神山町(かみやまちょう)は、徳島県の北東部、吉野川の南側に並行して流れる鮎喰川上流域に位置する
町であり、日本で最初に アダプト・プログラム を導入したことで知られています。
また、1992年に神山町国際交流協会が設立され、国際交流に積極的なことでも知られています。
(アダプト・プログラム (Adopt program)と は、市民と行政が協働で進める清掃活動をベースとした
まち美化プログラムのことです。
例によって、友人のH氏から先ごろ配信されてきました記事に、この神山町のすばらしい取り組みが紹介されていましたので ご参考に転載させていただきました。
神山町(部分)
(ウイキペディアより)
***********記事内容です************
『神山プロジェクト』 -未来の働き方を実験する
篠原 匡 著 日経BP社 2014/03 224p 1,500円(税別)
1.新スポットが続々誕生!
2.それぞれの再始動
3.創造を生む空気の正体
【要旨】徳島県神山町。過疎化と高齢化に苦しむ、どこにでもあるような山深いこの町に今、熱い視線が
注がれている。 ITベンチャーが続々と古民家をサテライトオフィスとして借りはじめ、多数の若きクリエイター
たちも移住してきているのだ。 それに伴い施設や店舗も増え、人口統計では転入者が転出者を上回った。
本書では、生まれ変わった神山に登場した数々のスポットを紹介するとともに、外から町に入ってきて
新しい生き方を見つけた各人の物語を綴る。
そして、神山の再生を演出した地元のNPO法人「グリーンバレー」の活動軌跡を辿り、彼らがめざすものを
浮き彫りに。神山をめぐるストーリーは、クリエイティブな “場” のつくり方、地域再生の方法、また日本人の
未来の生き方・働き方に数々のヒントを与えてくれる。 著者は日経ビジネスクロスメディア編集長。
------------------------------------------------------------
●ITベンチャーの移転ラッシュに沸く山あいの過疎の町
鮎喰川の畔に広がる人口6100人ほどの街、神山。 徳島市内から40~50分の距離だが、平地が少なく、
急峻な斜面にへばりつくように集落が点在している。人口は減少の一途をたどる。高齢化率も46%と、
少子化と高齢化に悩む中山間の典型のような地域だ。
ところが、神山はITベンチャーの “移転ラッシュ” に沸いている。名刺管理サービスを提供している
Sansanが2010年10月にサテライトオフィス「神山ラボ」を開設したのを皮切りに、9社のベンチャー企業が
古民家を借りた。 空き家として放置されていた古民家、それが続々とオフィスに姿を変えている。
また、移住者の増加に伴って、店舗や施設のオープンも相次いでいる。 アーティストやクリエイターなど
クリエイティブな人材の移住も加速しており、まさに新しく街が生まれ変わっている印象だ。
なぜ神山にはエンジニアやクリエイターが押し寄せるのか。 理由はいくつかある。
例えば、抜群のIT環境だ。その街並みからは想像できないが、神山は全国でも屈指の通信インフラを誇る。
現徳島県知事が情報化に熱心だったこともあり、2000年代半ば以降、徳島県は県内全域に光ファイバー網を
整備した。 その規模は県民1人当たりに換算すると全国1位だという。
もっとも、企業や移住者はITインフラがあるために神山を選択したのではなく、神山という地域と住民を
好きになったがゆえに拠点を設けた。言い換えれば、神山という「場」が醸し出す雰囲気に引かれたということだ。
その雰囲気の中心にいるのは、神山に本拠を置くグリーンバレーである。
●肩の力が抜けたNPO法人「グリーンバレー」
グリーンバレーは小さいながらもエッジの立った活動を展開するNPOとして全国的にも有名だ。
国内外のアーティストを呼び、滞在期間中に作品を創作してもらう「神山アーティスト・イン・レジデンス(KAIR)」は
15年目を迎えている。 職人など手に職のある人間を古民家に住まわせ、定住人口の増大を図る
「ワーク・イン・レジデンス」というプロジェクトを始めたのも彼らなら、働き方を模索する都会の企業に空き家を
貸し出す「サテライトオフィス」を思いついたのもグリーンバレーである。
その性格をひとことで語れば、「オープン&リベラル」だろうか。何事も否定から入らず、とにかく働き、
面白いことをかぶせていく。他人に何か強制することはなく、メンバーや参加者の自主性に任せて押しつけない。
肩の力がほどよく抜けた、田舎には珍しい集団である。
過去の失敗例を分析し、できない理由を羅列することだけでは関係者の意欲を削ぎ落とすだけで、
何の付加価値も生み出さない。 できる方法をトコトン考えて、「やったらええんちゃう」 でとにかく始める。
それが、グリーンバレーの原動力になっている。
「ワーク・イン・レジデンス」では、移住者を選別する逆指名制度を取った。子供の数が絶対的に少ない
神山にとって、会社をリタイアした中高年ばかりに移住されてもうれしくはない。それよりも、子育て世代や
若いカップルが来てくれた方が神山にはプラスだ。
移住者を選別することに疑問の声は出た。だが、理事長の大南信也は逆に選ぶべきだと主張した。
移住者は地域に花嫁を迎え入れるのと同じこと。お嫁さんを抽選で決める人はどこにもいない。それに、
移住者を受け入れれば地域にもストレスがかかる。 だからこそ、地域が納得する人を迎え入れるべ
きではないか。
そう訴えたのだ。 公正と平等を旨とする役所主導の移住者支援では、とてもここまで踏み込むことは
できなかっただろう。
ここ数年、大南は「創造的過疎」という概念をよく語る。過疎地における人口減少は避けることができない。
その現実は与件として受け入れたうえで、持続可能な地域をつくるために人口構造や人口構成を積極的に
変化させていく。 それが、創造的過疎の意味することだ。
大南は5年前、徳島大学の教授に依頼して、2035年の推計人口を試算した。その推計人口は3065人。
そのうち年少人口を小学校の1クラスに換算すれば、現状の28.9人から12.5人までの減少で、1クラス20人を
維持しようと思えば、親2人子2人の家族を毎年5世帯受け入れなければならない。
以来、年5世帯をグリーンバレーの目標に掲げた。 過疎を巡る問題は情緒的な議論に終始しがち。
具体的な数値目標を設定した意味は大きい。
●「モノ」ではなく「ひと」に焦点を当て続ける
これまでの経緯をひもとくと、グリーンバレーは自分たちにできることを一つひとつ着実にやり遂げてきた
ということが分かる。それも初めから大きな目標を掲げるのではなく、小さな成功体験を積み上げて、
もう少し大きな次の目標にチャレンジしていく。 その繰り返しがグリーンバレーの経験値を押し上げ、
賛同する仲間を増やしていったのだ。
もうひとつグリーンバレーに固有の特徴があるとすれば、それは「モノ」でなく「ひと」に焦点を当て続けたことだ。
重視しているのは、「そこに何があるかではなく、どんな人が集まるか」という一点に尽きる。
「B級グルメなんかはいずれ飽きが来る。それに対して、オモロイ人が適度に循環していれば、新しいことなんて
ナンボでも生まれると思うんですよ。そこにアイデアをポンと投げ込んで、ぐるぐると混ざって新しい何かが
出てくるというイメージかな」
新しい発想やプロジェクトは異なる価値観やスキルを持つ人同士の対話を通して生まれるものだ。
IT企業のサテライトオフィスばかりが話題になる神山だが、サテライトだけが神山ではない。
エンジニアからフリーターまで、あるいは起業家から自由人まで。この町の魅力は、さまざまな背景をもった
人間が集まる多様性にある。
神山に大勢の人が集まる理由、それは神山に漂う “空気” によるところが大きい。
よそ者に寛容で、排除することはあまりない。しかも、誰かが何かを絶えず仕掛けているため町の中は常に
アクティブで、楽しいこと、面白いことに加わろうとする大人は少なくない。
その一方で、他者に対する優しさもある。地域に迷惑をかけなければの話だが、移住者は基本的に放置せず、
見捨てない。前に踏み出そうとする限り、その支援も惜しまない。その優しさが、迷い人の心をポジティブに変えていく。
大南は最近こう思う。神山は日本の未来を投影した場所なのではないか、と。日本の地方は人口流出と
高齢化にあえいでいる。それを押しとどめるものがあるとすれば、それは道路でも美術館でもなく、
クリエイティブな人間の集積以外にない。人が集まる場をつくる。それこそが、生き残りの解だ。
同様に、企業もまた多くの課題を抱えている。オフィスで働くホワイトカラーの生産性は諸外国と比べて低い。
新興国が世界経済に組み込まれた今、付加価値創造を進めなければ国際競争を勝ち抜くことはできない。
その課題に対する解が神山で生まれるかもしれない。
遠隔ワークを進める過程で生産性は磨かれていく。「場」がクリエイティブを生む。田舎に行けば創造性が
刺激されるという単純な話ではないが、異なる環境が別のスイッチを入れるという面は確実にある。
さらに、神山に移り住んだ人々が新しい生き方を提示している。環境変化が激しくなるにつれて、
従来のような予測可能な生き方は難しくなりつつある。その時代に求められるのは、思い切って前に
踏み出す勇気と不確実を楽しむ開き直りだ。前に進めば新たな選択肢が現れる。それは、移住者が証明していることだ。
コメント: 地域再生や地域活性化など、持続可能性をめざすあらゆるプロジェクトにとって大切なことは、
「静」すなわち「安定」をつくるのではなく、常に「動」を求める姿勢をとることではないだろうか。
例えば、地域活性化のためにハコモノや名産品、ゆるキャラをつくって終わり、というのではなく、
それらを使った“面白い”イベントを次々と企画する、など。
あの「くまモン」にしても、くまモンそれ自体も魅力的だが、さまざまなユニークな仕掛けをすることによって
人気キャラに成長した。
神山のグリーンバレーの、良い意味での「ゆるさ」は、「動」をつくるために欠かせないものなのだと思う。
※文中の小見出しは書籍からの引用ではなく、情報工場が独自に作成しております。
Copyright:株式会社情報工場
**********
以前、私が映像の仕事をしていました頃に、映画監督の大林宣彦さんを囲んでお話をしていたことがありましたが、
その時、“そこに人がいて、自由に動き回る中で何か面白いことが生まれてくる・・” そんな、クリエイティブの
原点みたいな話題が出ていたように記憶しています。