引き続き西伊豆の温泉を巡ります。前回記事で取り上げた石部の「いでゆ荘」を出た後は、更に南下して雲見温泉へ向かい、「民宿大漁」で一晩お世話になることにしました。雲見温泉は大小様々な規模の民宿が軒を連ねており、その選択に迷ってしまいますが、肉類よりも魚介が好きな私は、こちらの「食べる温泉宿」というキャッチコピーに惹かれ、気づいた時には大手宿泊予約サイトを通じて予約をしていたのです。
玄関を訪うとご主人が笑顔で出迎えてくださいました。その玄関には様々なサイズや色の浴衣がありますので、好みのものを選ぶことができます。
●お部屋とお食事
今回通されたお部屋は2階の和室。お宿は海から沢に沿って山側へちょっと入ったところにあるため、窓から海を眺めることはできませんが、でも視界を遮るものはなく、民宿と民家が混在する雲見の集落を一望することができました。
今回お願いしたのは1泊2食付きで9,000円の標準コース。さすが魚介の料理が自慢の宿だけあり、夕食は魚づくしです。
活きの良い鯛や鯵が躍る豪勢な舟盛りをはじめ、沖ギスのてんぷら、金目の煮付け、ホイル焼きなど、食べている自分が魚になっちゃうんじゃないかと思うほど多彩な魚介のてんこ盛りで、海鮮ものが好きな私としては竜宮城で宴を催しているような殿様気分になりました。「大漁」という宿名は伊達じゃありません。
一方、朝食は伊豆の名物である鯵の干物を中心にした胃に優しい和の献立。1日行動するために必要な鋭気をしっかり養うことができました。
●お風呂
さて当ブログの趣旨であるお風呂へと向かうことにしましょう。館内位置としては玄関の左手にあり、建物の川側に配置されています。
お宿の案内によれば「雲見温泉の民宿でも最大の湯量」とのことですから、暖簾をくぐる前からお風呂には期待しちゃいます。
棚とカゴがあるだけの簡素な脱衣室にはドアが2つあり、ひとつは内湯、もうひとつは露天風呂の出入口です。内湯と露天は直接つながっていないため、双方を行き来するには一旦脱衣室を通る必要があります。
石板と白い壁が城壁を連想させる内湯には、窓下に浴槽がひとつ据えられ、壁に沿ってL字型にシャワーが3基並んでいます。
内湯の浴槽は瀝青色の石板貼りで、洗い場と対称を為すようなL字型です。一見すると湯口が無いように思われますが、槽内には小さな穴があいており、そこから熱いお湯が投入されていました。また窓下にも穴が開いており、こちらは排湯用として使われていました。お湯の投入量はさほど多くないのですが、浴槽のキャパ自体が2〜3人サイズとコンパクトなものですから、容量に対する供給量は必要充分であり、私が湯船に入るとお湯が縁を乗り越えて勢い良く溢れ出ていきました。
つづいて露天風呂。板塀に囲まれているため開放感はあまり得られませんが、頭上を覆う屋根には透明のアクリル波板が用いられているため十分に明るく、また男湯の塀では窓が開いていたため、そこを通じて緑の景色を目にすることができました。
ちなみに塀の窓から外を覗くと、すぐ真下に小川が流れており、それと並行する形で路地が設けられていました。
露天風呂はいわゆる岩風呂であり、底には鉄平石が敷かれています。サイズとしては4〜5人前後でしょうか。民宿でこれだけの大きさの露天を擁しているのですから立派ですね。内湯同様、こちらも槽内からお湯を投入しており、岩の隙間から突き出た細い塩ビ管より熱いお湯が出ていました。湯量の調整が実に良い塩梅で、私が入った時には内湯・露天とも42℃前後に維持されていました。湯量は多いのかもしれませんが、かと言って全部を注ぎ込んじゃうと熱すぎるため、ある程度投入量を絞っているのでしょう。湯使いはおそらく完全掛け流しかと思われます。
お湯はほぼ無色透明ですが決してクリアに澄んでいるわけではなく、ごくわずかに黄色い靄がかかっているような感じに見えます。知覚的特徴としてはこのエリアのお湯の典型例であり、具体的にはしょっぱくて強い苦汁の味を有し、湯中では全身にまとわりつきながらギシギシと引っかかる浴感をもたらし、たとえ適温であっても非常にパワフルな火照りがあって、湯上がりはしばらく汗が引きません。かなり喉が乾きます。私個人としては風呂から上がる直前に真湯で上がり湯を浴びたくなるほど、ベタつきが残ります。でも湯上がりのビールが最高に美味しく感じられるお湯でもあります。場所柄、このエリアは夏に観光シーズンを迎えますが、お湯のタイプから言えば、夏よりも寒い時季の方がお湯のありがたみを実感できるかと思います。特に冬の湯上がりはコート要らずでポカポカが持続することでしょう。
館内に温泉分析書は見当たらなかったのですが、お湯の特徴から推測するに、雲見・石部・岩地の3地区へ集中管理した温泉を供給している松崎三浦温泉株式会社からの配湯であると判断して間違いないでしょう。実際、石部にある温泉会社の目の前には、こちらのお宿の看板が立てられているのですが、そんな両者の関係性が、他の民宿より多いとされる供給量のボリュームにも影響しているのかな、なんて想像してしまいました。ま、下衆の勘ぐりですけどね。
内湯と露天を楽しめる温泉はもちろん、魚づくしの素晴らしい料理に何度も舌鼓を打つことができ、満足のゆく宿泊となりました。民宿だからこそ実現できる価格であり、同じ内容を旅館やホテルでお願いしたら、相当高くなってしまうこと間違いありません。
●景勝「千貫門」の夕陽
私が訪れたのは、まだ時折ひんやりとした風が吹いていた2016年4月。当地ではテングサの収穫が始まったらしく、雲見の軒先や路地ではテングサを干す光景が見られました。
お宿の裏山には細い遊歩道の階段が伸びていたので、夕食前に興味本位でこの階段を登ってみることに。
思いのほか長い階段を登りきると、稜線を越して見晴らしの良い海岸へ出ました。断崖と奇岩が織りなす西伊豆らしい景観が広がっているのですが、ここは「千貫門」といって、雲見温泉の景勝地なんだとか。せっかく登ってきた山を、今度は波打ち際へ向かって一気に下っていきます。
海岸へ下り切ると、海に浮かぶ岩に大きな穴が開き、まるで門のようになっている光景に出くわしました。これが「千貫門」なんですね。タイミングよく、千貫門の洞門の向こうで、真っ赤な夕陽が駿河湾へと沈んでゆきました。
温泉分析書見当たらず
おそらくカルシウム・ナトリウム-塩化物温泉
静岡県賀茂郡松崎町雲見323 地図
0558-45-0553
ホームページ
日帰り入浴可不可は不明(おそらく不可?)
シャンプー類・ドライヤーあり
私の好み:★★