マーケティングとは、ウイキペディアによれば、
『企業や非営利組織が行うあらゆる活動のうち、「顧客が真に求める商品やサービスを作り、その情報を届け、
顧客がその商品を効果的に得られるようにする活動」の全てを表す概念である。』と述べられています。
ちょっと難しいですが、私が以前から思っていた、部分的かもしれませんが、ここに簡単なお話を述べてみます。
お話し1、電灯が無い時代、ランプで明かりを取っていた人たちに、新しく開発された電灯(この場合電池式)を
売る時、相手(顧客)に対して、電灯はランプよりも何倍も明るいといって訴求するか、明るさはランプで十分だ
としている相手には、明るさよりもむしろ電灯は“煤”が出ませんよ と訴求するか、顧客の反応はまるで違ってくる。
つまり顧客が何を望んでいるかを見極めて訴求しないと、反応は得られない。
お話し2、材料も品質も申し分ない “まんじゅう” をお客に進める時、品質・価格・栄養などをいくら強く表現しても、
そのお客様は、今しがたケーキを食べて、むしろ渋めのお茶か、コーヒーが飲みたいかもしれない。
甘い“まんじゅう” は、今はお呼びでない。
こんな話でお時間をいただきまして、申し訳けありません。
いつもの、H氏から配信された記事の中に、大変分かり易いインドでの事例が紹介されていますので、
ここに再掲させていただきました。
記事に入る前に、ヤマハHPから、インド会社について簡単にご紹介します。
1985年インド進出、2001年現地法人化、2008年三井物産と合資現在に至る。
India Yamaha Motor Pvt. Ltd. (IYM)
婦人向けスクーター(代表車) (下図、ヤマハHPより)
現地法人 二輪車出荷台数
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『インドでつくる! 売る!』
‐先行企業に学ぶ開発・生産・マーケティングの現地化戦略
須貝 信一 著 (実業之日本社 2014/03 224p 1,600円)
1.インド進出環境と進出計画
2.インド市場と製品投入の戦略
3.インド市場と販売戦略
4.製品とブランド開発の失敗事例に学ぶ
5.生産と開発の現地化
終.日系企業インド進出の展望
【要旨】中国に次ぐ世界第2位の人口を有し、成長めざましい新興国BRICsの一つとして10年ほど前から
とくに注目を集めてきたインド。若い人口構成と、成長の余地のある貧困層が存在する魅力ある市場もターゲットに、
日本をはじめ多くの外資が進出を図っている。本書では、製造業を中心とする数社のインド戦略の事例を紹介。
価格戦略、ブランド開発、プロモーションなどの各論も含め、いかに競争優位を形成する現地化戦略をつくり、
実行していくべきかを論じる。その重要なポイントは、単に「安くて良いもの」をつくり売るだけでなく、インド人が
知覚する“価値”に留意することだという。著者はインドビジネスの調査・コンサルティング、情報提供を行う株式会社
ネクストマーケット・リサーチ代表取締役。
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●女性向け商品投入のために社会変革をも促したヤマハ発動機
インド市場を二つの言葉で表現するならば、「多様性極まる複雑な社会」と「貧しさ」である。より重要な要素は
「貧しさ」である。インド市場のボリュームゾーンには、「低価格」というシンプルで強いニーズが存在する。
「日本企業として当然の品質を維持しながら、低価格に挑む」というのは、すべてのプロセスに関わるものである。
それに対応してきた日系を含む外資系の先行企業は、コスト低減のためにバリューチェーン上の現地化を進めて、
コストリーダーシップを構築して競争優位を得てきた。「市場ニーズに対して製品を手頃な価格にして応える」という、
「王道の戦略」を採用することを前提とするならば、業種にもよるが、現地化は、もはや差別化要因や重要成功
要因などではなく、必須の戦略となりつつある。
インドの二輪市場は年間1400万台に迫り、今や中国を超えて世界最大の市場となった。その市場で、
これまで控え目なポジションを取り続けてきたヤマハ発動機が、2011年からこれまで主軸を置いてきた
東南アジアからインドへ一気に軸足を移している。同社は上位市場でブランドを浸透させた今、「スクーター」という
商品投入によってボリュームゾーンへのブランド下方伸張を開始させたのだ。
同社はただ単にスクーターに参入するのではなく、ターゲットの設定で工夫して参入する。それは女性向け
商品だった。「軽量化(プラスチック)」「操作性(小回りが利く)」「女性の身長で足がつく低いシート高」等、
女性向けのデザインと機能が備わっている製品「シグナスレイ」は、ヤマハにとって新たな商品カテゴリーであった。
ヤマハ発動機のインド法人「インディア・ヤマハ・モーター」の鈴木啓之社長は、「女性向け新商品のインド投入」と
「インドの社会条件」を照らし合わせ一つの答えを出した。それは「シグナスレイの生産ラインを女性だけで動かす」
という斬新なものだった。まずインディア・ヤマハ・モーターが本社を構えるウッタルプラデシュ州政府が女性従業員を
斡旋し、ヤマハは受け入れて雇用し、育成する。女性工員たちは給与を得て働き、学びながら、就業3年後には
「ITI(工業訓練校)」の卒業資格を州政府から得ることができる。彼女たちは資格を持って転職することも可能だ。
この「実習型・女性専用ライン」は、ヤマハ発動機にとっても世界初であり、インド業界内でも初となる先進的な
取り組みである。イニシアチブは、直接的、間接的に女性の社会進出、自立を促進する。それはまた「女性向け
スクーター市場をも育む」ことになる。「女性が自ら働き、自分のモノを買う」という先進国で当たり前の経済活動のない
インドにおいては、社会変革を促進することで経済活動を循環させる社会的イノベーションになっている。
最近のマーケティング用語で「ブランドの3i」といわれるものがある。ブランドの「アイデンティティ」「イメージ」に
加えて「インテグリティ」が重要であり、「顧客、社会への誠実性」がブランドを強固にするという概念だ。
シグナスレイは、同社のブランドインテグリティを象徴する製品となっている。
●インド人の価値観に沿うことができずに失敗したタタ・ナノ
日本企業ではないが、戦略の失敗例をみていこう。「スクーターを運転する父親の前に小さい子供が座り、
奥さんは後ろに小さな赤ん坊を抱えて乗っていた。こうした光景が中間層家族にとって『安全で、手頃な価格のクルマ』
について考える契機になった」。インド最大のタタ財閥会長(当時)であるラタン・タタ氏は、低価格車「ナノ」を発案した
経緯について、こう述べた。低所得市場向けの製品戦略として、インドのみならず世界的にも注目された。
だが、現実には、激安自動車「ナノ」は、まったく売れていないのである。
失敗の要因を一言でまとめるならば「ターゲット顧客に関する正確な情報の欠如」だろうか。
「発売開始時、ナノ購入者の80%がセカンドカーで、20%が初めてクルマを買う顧客だった」。タタ・モーターズの
ラマクリシュナン氏は地元メディアに、こう述べている。ここでいうセカンドカーは、買い換えではなく、既に1台
持っているということだ。「ナノ」の購入者の多くが、余裕のあるアッパーミドル層だったのだ。
ターゲットだった膨大な数の「二輪車に乗る四人家族」はナノに見向きもしていない。なぜか。その後の調査によって、
彼らは意外にも「ステイタスを気にする」ことがわかってきた。
インド人の価値観として、自己表現の価値観が相当程度あることがわかっている。「自己表現的価値」は、
価格戦略において、もっとも次元の高い消費の尺度である。例えばエルメスの高級バッグ「バーキン」は、
価格に占める自己表現価値の割合が非常に高い商品である。
インドでクルマを買う層というのは、ちょっとした成功者である。その成功者である彼らにとって「世界最安車ナノ
という製品を所有することによって、他人にどういう風にみえるか」が問題なのである。
「ナノ」は、「二輪オーナーからの乗り換え」をターゲットにしていた。そのため、価格は必然的に「二輪以上、
クルマ以下」としなければならなかった。それが10万ルピーだった。しかし、漠然とした10万ルピーという数字に
とらわれてコンセプトが開発され、すべての戦略が進むことになる。
「価格」とは、それだけで「商品価値を説明する基準」である。その低価格の意味をうまく説明できなければ
「低価格=低品質」「安かろう、悪かろう」で終わる。「受容価格範囲」という概念がある。
消費者にとって「価格は低ければ、購買意欲は増す」が、「これ以上安いと不安に感じるライン」もある。
ナノの場合は、受容価格範囲を超えている。この場合はコミュニケーションを取らなければならない。
発売にあたってのプロモーション戦略は、あまりにも規模が小さく、ターゲットに対して何も訴求しなかったに等しい。
「正確な情報の発信」「ターゲットとのコミュニケーション」を怠ったことで、イメージづくりは消費者に任され、
結果、「貧者のクルマ」として勝手なイメージが増幅されることになった。
●「価格」だけでなく「その他の価値」を上げることが重要
「安くて良い製品をつくれ」と言われたら、日本人エンジニアは間違いなくできる。仮に「安くつくるために、
品質を下げろ」と言われても、日本人エンジニアは、品質を下げずにつくってしまうはずだ。
では、「良い製品を安く売れば、必ず売れる」は正しいだろうか。「ナノの失敗」は、知覚価値の重要性について
警鐘を鳴らすものだ。「インドの消費者の知覚を侮ってはいけない」ということだ。低価格品を開発し生産することに
成功した際には、そのときこそ、逆に細心の注意を払って知覚価値を上げる戦略、戦術が必要であり、
意識してマーケティングコストを確保する必要がある。
インドの消費者に対する形容詞として“price-sensitive”という言葉がよく使われるが、実際は
“value-sensitive”といったほうが正しいのではないだろうか。「価格」は「価値」の重要な一要素であるが、
「その他の価値」を上げることは「価格」と同様、常に重要である。
価値に敏感なインド人消費者に対して、いかに品質を維持した値頃感のある製品を開発して、生産を実現できるか。
自社と製品の知覚価値を高め、いかにターゲットに対して適切な売り方ができるか。これが日系企業インド事業の
多くの主要経営課題である。また、これらを有利に実行、問題を解決していく方法の一つが、様々な「現地化」である。
コメント: ヤマハ発動機は、現地の人々が感じる“価値”とは何かを考え、しかも“新しい価値”を掘り起こそうとした。
もちろんその“価値”とは、「価格以外」のものだ。一方、タタは「価格以外」の価値をアピールすることに失敗した。
「価格以外」の価値を見つけるには、人々にとっておカネの多寡に関わらず実現できる「幸福」とは何かを考えていく
といいのではないか。そしてこのことは、新興国の現地化戦略のみならず、国内外を含めたほとんどのビジネス戦略に
当てはまるのかもしれない。
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