインストリートに沿って建つベージュの外壁のお宿で、国道へ近い場所に立地しているため、当地を訪れれば必ず目にするかと想います。


 
建物の前に聳える源泉塔が象徴的ですね。濁川のカルデラ内では、入浴および宿泊施設に限らず、一般民家や農業などで用いるための源泉塔があちこちに立っており、当地ならではの独特の景観を作り出しています。



玄関を入るとチャイムが鳴り、診療所の窓口のような小窓から奥さんが顔を出して対応してくださいました。お母さんと一緒に顔を覗かせた小さなお子さんが可愛かったなぁ。こちらでは入浴回数券も発売しているそうですから、入浴のみの利用も積極的に受け入れているものと思われます。帳場の小窓の脇にはロッカーが設置されているので、貴重品類はこちらへ預けましょう。



廊下に沿っていくつかの部屋が並んでいますが、そのうち「松の間」は自由に利用できる休憩室となっていました。


 
まるで湯治場のようなステンレスの共用流し台。
墨痕鮮やかに記されている木板の分析表は昭和37年のもの(平成20年の分析表も一緒に掲示されています)。



廊下には太い鉄管が敷設されていました。触れてみると温かく、配管の先は上述の源泉塔につながっているため、間違いなくここには温泉が流れているはず。浴用以外(たとえば暖房など)で用いられているのかと思います。


 
脱衣室はとても綺麗で清潔です。室内中央には畳表が張られたベッドサイズの腰掛けが置かれています。
お風呂に対する評価は脱衣室での第一印象が大きく左右するものですが、こちらのお風呂は脱衣室の戸を開けた時点で既に大きなアドバンテージがありました。



「熱いかもしれません でも、あまりうすめない方が!! 源泉100%」
なるほど、熱いんですね。よっしゃ! 心してお湯に臨もうではありませんか。


 
浴室に一歩足を踏み入れた瞬間、灯油のような鉱物油臭が強く鼻孔を刺激しました。いかにも濁川温泉らしいこの匂いは、私のような油臭中毒者にとってはたまらない芳香でありますが、この手の臭いが苦手な方ですと軽微な頭痛を催すかもしれません。
浴室の左右両側にはシャワー付き混合水栓が3箇所ずつ計6基設置されており、水栓からは沸かし湯が出てきました。



浴室の真ん中には桶や腰掛けがきっちり整理整頓されていました。脱衣室に続いて高ポイント。気持ちよく利用できるお風呂って素晴らしい! スツールをよく見ますと大小の二種類が用意されていることに気づきました。大人と子供で使い分けるってことなのかも。



8人サイズの浴槽は縁に木材が用いられ、内部はタイル貼り。
木組みの湯口から100%の生源泉が加水なしで注がれており、脱衣室内に掲示されていた文言通り、ちょっと熱めの湯加減でしたが、私が実際に入ってみると43℃程度だったように体感したので、温泉めぐりをして熱いお湯入り慣れている方だったら大して問題はないでしょう。お湯はやや暗めにカナリア色に弱く濁り、底が霞んで見える程度の透明度、甘塩味に出汁味と油っぽいような焦げた苦味が混ざり、遅れて舌や口腔粘膜に痺れがじわじわと広がりました。



露天は周囲を模造の竹のエクステリアで囲まれているため、湯船に入っちゃうと景色は全く望めなくなっちゃいますが、立ったままですと塀越しにカルデラ壁の稜線や地熱発電所から立ち上る真っ白な蒸気がよく見えます。四角い浴槽の縁には内湯同様に木材が用いられており、槽内には岩が沈められています。



オーバーフローは建物側へ流れ、その流路は石灰華の中洲を形成していました。


 
耐熱性塩ビ管の湯口周りにはサンゴのようなトゲトゲが発生していました。お湯は吐出時点で51.2℃でしたが、この日の流量がやや絞り気味であり、また外気による冷却の影響も受けるため・・・


 
加水なしの状態でも湯船では41.0℃まで下がっており、おかげでいつまでもじっくりと長湯できるコンディションとなっていました。湯船に入ってお湯を両手で掻いてみると、浴槽の材質に依るのか、槽内の岩のためか、あるいは泉質由来か、カナリア色のお湯がターコイズグリーンに見えるときもあり、色の変化やその過程で生まれるグラデーションが不思議で面白く、湯浴みしながら何度もお湯を掻いてしまいました。

今回対応して下さった方は、入館時にお風呂の場所を説明した後、私が浴室へ入室するのを見届けてから帳場の小窓を閉じ、退館時にはお昼時だったにもかかわらず、わざわざ上がり框まで出てきて「お気をつけて…」という気配りの一言を添えながら丁寧にお辞儀してくださいました。浴室のお手入れは行き届いており、お湯の質も良く、その上とてもハートフルな応対をしてくださるんですから、次回利用時には泊まる他ありませんね。天気はあいにくでしたが、体とともに心まで温まりました。ありがとうございました。


ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物泉 56.2℃ pH6.8 190L/min(動力揚湯) 溶存物質2.746g/kg 成分総計3.082g/kg
Na+:499.0mg(68.27mval%), Mg++:40.7mg(10.53mval%), Ca++:97.5mg(15.31mval%),
Cl-:429.5mg(37.78mval%), HCO3-:1208mg(61.78mval%),
H2SiO3:282.7mg, HBO2:121.4mg, CO2:335.5mg,

北海道茅部郡森町字濁川90-3  地図
01374-7-3822

日帰り入浴時間不明(10:00~21:00?) 木曜定休
400円
貴重品用ロッカーあり、シャンプー類・ドライヤー無し

私の好み:★★★
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濁川温泉 新栄館

2013年01月08日 | 北海道
 
地熱発電所があることで有名な北海道の濁川温泉には、複数の温泉旅館がカルデラ地形の中に点在していますが、その中でも明治期に開業したという鄙びた老舗旅館「新栄館」で立ち寄り入浴してきました。こちらでは温泉ファンにはおなじみな骨董クラスの混浴風呂があり、往時の湯治場の雰囲気を残すその浴室で昔日の湯あみを追体験したかったのです。建物は左側から浴舎、旧館、そして新館の順。新館といっても造られたのは1986年なんだそうですが…。



旧館・新館ともに玄関があり、どちらから訪っていいのかわかりませんでしたが、とりあえず今回は新館の玄関からお邪魔することにしました。館内には人がいる気配が無かったので、受付の呼び出しボタンを押すと、しばらくしてから禿頭のお爺さんが財布を片手にやってきて、私を確認するや、こちらからの問いかけを待たずに「お風呂? 入れるよ」と即答してくれたので、話は早い、料金を支払って上がらせていただくことにしました。
ご存知の方も多いかと思いますが、この新館にある浴室は女湯に設定されており、男性客は旧館と棟続きになっている混浴の浴舎を利用することになりますので、私はお爺さんの後をついて旧館へ渡り廊下を歩いていきました。


 
新館の帳場のカウンターには、お宿の雰囲気とは縁遠そうなVISAやJCBのロゴが! ここでもカードが使えるの?


 
廊下を歩いて旧館の玄関を横切ります。



画面が全体的に右へ傾いでいるように見えますね。私もこの廊下を歩いているときには平衡感覚がおかしくなりそうでしたが、画面が斜めになっているのではなく、建物自体が傾いているんですね。相当古い建物なのでしょう。話によれば、明治大正の頃は漁で大金を手にした漁師たちが賭博を打っていた隠し部屋もあるんだとか。


 
廊下で旧館を端から端まで抜け、その先の階段を降りて脱衣室へ。津々浦々、階段を下りて浴室へ行く温泉は大抵の場合は名湯ですね。ステップを一歩一歩踏みしめる度に、期待値がどんどん上がっていきます。
このお風呂は混浴であり、脱衣室には一応男女に分けるためのパーテーションがあるのですが、ご覧のとおりあんまり意味が無いようでした。


 
室内には木板に墨書きされた昭和10年の古い分析表が掲示されているのですが、そこに記されている湧出温度が摂氏156℃ってどういうこと?
なお、その下に壁掛けされている姿見には「函館 菊泉 林合名会社」という名前が入っていました。


 
混浴の浴室は明治時代から使われているんだとか。
室内には温度別に分かれた3つの浴槽がお湯を湛えていました。浴槽は岩をくりぬいて造られたもので、長い年月にわたってお湯が流れつづけているため、浴槽も床も赤茶を帯びた象牙色一色に染まっています。



さすがに古いお風呂の上屋は相当草臥れており、天井も梁もちょっと大きな地震があったら倒れちゃいそうなほど朽ちていました。


 
シャワーなんて現代的な設備がないかわりに、ホースで導水された水が貯められている冷水枡と、源泉が樋を流れてくる掛け湯枡があって、手桶で直接汲んで利用する・・・と言いたいところですが、お湯の方は篦棒に熱くてとてもじゃないがそのまんま掛け湯できるような状態ではなかったため、この時は湯船のお湯で掛け湯しました。



浴室の窓を開けると白い湯気を上げるコンクリートの躯体が目に入ってきました。きっと源泉井でしょうね。


 
その源泉から樋を伝って浴室の隅へダイレクトにお湯が流れこんでおり、お湯がちょうど室内へ入ってきた箇所に温度計を突っ込んでみると51.6℃という数値が表示されました。ここから樋は二手に分岐し、それぞれ浴槽や掛け湯枡へと注がれます。


 
左側奥の浴槽では40.8℃。源泉に最も近いにもかかわらず、投入量が絞られているためか、3つある浴槽の中では最も低い温度です。底には固形化した粉末状の温泉成分が沈殿しており、湯船に入ってみると浴槽の底に足跡がクッキリ残りました。


 
続いて右側奥の浴槽を計測すると43.1℃。やや熱めの湯加減ですね。



石灰に覆われた床を流れるオーバーフローは、まるで自然の川みたいな流路を形成しています。まさかこの流路は人工じゃないですよね。


  
樋を流れてくる距離が一番長い脱衣所側の浴槽は、3つの湯船の中でも源泉から最も離れているにもかかわらず、温度は46.0℃と最も熱くなっていました。流入量の多さが距離による温度低下をカバーできちゃうんでしょうね。



湯面には薄っすらとカルシウムらしき膜が浮かんでいました。お湯は薄いカナリア色で、透明と表現しても差し支えなさそうな程度に弱く濁っており、口に含むと薄い塩味にアブラっぽい味と正露丸のような薬草的な味が混ざり、そしてミント系のハーブみたいな清涼感を伴うほろ苦味が感じられます。臭覚面でも味覚と同じようにミント系ハーブのような爽やかでツーンとする軽い刺激があり、それと同系のアブラ臭が嗅ぎ取れました。基本的にはアブラ的知覚を有する食塩泉なのですが、そのアブラ感が鉱物系ではなくハーブオイルのような清涼感を伴うものである点が、他に例を見ない不思議な感覚でした。
昔日の湯治場風情を追体験できるのみならず、個性的なお湯を掛け流しで楽しめる、趣深いお風呂でした。とっても草臥れている浴舎なのでいつ倒れちゃうかわかりませんが、いつまでも温泉ファンを魅了しつづけてほしいものです。
この混浴風呂は基本的には男湯として利用されているようですが、私が退館しようとすると、熟年のご夫婦が入れ替わりでご一緒に旧館の浴舎へと入って行きました。ちゃんと混浴でも利用できるんですね。


温泉分析表は昭和10年のもの以外見当たらず
(おそらくナトリウム-炭酸水素塩・塩化物泉)

北海道茅部郡森町字濁川49  地図
01374-7-3007

8:00~21:00
400円
備品類なし

私の好み:★★★
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上の湯温泉 銀婚湯 その5(貸切露天風呂「トチニの湯」)

2013年01月07日 | 北海道

全5回の連続企画で紹介してまいりました道南の名湯「銀婚湯」ですが、最終回となる今回は、宿泊者専用貸切露天風呂の中でも私がゾッコン惚れ込んでしまった「トニチの湯」を単独で取り上げさせていただきます。これまでの4回は複数のお風呂をまとめて扱っていましたが、さすがに首ったけになった意中の人を他の異性と同列に並べるわけにはいきません。普段は不行跡な私も「トチニの湯」と出会ってから、俺が愛しているのはお前だけなんだぜ…、そんな想いがしばらくの間、迸りつづけました。感情が昂ぶってもその情熱に文才が追いついていけない石頭の私は、今回この記事でどれだけ魅力を伝えられるか不安なのですが、どうせ才能が無いのなら肩肘張らずに書き綴ったほうが良かろうと考え、なるべくシンプルに記事を進行させてゆく所存です。


 
前々回で取り上げた落部川に架かる赤い吊り橋を再び渡りましょう。渡りきった分岐は、右へ折れると「どんぐりの湯」、左に進むと「もみじの湯」ですが、今回は直進です。


 
澄み切った空気を胸いっぱい吸いながら、爽快な遊歩道をのんびり散策。途中で清楚な白樺の並木を抜けていきます。この日はあいにくの天候でしたが、にもかかわらず私の心は晴れ晴れしていました。これで本当に青空が広がっていたら最高だったでしょうね。小太りなオッサンである私の足取りもこの時ばかりは羽が生えたように軽々としていました。



帳場から10分弱のお散歩で「トチニの湯」に到着。銀婚湯の貸切露天の中では最も遠い位置しています。今回は道標に従って最短ルートを歩いてきましたが、こちらの散策路は回遊ができるようになっていますから、落部川に沿って「もみじの湯」の前を通過しても、あるいは「どんぐりの湯」を通り過ぎて敷地を大きく遠回りしても、迷うこと無くこちらへたどり着くことができます。


 
戸の裏に入浴札を差し込むと閂が固定されて扉にカギがかかります。


 
木立の中から河畔に佇む湯船と小屋が姿を見えました。天然材料を用いて建てられているので、周囲の景色と何ら違和感無く溶け込んでいます。脱衣小屋の中には、ペアで利用することを想定し、カゴと腰掛けが2つずつ用意されています。カップルや夫婦が大自然に抱かれながらしっぽりと露天で湯浴みするには絶好のロケーションですね。



巨木の丸太をくりぬいた湯船に、これまた天然木の形状をうまく活かした湯口から何らの人為的処理がなされていない源泉が注がれています。銀婚湯の他のお風呂では、4つあるいは2つの源泉をブレンドさせたお湯が使用されていましたが、この「トチニの湯」では他の風呂には引かれていない2号源泉を単独使用しており、2号源泉に入りたければ「トチニの湯」を利用する他ありません。この2号源泉は銀婚湯では最も濃いものであり、赤みを帯びたカナリア色のお湯は、他のお湯と比較してみても確かに色・濁り方ともに強いように思われます。湯中では橙色の湯華がたくさん舞っており、焦げたような香ばしいアブラ臭が湯面から漂い、美味しい出汁味を伴った明瞭な甘塩味と少々の苦味、そして重曹味が感じられました。トロトロとした浴感からしてもお湯の濃厚さが実感できます。



詰めれば2人同時に入れそうですが、一人で川を望みながら入ると悠然とした状態で全身浴できました。加水など全く行われていませんが、湯加減は体感で41℃クライと絶妙な状態が維持されており、梢が風に揺れる音を耳にし、清流を眺めながらこのお風呂に浸かっていると、時間の経過をすっかり忘れてしまいそうです。



あぁいい風呂だぁ。周囲の自然と同化したような錯覚に陥りますよ。このお風呂を作り上げた方のセンスって素敵ですね。ブリリアントです。こうした感動に出会えるのですから、温泉めぐりはやめられません。



「トチニの湯」には川上側にももうひとつお風呂があるんですね。



こちらは形が整った四角いお風呂です。木の幹の湯船ですと2人はちょっとキツいかもしれませんが、こっちでしたら2人でも寛いで湯浴みできるでしょう。


 
湯口からチョロチョロと落とされるお湯。こちらも2号源泉です。おそらくこの源泉は湧出量が限られてるので、「トチニの湯」の2つの小さな湯船に供給するのが精一杯なんでしょうね。でも無理しないで背丈に合わせたお風呂(湯使い)にしているのが、お宿の方の良心なんだと思います。内湯も他の露店のお湯も良かったのですが、この2号源泉は輪をかけて素晴らしく感じられました。



排湯はそのまま落部川へ落とされていますが、お湯が川へ落ちる箇所にはちょっとした石灰華の析出物丘が形成されていました。



本当に、いい風呂だ。
お湯良し、ロケーション良し、趣き良し。三拍子揃ったこの「トチニの湯」だけを目当てにして再訪したい、そんな想いを強くした今回の銀婚湯での一泊でした。


川向2号(トチニの湯)
ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩温泉 49.9℃ 12L/min 成分総計8.622g/kg
Na+:2572mg, Mg++:46.8mg, Ca++:89.6mg,
Cl-:2330mg, SO4--:989.5mg, HCO3-:2220mg,


北海道二海郡八雲町上ノ湯199
0137-67-3111
ホームページ

※「トチニの湯」を含む貸切露天風呂は宿泊者専用です。日帰りでは利用できません。また夜間も使用不可です。

私の好み:★★★
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