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パパと呼ばないで

再婚した時、パパと呼ばないでくれと懇願した夫(←おとうさんと呼んで欲しい)を、娘(27)「おやじ」と呼ぶ。良かったのか?

テレビの話をしましょう

2025年04月22日 | 野望
4月22日(火)雨
今期のドラマは、何はさておき「続・続・最後から二番目の恋」でしょ。
持ってましたっ!と掛け声かけたいくらいだ。
一話目で、千明さんと和平さんが二人で呑むシーンだけで泣ける。
昨日、我が娘が、エンディングの「ダンスに間に合う」の事を教えてくれる。
ワタクシは、このドラマ用に作った歌かなあと、あまり深く考えたり聞いたりしてなかった。
娘曰く「思い出野郎Aチーム」の2017年の曲で、すごくいい曲なんだけど、それよりもこのカバーがいいと。
これは、原作、原曲至上主義なワタクシとそっくりな娘にしてはレアなケースだと言う。
で、「思い出野郎Aチーム」が歌う「ダンスに間に合う」を聞かせてくれる。
うん、悪くない。しかし、若い人達に向けたと言うか、若い人達の心に訴えてるように聞こえる。
でも、キョンキョンと中井貴一氏の声で聞くと、一気にワタクシ達世代の心に響く気がする。
エンディングでは♪ダンスには間に合う♪しか耳に残らないと思うので、是非全部を通しで聞いてほしい。
できたら「思い出野郎Aチーム」の方も聞いてほしい。
余談だが、我が娘は星野源の「Eureka」を大絶賛中。
そして、キョンキョン達の「ダンスに間に合う」と星野源が今年の紅白に出てくれるならこんな楽しみな事はないと言う。
まだ春やぞ。

先日テレビで映画「花束みたいな恋をした」をやってたので録画して、1時間ほど観たところだが、キュンキュンした。
と言う話を娘にした。
てっきり、我が娘も、普通な女子とは言えない我が娘も(強調)、こっち側、この二人側だと思っていたら、もっと屈折していた。
娘「大学の頃に居たんだよね、こう言うサブカル系な感じの人たち。まああたしもそうなんだけど、でもそのまたさらに外側というか・・・」
サブカル女子は深い。

朝ドラは、「おむすび」で脱落したけど「あんぱん」で復活しました。
ラッドの主題歌がアンパンマンのセオリーと合わないとか、主人公の妹役の河合優実ちゃんの「食パンの角に頭ぶつけて死んじゃえ」発言がいかがなものかと論争になったりしてますが、
ワタクシはラッドも河合優実ちゃんも大好きなのでゆったりと見ておりますわよ。
ラッドの歌は早すぎて、まだ全然ついていけず「神様の采配、万歳」だけ一緒に歌っております。

って、「テレビの話をしましょう」ではなく、「テレビのドラマの歌の話をしましょう」になりましたな。
テレビと言えば、CMの話もしたいのですが、それはまた今度。
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街結君と太郎君30

2016年10月15日 | 野望
12月に入ってすぐにオレたちは推薦入学による合格通知を受け取った。
一日くらいは、勉強から離れて息抜きしても罰は当たらないよな。
でも、まだ受験一色のクラスメート達に遠慮してオレたちはひっそりと合格祝いをすることにして、オレんちに向かうことにする。
もちろん祝賀会会場は回転寿司。
電車に揺られながら太郎が言う。
「オレの乗り物酔いって、もしかしたらかあちゃんとの関係があったのかもしれないなあ。
電車や車にひとりで乗るってことはかあちゃんから離れるってことで、その不安からあんなに激しく酔って気持ち悪くなってたんじゃないかって思うんだ。
子どもだったんだなあ。
まちゆいが、オレを九州に連れて行ってくれたからオレは少し大人になれたんだな。
あ!大人っていえばさ!あれからしつこくかあちゃんに聞いたんだよ、マスターと章子ママのこと。
そしたらさあ!驚くなよまちゆい、章子ママ、ナベさんのことが好きらしいんだ。
で、マスターがキューピットになって、何だか今、いい感じらしいんだよ。」
えーーーーっ!と驚きながらも、そう言われれば、スマートで勉強してる章子さん、良くナベさんに大学の相談とかしてたし、ナベさんのおかげで苦手な物理が好きになったとかも言ってた。
案外、章子さんが陰のキューピットなのかも。
章子ママの恋の話で盛り上がったり、春休みにはばあちゃんに合格の報告に行こうか、いや、いっそ入学式にばあちゃん、来てくれないかなあとか、そんな話をしていると、電車が地下から地上に出て鉄橋を渡り始める。
太郎が「オレ、この地下鉄が地上にでてきて、すぐ川を渡るここ、好きだなあ。
やっぱ地下鉄って閉塞的だろ。
視界が開けて、川が見えて、遠くにあの観覧車が見えて。
いいよなあ~ここ。
あ、普通に車とか人とかの橋も平行してるんだな。
歩いて渡ってみたいなああの橋。帰りはあの橋歩いて渡って東岩町から電車乗ろうかなあ。」
「あの橋はさあ、聖岩橋っていうんだ。聖新町と東岩町をつなぐ橋で・・・」と言いながらオレはあっと息を飲んだ。
九州のばあちゃんちの近くにある馬千橋。馬込町と千草町を結ぶ馬千橋。
まごめ町とちぐさ町でまちばし。
バブルで浮かれてる頃、まちおこしで呼ばれたおやじが提案したという馬千橋の建設。
小さな川だけど、この川のせいで分断されていた馬込町と千草町が、この橋のおかげで距離が縮まり、いまや共同主催で新しいお祭りまでできたくらいだ。
寂れかけてたそれぞれの街の商店街も、この橋で繋げる形にして長いメインストリートになっている。
まちゆいのまちは、東京と田舎を結ぶんじゃなくて、馬千橋のまち。足元固めろという意味のまちなんだ。
急に黙り込んだオレの顔を太郎が不思議そうに見てる。
オレは夕陽でオレンジ色に染まってる太郎の顔を見ながら、いつの間にか自分の名前が嫌いじゃなくなっている自分に気付いた。

春。桜が満開の今日。
中大のキャンパスへ向かう階段で記念写真を撮る。
もちろんカメラマンは亜美ちゃんだ。
スーツが似合い過ぎて・・・大学の先生みたいだ・・・とみんなが心の声でとどめていたのに、ストレートな太郎が「亜美ちゃん、かっこいいなあ。篠山紀信みたいだぜ。」
みんながぶーーーっと吹き出したところを亜美ちゃんが「もらったぁ!」とシャッターを押した。

             
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街結君と太郎君29

2016年10月14日 | 野望
太郎が言うには、章子ママはマスターのことが好きなんじゃないかな。
思わず「えーーーっ!」と叫ぶオレ。
章子ママってのは、バリッバリのキャリアウーマンで、さばっさばしていて、惚れたはれたの世界から一番遠いところにいる人みたいに見える。
ってか、そもそも、オレの中では自分の親と同じくらい人の恋愛ってのは想像できないんだよなあ。
だから、マスターと千春さんと荒木さんの時の衝撃はすごいものだったんだ。
今度はマスターと章子ママかっっっ!!!とオレは頭を抱えたくなる。
太郎はどうなんだよ、いいのかよ。
聞くと「ん~。複雑なんだよなあ~そこが。
あれ以来少しは進展するかと思いきや、かあちゃんとマスターは、相変わらず兄妹みたいな感じだからなあ。
章子ママは、ああ見えてっていうか、見た通りっていうか、さばっさばしてるだろ、さらっと言っちゃうんだよ「マスターっていいわぁ~」とか「マスターのこと好きだわぁ~」とか。」
「それって、笑点見ながらママ猿が『歌丸さんいいわぁ~』とか『円楽いいわぁ~この毒舌っ!』って言うのと同じレベルじゃないか?」とオレが言うと
「うん、オレも最初はそう思ったんだよ。動物園の水牛見て『この目が可愛いよね~』って言うようなもんだろうなって。
でも、オレ、聞いちゃったんだよ。
会社の飲み会の後ふらりと来た章子ママがコーヒー飲みながら「こんな美味しいコーヒーを毎日朝昼晩飲みたいわぁ~」って言ったんだよ。
これって、逆プロポーズじゃないのか?」
考え過ぎだろ。
で、太郎の推理としては、今日のメニューは、ある意味マスターの勝負メシっていうか、大事なおもてなしの時のとっておきのメニューなんじゃないか。
もっと言えば、それがあまりいい思い出と繋がらないメニューとも言える。
それを今夜出したってことは、マスターの心境の変化、もっとはっきり言えば章子ママからの逆プロポーズへの返事じゃないか。
章子ママのために、これから朝昼晩おいしいコーヒー入れます。
美味しい料理も作りますっていう・・・

そんなことを話しているうちに、どうやらお母さん達の会もお開きになったようだ。
オレも帰らなきゃ、日付が変わっちまう。
下へ降りて行って驚いた。
皆さん帰られたと思っていたら、章子ママだけが残っててカウンターでコーヒー入れているマスターと何やら親密な雰囲気を漂わせている。
下りてきたオレたちを見てマスターが少しうろたえて「コーヒー飲むか?」
オレたちもうろたえ気味に「いや、帰ります。ごちそうさまでしたっ!また明日~」
スマートを出た太郎は、もう何もしゃべらず、ただ「じゃあな!」と片手を上げて帰っていった。
オレは駅へ向かいながらマスターのことを考えていた。
そういえば、最近千春さんのことをマスターが口にすることが少なくなったような気がする。
千春さんは相変わらず、いや、前よりももっと頻繁にスマートで晩ご飯食べることが増えたし、
仕事の合間を縫って勉強ランチ会にも参加しては講師のマスターに嫌がられていた。
ほとんど料理をしない千春さんは、初歩的な質問攻めでマスターを困らせるらしいのだ。
でも、その掛け合いがおもしろいと他のママ達は爆笑し、シスコンズだのブラコンズだの言われているらしい。
おかあさん達は、マスターと千春さんが兄妹だと思ってるのだ。
もし、章子ママとマスターがそういうことになったら、太郎は、千春さんは、そして、「食の章子さん」は、今と同じでいられるのだろうか。
いつも穏やかに優しい顔で微笑む「食の章子さん」の顔が電車の窓に見えた気がして、彼女の顔が曇るようなことがないといいなあとオレは太郎のことより章子さんの心配をする自分に少し驚く。

翌日の放課後。
太郎とスマートへ向かう途中、太郎が「夕べかあちゃんに話したんだ。マスターと章子ママのこと。」
太郎ってやつは、ホントにストレートなやつだ。
「千春さん、どうだった?ショック受けてたか?」
だめだ。オレはどうしても、マスターと千春さんに一緒になってもらいたい思いが強過ぎる。
オレの勝手な筋書きでは、章子ママのアタックで初めてマスターへの気持ちに気づいた千春さんがマスターに告ってめでたしめでたしなんだけど。
太郎が言う。
「それがさあ、げらげら笑ってさぁ。章子ママのタイプじゃないわよ~元ちゃんは、って言って、全然気にしてない感じなんだよなあ。
ちょっとくらいショックを受けるかなあと思ったんだけどなあ。
それよか、『太郎!あんた余計なこと言って章子ちゃんを動揺させたりしないのよっ』って釘さされたよ。」
そうだよなあ。章子さん、国立一本狙いでいくって言ってたんだよな。
落ちたらどうするんだよって太郎のストレートな質問に「う~ん。落ちることは考えないようにしてる。
おかあさんは、私立の短大くらいなら行かせられるから滑り止めに受けたら?って言ってくれるんだけど、そこはね~
あたしも意地みたいなのあるからね~
行く気もないところ受けても仕方ないしね~」
のんびりと語尾を延ばすいつもの口調だけど、言ってる内容はかなりハードなことだぜ、章子さん。
「受験ってのはさぁ絶対ってことないんだぜ、もしその日体調が悪かったりってこともあるだろ」としつこい太郎に「う~ん。そうだよね~おかあさんからも言われたよ、そういうこと。
その時はねえ~バイトしながら一浪するつもり。」
っていいながら、章子さんの目は「絶対受かるけどね〜」っていう目だったな。

そうそう!その時、太郎がもうひとつ気になることを言ってた。
「かあちゃんがさぁ、にやりと笑って言うんだよ。
太郎もちょっとはオトナの色恋に敏感になったかと思ったけど、まだまだねって。
太郎は毎日スマートにいるんでしょ?って。
これってどういうことだ?」

章子さんの揺るがない信念に触発されたオレたちは、とにかく今は受験に専念することにし、一日一日を大事に大事に集中して過ごした。
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街結君と太郎君28

2016年10月08日 | 野望
文化祭が終わると、ムードは一転。受験体制へと突き進んでいった。
でも、それは決して悲愴なものではなく、浮ついたものでもなく、校長が打ち上げ会場でシメの挨拶で言っていた言葉通りだった。
「受験は団体戦というのが、我が校のモットーです。
間違いなく明日から彼らは頑張ります。
お母様お父様方、いい子供さんに育てられましたね。」
この時だけだった。あんなに笑ってたおかあさん達が笑いながら泣いていたのは。
太郎が「ちぇっ。校長、おいしいとこ、持っていきやがった。」

喫茶スマートは、2時くらいまではママ達の勉強ランチ会で、その後は、学生達の勉強スペースになり、夜になると常連を含めたおやじ達が入り浸るようになっていた。
いつだったかオレのオヤジまでいた時には驚いた。
ママ猿から「一回でいいから行ってみて。街結のことがわかるから。」ってしつこくしつこく言われたそうだ。
オヤジは「街結君のお父さんですかって聞かれた後、必ず笑われるんだよな。お前、文化祭で何やったんだ?」

オレと太郎は、中大の推薦枠に申し込み、おそらく大丈夫だろうという段階にきていたが、浮かれることなく、受験勉強を続けようということを決めていた。
オレと同じくらいなギリギリな成績の女子が、推薦枠をオレに譲ってくれたという思いもあって、オレはできるだけスマートで勉強するようにしていた。
いや、オレがいたからって、もう以前の「街結君のいる喫茶店」っていうわけじゃない。
男女の比率も6:4くらいだし、文化祭マジックとやらで交際を始めたカップルでご来店というケースも少なくない。
もう、オレとみんなとの間には変な垣根も何もなくて、オレは初めてっていうか、幼稚園以来っていうか、ホントのオレでいられた。
オレは太郎みたいに頭が良くないから、勉強の質問はもっぱら太郎にお任せで、その太郎のかわりに、せっせとマスターの手伝いをしてコーヒーやらココアやら運んだ。
ココアってのは頭が良くなる飲み物らしいし、閑古鳥が鳴いていたころのスマートと違って今や朝から晩までフル回転なので、さすがにチョコパフェをのんびり作ってはいられないという状況なのだ。
今夜は、お母さんたちが文化祭の打ち上げを兼ねた収支決算だの今後の活動計画だのを話し合う会があるらしい。
6時になり学生達は帰っていき、太郎とオレも勉強を切り上げてマスターの手伝いに入る。
お母さんたちにからかわれたりちょっかいだされたり、それに応戦したりしながら料理や飲み物を運び、オレと太郎は話し合いの邪魔にならないように二階で食べる。
「秋だなあ~きのこに芋」って言った後、思わず「あっ」と声が出る。
太郎も「お前も気付いたか?」
このメニューは初めて千春さんが荒木さんをスマートに連れてきた時のメニューによく似ていた。

「オレの考え過ぎかもしれないんだけどさあ」と前置きして、きのこをつつきながら太郎が言うには・・・
夏休みの間、太郎は漫才の練習の時以外はほとんどスマートで過ごした。
クーラーがんがん効いてて涼しいし、食いっぱぐれることないし、勉強もできる、バイト代も出るといういいことづくめだからな。
おかあさん達のランチ会の手伝いもして、その時に、文化祭の打ち上げパーティの話になったのだ。
「『何かっていうとイマドキの子どもたちって生意気に打ち上げをするのよね~
体育祭の時には渋谷のピザ食べ放題のお店ですって!』とか『うちの子のクラスはしゃぶしゃぶだったわよ。
お父さんが会社の打ち上げよりも贅沢しやがるって渋い顔してたもの。』とかって話から
せっかくここで勉強会しているんだから、その成果を発表したいわねってことになって、じゃあ文化祭の打ち上げを体育館でやろう。
料理はそれぞれ分担してうちで作ってスマートに持ち寄ってそこで盛りつけて学校にピストン輸送しようってことになったんだ。
章子ママが中心になって・・・」とここまで言ってから「あ、章子ママって『食の章子さん』のおかあさんのことね。」
なんだかその呼び方って幼稚園時代思い出すなあ。
「その章子ママがスマートに打合せやら何やらで日参するようになって、そこでいろいろオレも知ったんだけどさ、章子さんちも母子家庭だったんだ。
子どもたちの志望校の話になった時に章子ママが『うちの章子も中大に行きたいんじゃないかなあって思うんだけど、うち母子家庭だからさ、私立はちょっと厳しいのよね~経済的に。』って言ってた。
章子ママがいうに、章子さんって頑張りやさんでさあ、小さい頃からおうちのこともお手伝いしてくれて、今じゃ章子ママより家事の割合は多いんだって。
それで、勉強もちゃんとしてて。
昔っから手のかからない、ホントいい子なんだって。
そのおりこうさんな子が、「大学どうするの?」って章子ママが聞いた時、一度だけ悲しそうな、でもちょっと冷ややかな声で「うちは私立の選択肢はないでしょ?いいよ、テキトーに入れそうな国公立探してそこにするから。」って。
章子ママは章子ママで、ちょっとカチンときたらしいんだよな。
それもわかるよ。うちのかあちゃんだったら「はぁ~~~っ!?大学行けるの当たり前って思うなよっ」って怒鳴るとこだよ。
章子ママは、母子家庭ってことを逃げ場にしたくないって頑張ってきたって。
「習い事だって、章子がやりたいって言うことはなるべくやらせてきたし、学校のPTAの役員だって人並みにやってきたつもりだし、たまに母娘で旅行にも行ったり遊びにも行ったり、私の出来る限りのことはやってきたつもり。
でも、私大の四年間の学費っていうのは、厳しい気がするのよねえ。」って言ってたんだよ夏休みに入った頃。
で、大学の話は棚上げにしたまま、少し母娘の仲もぐずぐずしてた。
でも二人とも食べること料理することが好きだからマスターの料理教室の日の夜は、その料理を話題にしたりして少しずつまた前の仲良し母娘に戻りつつあって、
で、文化祭の打ち上げパーティで、あの母娘の大活躍によっての大成功だっただろ。
あの晩、帰りの電車の中で「食の章子さん」言ったんだって。
『おかあさん、あたしお茶女に挑戦してみるよ。生活科学部ってとこで食について勉強してみたい。
おかあさんがあたしのために「頭が良くなる料理」を勉強してくれて、それを作ってくれて、一緒に食べて、作り方を教えてくれて、今度はあたしが作ってみて、おかあさんが美味しいって食べてくれて。
ホントにあたしたち親子って食べることが好きだよね。
だからもっといろいろ食べることについて勉強したいって思ったの。
太郎君達のおかげで今クラスがすごくまとまってて楽しいの。
太郎君達と同じ中大志望の子が多くて、みんな勉強も頑張り始めててうらやましかった。
この先もずっとこういう楽しい学園生活なんだなあこの人達はって。
でもうちは無理なんだなあってちょっと寂しかったの。
でも、この団結力っていうか、つながりは大学行っても社会人になってもずっと続いていくほど強力なものだってことがこの文化祭でわかった。
大学に入ってからやりたいことを決めるのもいいけど、あたしはもうやりたいことが見つかったからそれを勉強できる大学に行く。
大丈夫。絶対に受かってみせるから。』
すげーよなあ章子さん。」
太郎から聞く章子さんの話に、オレは深く感動していた。
ん?でも、それと今日のディナーと何か関係あるのか?
太郎が最初に言った「考え過ぎかもしれないけど」って前置きは何なんだ?
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街結君と太郎君27

2016年10月07日 | 野望
爆笑と拍手の中、幕が下りて、やり切った感いっぱいの顔で太郎とオレは握手した。
思うところでウケず、思わぬところでウケて、と、反省点はいろいろあるが、とりあえずは大成功と思おう。
もしかしてカーテンコールがなりやまないんじゃねーか?などと言って、汗びっしょりの衣装を着たままで水をがぶ飲みしているオレたちをよそに、
舞台下では打ち上げパーティ担当の石橋が仕切る声や、料理担当「食の章子さん」の声、さらには「しょうこちゃんっ、これはどこにおいたらいいかしら?」と章子さんのお母さんの声まで聞こえてくる。
もう、いいのね、オレたち。着替えちゃっても・・・

ちょっと気の抜けた顔でぼーっとしてたら「衣の祥子さん」が「なにぼーっとしてるの?早く着替えて!シャワー浴びたかったら浴びてからこれに着替えて。五時から打ち上げ始まるからね。絶対遅れないでよ!着替え終わったら電話して。チェックしに行くから。」
いつもの優しい祥子さんじゃない・・・
オレたちは渡された紙袋をもって体育館の裏口からプールへ行きシャワー浴び紙袋を開けてぎょっとする。
「衣の祥子さん」から「打ち上げ用の衣装」も用意したとは聞いていたが、トランクスまで入っていて驚いた。
って、これには感謝だが、それはさておきこの「打ち上げ用の衣装」ってのがすごい。
ご丁寧に「こういう感じで着てね。」と書いたイラスト付きで、どうみても少女マンガに出てくる王子様みたいだ。
これを着て打ち上げ会場へ行くのか?
かといって、汗でびっしょりのステージ衣装をまた着るか。
一昔前のアイドルの衣装を着るか。究極の選択を迫られているようだ。
突然太郎が笑い出し、「オレたちが文化祭を盛り上げようぜなんて意気込んでたけど、オレたちのほうがもてあそばれてる感じだなあ。
いいじゃんいいじゃん。喜んでピエロになりまっせ!」
「そりゃそうだよな、お前はステージ衣装に戻ったらおばちゃんだもんな。まだヒカルゲンジのほうがいいよな。」って言ったら「ヒカルゲンジってなんだ?」
太郎ってホントにこういう分野が欠落している。

漫才のライブ会場から、打ち上げのパーティ会場へと会場設営が変わるほんのわずかな時間で、亜美ちゃん率いる写真部員達が、総力を挙げてビデオを編集。
自分に厳しく他人にも厳しく、妥協を許さない亜美ちゃんが選んだだけあって金井君はとても上手にビデオを撮ってくれていた。
五時の打ち上げパーティ開始と同時に、スクリーンに大きく映し出される太郎とオレ。
オープニングは、亜美ちゃん渾身の作のポスターのスライドショーだ。
いつの間に撮っていたのか他校の生徒へのインタビューや駅員さんのショットまであったりする。
こっそり練習していたカラオケボックスの店員さんまでがインタビューを受けてて「ええ。お二人、ジュースを飲みながら『マザコンズです』の決めポーズを考えていらっしゃいましたよ。」
のぞいてたのかよぉ~裏話はやめてくれ~
最初の掴みで、太郎が客席のおかあさんに向かって「あれ?渡辺のおかあさん?今、渡辺のバンド、学食ステージ出てますよ。」
渡辺のおかあさんが「いいのよぉ~おとうさんが聞きに行ってるから。」
っていうくだりで、ステージを終えてパーティに来ていた渡辺が「ひでぇなあ、かあちゃん聞きに来てくれてなかったのかよ。」と叫び、笑いが起こる。
何だろうこの感じ。
もう、みんながハイテンションになっていて、ちょっとしたことで大笑いになる。
太郎の思惑としては、最後はおかあさん達が感激して涙するというオチにしたかったらしいが、おかあさん達は最後までゲラゲラ笑いっぱなしだった。
最後に、息子達娘達がおかあさん達へこれからの受験体制への突入を前に一斉に立ち上がって「よろしくお願いします」と頭を下げる流れに持っていったのだが、
おかあさん達は最後までゲラゲラ笑って「はいはい、頑張って頂戴よ!」とか「なんだか小学校の時の卒業式みたいね~」「あの頃ほど可愛くはないけどね。」とか言いたい放題。
スクリーンを見ながら太郎が「おかしいよなあ?ここ、普通ほろりとしないか?」
でもオレは、これはこれでよかったような気がする。
オレたちが考えるほど母親ってのは、子供たちのささやかな反抗なんて気にもしていないってことだよ。
普段家で「メシまだ?」と「風呂入る」と「うっせーんだよ」くらいしかしゃべらない息子でも
母親にはいろいろ見抜かれているってことだよ。
オレたちはまだまだ母親には敵わないってことだよ。

いつからパーティに参加してもいいようにスクリーンはエンドレスで映像を流し続け、一体マスターたちはどれくらいの量の料理を準備したんだ?というくらいエンドレスで料理も補充され続けた。
二時間の予定が、校長の裁量で一時間延長され、八時にお開き。
撤収に一時間かけてオレたちの文化祭は終わった。
それから二時間かけて帰る電車の中で、興奮冷めやらぬママ猿とオレは漫才のネタの話や衣装の話、料理の話や千春さんとマスターのことなどを延々としゃべりながら帰ったのだった。
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街結君と太郎君26

2016年10月01日 | 野望
夏休みが終わるとあっという間に文化祭がやってくる。
この日程設定では、まぢで、受験勉強と文化祭の両立は厳しい。
学校全体がなんとなく落ち着かない雰囲気の中、受験に集中させたい3年の担任達と、
文化祭に出演予定のダンス組やバンド組はバトルを繰り広げていた。
空き教室で練習しては追い出され、しまいには学校の外の三角公園でダンスしていたらしい。
バンド組は音源がいるから公園でってわけにもいかず、ライブスタジオを割り勘で借りて練習してるとのこと。
漫才組のオレと太郎もなかなか練習場所には苦労したが、それほど広さも必要としないし、もちろん音源だの道具だのいらないから、カラオケボックスで練習したりした。

クラス単位での催しや展示は各教室が会場で、文化部を中心にしたステージは学食のテーブルをとっぱらった会場で、それぞれタイムスケジュールが決められている。
オレたちも、学食のステージのつもりだったのに、文化祭の運営本部が情報収集した結果、学食ステージでは人数が収容できないと判断。
体育館でやることになった。
体育館でやるのは、午前中のブラスバンド部と午後のオレたちマザコンズだけだ。
亜美ちゃん渾身のポスターが功を奏し、近くの高校でも話題になっているらしい。
なんでも、学生がたむろするお好み焼き屋やラーメン屋に頼んで貼ってもらったポスターは軒並み盗まれて、近くの高校の掲示板に貼られたりもしてたと聞く。
「盗まれるのも想定内よ」と、亜美ちゃんは余裕である。
お店の人に自分の連絡先を教え、「ポスターを欲しがる人にはあげてください、盗まれそうになったら見ぬふりして盗ませてください。
連絡もらったら補充に伺いますから。」と頼み込み、休み時間になるとチャリ通学の友達のチャリを借りて、学校周辺のお店にポスターを配り歩いていた。
二カ所の最寄り駅にも貼らせてもらっていたが、こちらは毎朝チェックする度に盗まれているので、さすがの亜美ちゃんも経済的に厳しいと、A3サイズのカラーコピーに縮小して対応していた。
しまいには、駅員さんとすっかり仲良くなって改札内にも貼らせてもらえるようになり、顔パスで毎朝補充しているらしい。

文化祭当日。
山の様な差し入れの中から、あまり腹にもたれなさそうなものをチョイスして腹に入れてから衣装に着替える。
衣装は家庭科クラブの女子が用意してくれた。
太郎曰く「オレたちはプロじゃないんだから、笑いのためなら卑怯な手も使う。」
まずは衣装で笑わせる作戦だ。
マザコンズは、息子役のオレと、おかん役の太郎という役割分担。
よって太郎がおばちゃんの格好をする。
これがまた似合うの似合わないのって!
顔のパーツは千春さんだから、女装したら千春さんみたいになるかと思いきや、ひょーきんな大阪のおばちゃんみたいで笑える。
オレは、半ズボンの上に長ズボンを穿き、子ども時代のネタになったらぱっと長ズボンを下ろし幼稚園児みたいな格好になるというしくみだ。
家庭科クラブ部長の祥子さんと副部長の章子さんがワンタッチで脱げるように工夫してくれた衣装だ。
イマドキ珍しく子のつく名前のしょうこさんたちは、紛らわしいのにお互いを祥子さん、章子さんと呼び合い、
部員達は『衣の祥子さん』『食の章子さん』と呼び分けている。
名字で良くね?と言ったら、二人とも鈴木さん。同姓同名だった。
部長は服飾関係が得意で、副部長は料理分野が得意なんだとか。
衣の祥子さんがオレのシャツにアイロンをかけながら「まちゆい君のシャツにアイロンかける日が来るなんて夢にも思わなかった。
家庭科クラブを作ってホント良かった。」と言い、
もう、今から文化祭の打ち上げパーティ用の料理のセッティングに忙しい食の章子さんも「祥子さんっ!あたしを家庭科クラブに誘ってくれてありがとう」と二人で盛り上がっている。

この打ち上げパーティは、家庭科クラブと喫茶スマートの勉強会ランチ会の有志のおかあさん達とスマートのマスター共同開催だ。
喫茶スマートで、マスターとおかあさん達がパーティ用の料理をジャンジャカ作り、時間を見て、他のおかあさん達が車で学校へそれを運ぶという段取り。
ちなみに、おかあさん達のリーダーは食の章子さんのおかあさんだ。
タイミング次第では漫才を見られないかもしれないわねえと嘆くおかあさん達もいたが、そこは抜かりのない僕らのマネージャー亜美ちゃん。
亜美ちゃんの後輩金井君がビデオを回して録画してくれ、打ち上げパーティの時に流すことになっている。
亜美ちゃんはカメラに徹するらしい。
こうなると失敗は許されないなあ~

まだ幕の降りている舞台の袖から観客席をみると、さすがにちょっとびびった。
前のほうは、来賓席としておかあさんがたがびっしり。
来賓席と言えば聞こえがいいが、太郎が前もって頼み込んでヤジ的合いの手を入れてもらうように仕込んであるおかあさん達だ。
その後ろには、見たことのある制服から見たことのない制服まで、いろんな学生達がわやわやぎっちりつまっている。
少しビビってるオレを見て太郎が「オレたちは、誰よりも練習してきた。大丈夫だ。きっと大ウケ間違いなしだ!」
全国大会に出るサッカー部のキャプテンが言いそうなことを真面目な顔で言うので吹き出した。
それにしても、おまえ、白い割烹着、似合うなあ。
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街結君と太郎君25

2016年09月30日 | 野望
夏休み。
オレたちは、毎日漫才の練習に励んだ。
ネタはだいぶ前から収集しており、それを夏休み前半に二人してまとめた。
いや、ほとんど太郎が作るんだけど、オレが言うセリフがあまりに過激過ぎて言えなそうな場合のみクレームをつける程度。
それにしても、どうしてこんなに母親という生物はおもしろいのか。
いい間違いに勘違い、思い込みに殴り込み。
しかし、それを漫才にするってのはすごくむつかしい。
太郎は『言い間違い』を延々と言いつづけるというパターンにしたいらしい。
オレは、漫才に関しては全くの素人だから何も言えないのだが、ここだけの話、太郎だってそれほど詳しいわけでも勉強してるわけでもない。
うちのテレビのチャンネル権はママ猿にある。
今は、ほとんどうちでテレビなんか見ないが、土日の御飯時は一緒にテレビを見る。
ママ猿は「笑点」の大ファンだ。
観覧募集のハガキも毎週出しているらしい。
ヒキコモリ主婦のくせに。
でも、当たらないらしい。
「笑っていいとも」の観覧ならわかるが、「笑点」も希望者が多いのか?

太郎の笑いのセンスは、どちらかというと「笑点」に近い。
それを言うと「心外だな。」と言い、オレの笑いの基本は「ボキャブラ天国だ。」
なんじゃそれ?
小学校の頃、ずっと見てたっていうんだ。
「爆笑問題にネプチューン、テイク2に海砂利水魚、海砂利水魚ってのは今のくり~むしちゅ~のことね。
みんなボキャ天から出てきたようなもんだぜ。
爆笑問題のネタで『ストーカー?』を『須藤か?』っていうのは名作だよな。
今でも笑える。
あと、オレは金谷ヒデユキが大好きだったんだけど、引退しちゃったんだよなあ。
あいつ、すんげー才能あったと思うんだ。
つぶやきシローもオレは好きだったなあ。
プリクラが出たばっかりの頃、つぶやきシローのフレームのやつがあってさ、かあちゃんに頼み込んでオレ、一人で撮ったこともある。
見るか?多分まだオレの宝箱の中に入ってると思うぜ。」
なんだよ、その宝箱って。
太郎の言ってることの半分以上理解できないし、半分以上の人を知らないオレは早く話を終わらせるために「わかったわかった。おまえの原点はそのぼきゃ、ボキャ、ボキャブラリー天国なわけね。
言葉でいじることによって笑いを生み出すわけね。
わかったけどさ、西村んちの母親がよそんちの高級小型犬を捨て犬だって連れて帰ってきた話とか、
市来んちの母親が運動会の朝までかけっこの特訓をさせてた話とか、おもしろくないか?
あと、有拓のキャラ弁も写真撮ってスライドショーで流したいくらいだ。」
「ボキャブラリー天国じゃなくて、ボキャブラ天国ね。」と修正してから「作り始めて思ったんだけど、漫才の台本作りって、難しいんだよ。
おもしろかった出来事をただ並べても、教室で聞いた時の半分も笑えないんだよなあ。
だからもう、言い間違い勘違い路線で、ボケをたたみかけるようにこれでもかこれでもかって言い続ける方がいいと思うんだよな。」と太郎。
「ナイツ方式か。いやどっちかというとハライチかな。」というと「なにそれ。」
え?おまえ、ナイツ知らないの?ハライチも?

どうやら太郎のお笑いは、小学生の頃に見たテレビで終わっているらしい。
中学に入ったら、ずっとスマートに入り浸って、野球か相撲かニュースしか見てないもんな。
あとは常連おやじたちのエロトーク。
オレは少し不安になってくる。
こんなんで果たして客はウケてくれるのか。
さらには、太郎の当初の目的である、母親と思春期の男子の架け橋になれるのか。
オレの不安そうな顔を見た太郎が「大丈夫大丈夫。ウケなくても、最後にとっておきの作戦も考えてあるから。」
どこからその自信がくるのか知らないが、太郎は台本を作り上げ、夏休み後半はとにかく必死でそれを憶えた。
その練習の合間に、文化祭のポスター用の写真を撮ったりする。
予備校漬けの亜美ちゃんの予定に合わせて、亜美ちゃんの家の近くや、予備校の近く、学校の図書館などで撮る。
こだわる亜美ちゃんは、1枚ぐらいじゃ許してくれないのだ。
電車酔いしなくなった太郎のフットワークは軽い。
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街結君と太郎君24

2016年09月17日 | 野望
今日から「街結君の喫茶スマート」開始という日。
スマートのドアを開けて驚いた。
なんなんだ。この繁盛ぶり。
妙齢のご婦人方でいっぱい。
いや、はっきり言おう。おばちゃんたちでいっぱい。
ドアベルで振り返ったのは、時々学校の式典で見かけるPTA会長だ。
今年同じクラスになった才女吉田さんのおかあさんだ。
「あ、今日からだったわね。ごめんなさい。すぐ撤収するわ。おべんきょ、頑張るのよ。」
わらわらとおばちゃんたちが出て行く。
呆然としているオレに太郎が「あ、まちゆいには言ってなかったな。」
学校の授業をやっている時間帯、おかあさんたちが集まってマスターを中心に「頭の良くなる料理」勉強会をやっているらしい。

常連の女子が、スマートのマスターから聞いた「頭の良くなる食材リスト」をおかあさんに渡して、この食材でご飯作ってと頼んだことがきっかけらしい。
その子の母親は、前々から娘が入り浸っている「喫茶スマート」のことが気になっていたこともあり、PTA仲間のママを誘って恐る恐るのぞきにきた。
そして、マスターからいくつかレシピを教わったりしてすっかりマスターのファンに。
PTAの役員打合せとかをスマートでやっては、マスターの作る「頭の良くなる料理」試作品でランチパーティになったりしていたらしい。
採算度外視のマスターの大盤振る舞いが目に浮かぶようだ。
そのうち、噂が噂を呼び、勉強会へと発展していった。
いまや大人気となり予約制らしいのだが、「予約の取れない勉強会ランチ」と言われているらしい。
言われてみれば、テーブル数が増えて、なおかつ配置も変わっている。
以前は、オレの席に視線があつまるような配置だったが、今は、カウンターのマスターに視線が集まるような配置だ。
黒板まである。
そこに、マスターの几帳面な四角い字で、食材やらが書かれている。

勉強と言えば、母親達だけではない。
同じ、初日のこと。
常連の女子に連れられてきた子が、わからない数学の問題を、ちょうどすぐ近くのカウンター席にいてニコニコ女子高生をながめていたエロオヤジ、いや、もとい、省吾さんに尋ねた。
オレはすぐ省吾さんのフォローに回ろうとして立ち上がったのだが、太郎が「いいからいいから。座ってろって。」
え?だって省吾さん、前に・・・
省吾さん、その子に聞かれた問題をカウンターでさらさらっと解いた後、ヒントだけを与えて彼女自身に考えさせた。
それからその子に「答えあわせしよう。」とそのメモ用紙を渡した。
彼女「あ、一緒です。良かった。あのヒントでひらめきました。ありがとう。」
太郎が小さな声で「省吾さん、前に質問されて答えられなくて赤っ恥かいただろ。
常連の女子たちの間でも『省吾さんに質問したらダメ。』っていう、優しいようなかえってツライような暗黙の了解みたいなのができちゃってて。
省吾さん、それから数学の猛勉強始めたんだ。
数Ⅱまでで限界感じたって言ってたけどたいしたもんだよな。
わかんないところはナベさんつかまえて質問攻めだったんだ。
今日、やっとその努力が日の目を見たってとこだな。
いやぁ良かった良かった。」
ナベさんはナベさんで、国立志望の子から大学についての質問なんぞを受けている。
太郎が「斎藤さんは工学部志望なんだけど、親戚一同みんな文系一族で、彼女が初らしいんだよ、理系の大学受けるの。
で、学科選びで悩んでて。
やっぱ生の声って大事だよな。
高校の先生達の意見ってのは現場とは少し違うところもあるし。
福島だったら、とりあえず全部受けちゃえ!って言いそうだし。」
相変わらず女子の事情に詳しい太郎君である。

試験勉強が一段落したところでご飯だ。
小学校の給食の時みたいにがたがたとテーブルをくっつける。
マスターのサービス精神旺盛な料理の数々を並べるには、スマートのテーブルは少し小さいのだ。
今夜は、ナベさんも一緒に食べる。
メニューは「サバカレー」
「サバ?サバって、あの魚のサバ?」って聞くオレに「他に何のサバがあるんだよ。」って太郎。
ナベさんが「Ça va?(サヴァ?)Je mange.Tu manges?う~ん、Merci.
第二外国語、フランス語とってたのに、これくらいしか思い出せん。
省吾さんに見習って、オレ、今からフランス語の勉強し直そうかなあ。」
マスターが笑いながら「Bon appetito.どうぞ召し上がれ。」
え?何、それ何語?
マスターは若い頃ちょっとイタリアに行ってたことがあるらしい。
「オレ、ボンボンだからさ、親が留学でもさせれば三流大学でもハクがつくだろうって思ったらしいんだけど、こんな性格だろ?
ホームシックになって、速攻で帰ってきた。」
げらげら笑いながらサバカレーを食べたが、これまた絶品。
デザートは、今、マスターが興味を持っている食材「麩」で作ったティラミス。
マスター曰く「麩は脳の発育にいいらしいんだ。
麩っていろんな種類があっておもしろいんだよなあ。
今、勉強中なんだ。
もう少ししたら、麩のフルコースみたいなのを作るからな、乞うご期待だ!」
10時になって、帰る俺に「夜中、腹が減ったらこれを食え。」と麩をバターで炒めたスナック菓子みたいなものをビニール袋に入れて持たせてくれる。
太郎が「オレ、マスターに育ててもらった。」って言う気持ち、わかるね。
ラストチャンスだ。
気合いだ気合いだ気合いだ。
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街結君と太郎君23

2016年09月16日 | 野望
3年になった。
選択教科が重なったこともあり、オレと太郎はまた同じクラスだ。
亜美ちゃんとは、初めて同じクラスになった。
聞けば、亜美ちゃんも中央大学を受けるらしい。
亜美ちゃんも指定校推薦を狙ってるのかと思いきや、「推薦枠以上の希望者がいて、街結君が落とされでもしたら、あたしが中大に行く意味がなくなるから、あたしは一般入試で受けるわ。」と涼しい顔で言う。
てっきりオレたちが国立狙いだと思って、彼女必死で全科目勉強していたらしいが、中大だと聞いて拍子抜けしたらしい。
「3科目で良かったのね。
それなら楽勝だわ。
あたし、根っからの文系だから。
良かった良かった。」って、もう受かったような余裕の発言。
進路指導の福島先生からは「今年の3年は、よく努力している。
聞けば、みんなで勉強会みたいなのをやっているらしいな、おまえらが中心になって。
それはいいことだ。
全体的にみんな成績も上がっている。
特に女子の伸びは目を見張るものがある。
だが、なんでこんなに中大希望が多いんだ?
中大って、理系学科のキャンパスは都心ど真ん中にあるからそこそこ人気があるが、文系学科は多摩の山奥のキャンパスだから人気がなかったのに。
3年になってすぐの志望校調査で中大希望の多さに驚いたぞ。
国立受けろって、何人の調査票を突き返したことか。
おまえらが中大希望だからか?
新手の宗教団体かおまえら。
どんな勧誘しているんだ?
成績アップの功績は認めるが、プラマイゼロだ!」って言われる始末。

ありがたいのは、オレが評定ギリだってことをみんな知っていて、「大丈夫!あたし達一般入試で受けるから推薦は多分街結君だけだと思うよ。
大学に受かったら、亜美が街結君の写真集を自費出版するんだって!
そんでもって、それをあたしたちにはくれるっていうの。
でも、ひとつだけ条件があって、中大の推薦枠には希望しないっていう約束での写真集予約になるのよ。
福島先生が推薦枠の希望状況とか教えてくれればいいのに、「推薦枠」狙いで小さくまとまるな!なんて言っちゃって教えてくれないからさあ、じゃあ一般入試で受かるしかないよねえ。
やってやろうじゃん。
福島先生のねちねちした試験問題で鍛えられてるからねあたし達。
大丈夫。春にはみんなで中大の門で写真撮ろうね。」
太郎が前に言っていた「受験は団体戦」ってこういうことか。
って、ここで昔のオレだったら「オレは助けられてばっかりなのか。」って情けなく落ち込むんだろうけど、今のオレは違う。
情けないと言えば情けないが、今の実力じゃ絶対に一般入試では受からない自信がある。
模試の判定は最高でC判定だもんなあ。
だから、みんなの好意をありがたく受けて、最後の定期テストに臨むだけだ。
そして、この定期テストで評定値を上げて、絶対に推薦枠をゲットする。
入ってしまえばこっちのもんだ。
指定校推薦だろうが、一般入試だろうが、同じ教授で同じ質の講義が受けられるんだろ?
オレは文学部に入って、心理学を専攻したいと思い始めている。
人間の心を勉強するっておもしろそう。
今はその程度の浅はかなスタートだけど、『人間嫌い』だったオレが、人間の心を勉強したい、おもしろそうだ、なんて考えられるようになっているだけでも人間の心理っておもしろいよな。
太郎は太郎で福島からの『国立受けろ』攻撃がやまない。
「街結はともかく、なんでおまえが推薦なんだ?
法学部なら千葉大の法経学部も受けろ。
中大の法科に行っていいから受けるだけセンター試験も受けろ。
センター試験の結果を持って中大受験をするっていう手段もあるぞ。」
あの手この手の説得だが、太郎のことだから、なんだかんだ言って福島を説き伏せるだろう。
さあまた、今日から、期末テスト二週間前。
「街結君のいる喫茶店スマート」オープンだ。
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街結君と太郎君22

2016年09月10日 | 野望
明日から新学期。春休み最後という日の朝。
電話が鳴る。
荒木さんだ。
焼肉ご馳走してくれるっていうんで、ありがたくごちそうになりに行く。
昼でも夜でもいいけど、どっちがいい?っていうから、じゃあ昼ってことにしてもらう。
電車に乗ってる時に気が付いたんだけど、今日って平日だよな。
仕事抜けて来るのかな。
夜のほうがよかったんじゃないかな、春休みで曜日の感覚が消えてたからなあオレ。

待ち合わせ場所にきた荒木さんは、カジュアルな格好だ。
今日お休みですかって聞くと、「ん。まあ話は焼肉食べながらしようぜ。」
こういう時に遠慮は失礼だよなと、都合のいい時だけ太郎っぽい思考でガツガツいただくことにする。
荒木さんはビールを呑みながら食べている。
「この前はありがとうな。って言っても、だいぶ日が経っちゃって。
何から報告したらいいかって感じなんだけど、まずは俺、会社辞めたんだ。」
いきなりの爆弾発言だ。
「辞めたって、それは千春さんと別れたからですか。」って聞くと
「あ、聞いてるんだね、そのあたりのことは。」と苦笑しながら、一気にしゃべった。
くれはちゃんとのこともあって、自分のせいで太郎と千春さんとの関係を壊すなんて耐えられないって思ったこと。
くれはちゃんとはしばらく会わない。これ以上くれはちゃんの中に、困った存在として居座りたくないと思ったこと。
会社を辞めて九州に帰ること。
なんと、荒木さんって宮崎の人だったんだ。
思わず「九州の星ってすげえ綺麗ですよね。」って言ったら嬉しそうに「だろ?九州はいいぜ。
太郎君が九州行ったって聞いた時、ちょっとヤバいって思ったんだよ。
このまま太郎君が帰ってこないかもって。」
オレが「でも、太郎は、東京も好きなんですよ。ま、オレもそうだけど。」って言うと荒木さんが
「時々俺がさ、東京の悪口言うとさ、千春がものすごくムキになって反論するんだよな。
それがおもしろくてよくからかってたんだけど、ちゃんと彼女のDNAが受け継がれてるんだな。
結局のところ、田舎だろうが都会だろうが自分のいる場所が好きでいられるってのが幸せってことだよな。
俺は、ここで一回田舎に帰って、いろいろ考えることにするよ。
そつのない俺だからさ、一応次の仕事も決まってるんだ。
ただ、今までみたいにそつなく生きるんじゃなくて、時にはワガママに自分の思うままに、愛する人のためにがむしゃらに、ってのが目標。
ん?今のフレーズ、なんか歌のタイトルみたいだな。
知らない?B'zの「愛のままにわがままに僕は君だけを傷つけない」っての。
そんなことはどうでもいいんだけどね。
あと10年でくれはが二十歳になる。それまでに500万ためて、成人式の着物をプレゼントする。
新しいパパが何と言おうと、それだけは譲れない。
俺に似ててさ、可愛いんだよ。振り袖似合うと思うんだ。あ、写真見る?」
定期入れに入ってるくれはちゃんは、ホントに荒木さんにそっくりで、そしてものすごく可愛かった。
「で、残った金は、大学の学費の足しにでもしてくれって言うつもり。
俺、恥ずかしい話、君から太郎君の学費の話を聞くまで、そんなに金がかかるって思ってなかったんだ。
親に感謝したことすらなかったよ。
くれはの人生を作っていくものの一部分だけでも関わっていたい。
味方がたくさんいるってことは、悪いことじゃないだろ。
パパというポジション争奪戦では、今のとこ2軍落ちだけど、あきらめたわけじゃないんだ。
くれはがいつか本心から俺に会いたいって思ってくれた時に会う。
もしかしたらもうパパというポジションじゃなくて、「優しいおぢさん」レベルかもしれないけど
ずっとずっと、俺が生きている限り、俺はくれはの味方でいる。

こんなこと言うと、街結君気分害するかもしれないけど、初めて君に会った時『あ、俺みたいだ』って思ったんだ。
イヤ、いまでこそおぢさんになったけどさ、俺、若い頃は結構イケてたんだぜ。なんつって、ウソウソ。
見た目のことじゃなくて、雰囲気っていうか、少し人と距離をおいてるようなところとか、
そうそう、まさにそつなくつきあってる、みたいなとこね。
でも、正月に会って、しゃべって、俺は大きな勘違いしてたって気付いたよ。
君は、俺なんかとは全然違う。
そのことも俺にものすごいショックを与えた。
高校生の男の子が、友達のために一晩寝ずにパソコンと格闘して、
自分より30も年上のおぢさんに説教する。
いや、君は説教なんかしてないんだけどさ、俺は、君が一生懸命語るのを聞きながら、どんなに怖かった鬼教師に怒鳴られた時よりも心がひりひりしたんだ。
くれはのことのせいにしたけど、あの時思わず涙が出たのは、今までの俺の生き方を悔やんだんだ。
あれは悔し涙だったんだ。
それからの俺は、見違えるほどすごかったぜ、自分で言うのもなんだけど。
次の日、千春と会う約束をとりつけて、そのまま彼女を空港へ送りつけて、俺も宮崎へ飛んだんだ。
3日有休をとって土日もあって、ちょうど一週間くらい宮崎にいたんだけど、何年も会ってなかった友達とかとも会って、
親戚とかにも会って、仕事も決めたんだ。
それで東京戻って、辞表出して、なんだかんだで3月末をもって無事円満退職ってわけ。
一応は、何事も円満が俺のモットーだからね。
それで、明日、宮崎に帰るんだ。
バタバタしてて、街結君にお礼の焼肉をってのがずっと延び延びになってて気がかりだったんだ。
急な呼び出しだったのに、来てくれてありがとう。
最後に会えて良かった。
君のおかげだよ。いろいろ。」
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