温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

伊東温泉 源氏湯

2016年11月12日 | 静岡県
 
日本屈指の温泉湧出量を誇る伊東温泉には多くの共同浴場があり、各浴場の入り口には七福神の石像が祀られていることから、当地の共同浴場は七福神の湯とも呼ばれていて、ガイドブックや観光協会の資料などでも広く紹介されています。しかしながら、この七福神の湯以外にも共同浴場があり、地元の組合員でなくとも利用できる施設も存在しています。今回取り上げる「源氏湯」も七福神の湯から外れている浴場の一つであり、原則的には会員専用なのですが、湯銭を支払えば外来客も利用することができます。でも、観光協会の資料では紹介されておらず、しかもわかりにくい場所にあるため、まず見つけるのにひと苦労。そして、よしんば見つけられたとしても、オープンしている時間が18時頃から19時頃までと非常に限られており、時間をちゃんと狙って訪問しないと入浴できません。このように場所や時間といった面で利用のハードルが高いため、その特殊性ゆえ、温泉マニアの間では有名な共同浴場であります。

実際に浴場の前へ行ってみても、表に看板などは一切なく、ドアに貼ってある「男」「女」の文字だけが、浴場であるとわかる唯一の手がかりです。18:10頃に私が浴場の前に近づくと、一人のお爺さんがドアを開けて中に入り、それと同時にドアの向こう側の明かりが灯ったので、タイミング良く開店したものと判断し、お邪魔することにしました。


 

男女別の入口を入るとすぐに番台があり、そこに座る店番のおじちゃんが紫煙を燻らせていました。こちらの浴場は明治時代に開業し、昭和一桁の頃に現在の建物へ改装されたんだそうです。なおこの日は、浴場名が染め抜かれた暖簾は館内にしまわれていましたが、その収納の仕方から想像するに、長い間、暖簾を表に出していないような感じでした。タバコの煙が充満する狭い館内は、昭和から何十年もの間、時計の針が止まっているかのようです。館内は狭いながらも下足箱があり、脱衣スペースには棚やカゴ、そして姿見や扇風機が備え付けられています。着替えながら室内を見上げると神棚が祀られており、仕切りを挟んだ向こうの女湯側には「霊泉」と題された縁起書が掲示されていました。


 
壁に張り出されている「入浴者注意事項」はすっかり紙が変色しちゃっているのですが、それもそのはず、昭和39年1月の日付が付されていました。そう、前回の東京五輪が開催された年なのであります。まさか時が巡り巡って、東京で2回目の五輪が開催されるとは、この掲示を張り出した当時は誰も想像しなかったことでしょう。


 
浴室は至ってシンプル。タイル張りの室内に浴槽がひとつあるばかりです。古いお風呂ですからシャワーなんてものはありません。奥の右手にある上がり湯で掛け湯しながら体を洗うことになります。


 
浴室出入口のステップにはカラフルな桶が綺麗に並んでいました。そして桶には浴場名が書きこまれていました。整頓された様子を目にすると、常連さんがこのお風呂に寄せる想いが伝わってくるようです。


 
私が入室したのは18:20でしたが、この時点でまだ湯船のお湯は溜まりきっていませんでした。左(上)画像は入室した時の様子であり、浴槽の縁に達するまであと3〜4cm残っているような状況でした。一方、右(下)画像は19時頃に私が退館する直前の様子。この期に及んでようやくお湯が溜まってオーバーフローするようになりました。投入量が少ないので、お湯が溜まるまで時間を要するようですが、いつもこんな調子なのでしょうか。


 

浴室奥にある上がり湯も温泉であり、仕切りを挟んで女湯側と一体になっています。上がり湯のお湯はちょっと鉄錆感があったのですが、これは温泉由来ではなく、単に配管や水栓類が錆びているだけかと思われます。墨痕鮮やかに書かれた「上り湯・水を大切に!!」という注意書きが何とも言えない風情を醸し出していました。


 
なお上がり湯の温度は41.0℃でした。この上がり湯の上を塩ビ管が伸びており、浴槽へお湯を供給していました。


 
浴槽は0.8m×2mほどのサイズで、キャパとしては4人前後でしょうか。上述の塩ビ管からお湯がチョロチョロと注がれており、湯船の温度は39.6℃という長湯仕様になっていました。でも先客として入っていたお爺さんは、長湯することなく、むしろ烏の行水といった早さで上がってゆき、上がり際に私へ「ゆっくり入っていけ」と歯の欠けた口元を緩ませながら言ってくれました。
お湯は無色透明でほぼ無味無臭。資料によれば源泉所在地はこの浴場の隣の番地になっていますので、おそらく自家源泉なのでしょう。湧出温度が35℃なので加温していますが、上述のように程々に抑えられており、ツルスベでとても滑らかな浴感であるため、いつまでも入っていたくなるような夢心地のお湯です。でも営業時間が極端に短いのがこの浴場の特徴。時計の針が19:10を指したころ、湯口のお湯は止まり、上がり湯の蛇口から出ていたお湯もストップしてしまいました。ようやく浴槽のお湯が満たされたところなのに、もうオシマイなんですね。なんとも儚いお湯だこと。
私がお邪魔した日は、その歯っ欠け爺さん以外にお客さんの姿は見られませんでした。一方、女湯ではお婆さんが2人ほど利用していたようです。ということは、この日の売り上げは1000円に届かなかったわけか…。長い歴史を有するこの源氏湯。前回の東京五輪開催年に掲示された注意書きは、果たして2回目の東京五輪が開催される年まで掲示され続けられるのでしょうか。


松原170号
単純温泉 35.0℃ pH8.3 成分総計0.770g/kg
Na+:199.6mg, Ca++:44.8mg,
Cl-:276.7mg, SO4--:121.0mg, HCO3-:55.8mg, CO3--:6.8mg,
H2SiO3:56.0mg,
(平成21年12月28日)
加温あり(入浴に適した温度に保つ為)
加水循環消毒なし

静岡県伊東市某所(場所の特定は控えさせていただきます)

利用時間18:00頃から19:00頃まで 月・金定休
200円
備品類なし

私の好み:★★
コメント (6)
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