「羽衣の松」という小説を書いた仲間がいた。
老境に入ってロマンスには無縁と感じ始めていた時、突然女性の方から思いを告げられたのだ。
彼は驚き、うれしくも感じた。
若い時は何度か恋愛をしたことがあったが、縁あって現在の女房と結婚し40年を共に過ごしてきた。
それだけに同じ同人誌に所属する女性に誘われて食事をし、その後一夜を共にしたことはそれとなく記録しておきたかった。
天女からふわりと羽衣をかけられたと表現したのは彼の心境そのものだ。
富士山が世界遺産になったとき三保の松原もその一部に含めるよう働きかけが行われたが除外された。
45キロも離れていることが主な理由だが、申請されたことで三保の松原の知名度は格段に上がった。
羽衣伝説は世界中に説話として存在し、日本では滋賀県や京都府の風土記に残されているのが最も古いのだが、富士山がよく見える場所として再認識された。
羽衣伝説も、三保の松原のご相伴でこちらも有名になった。
彼は小説を書くにあたって<天女>についって調べてみた、
世界中の伝説の中で多いのは白鳥が水浴びしているとき天女の化身した姿であることを見られ、その美しさに天へ帰すまいとして男から衣服を隠されるという話である。
先にも書いたが羽衣をふわりとかけられたというのは彼の心境であり創作でもある。
同人雑誌だからどうせ仲間内しか読まないだろうとたかをくくっていたが、発表後まもなく奥さんから「あなたに羽衣をかけた方ってどんなな方?」とチェックが入った。
「どんな方といわれてもフィクションだからね」
逃げようとしたが追及はやまなかった。
見当違いかというと実は嗅覚鋭く浮気を感知しているのだから彼も助からない。
フィクション一点張りでその場をかわしたが納得した気配はなかった。
そうなると互いにそこにいるだけの夫婦関係に否が応でも目を向けざるを得なくなる。
「あなたって貿易会社で部長職を務める傍らいつも浮気の相手はいないかと妄想していたのね」
「おまえ、それはひどいだろう。仕事はきちんとしているし、子供たちもそれぞれ成長して巣立っていった。余生に小説ぐらい書いたっていいじゃないか」
「あなたに羽衣かけた天女さんて、雑誌のお仲間なのね?」
鎌をかけているのだと思った。
辟易して居直りたい気分が湧きかけた。
時あたかも離婚に伴う妻への財産分与が50パーセントと法改正され、マスコミを賑わわせていたころだ。
奥さんの彼への詮索はその辺を意識してのことかとも考えられた。
一週間ほどして合評会に出掛けようとしていると、「あたしも行っていいかしら」と妻が言う。
「何を血迷ったことを言うんだ。そんなことしたら離婚だぞ」
「あなたのお相手の女性がわたしに離婚してくださいと手紙をよこすんだから、私だってどんな女性か確かめる権利があるでしょう?」
彼は絶句した。
妻からも浮気相手からも逃げたくなった。
女性にはそれぞれの人生を歩む権利がある。
それはいい。
同時に自分も主としての責任を免れ、自由に生きてみたいという欲求が湧いた。
「息子や娘も父親の行動を理解してくれるんじゃないか」
そう思えるるのだった。
〈おわり〉
「富士曼荼羅絵図」には三保の松原が富士登山の入り口と書いてあるんですか。
江戸時代から富士山と三保の松原は切っても切れない関係があったんですね。
もっと強調すればよかったですね。
世界遺産から除外されたもう一つの原因は三保の松原の防潮堤が美観を損ねるとありましたが、もしかしたら後世の人の配慮がもう少しあったら認められていたかもしれませんね。
浮世絵の存在を教えていただきありがとうございました。
富士宮の「富士山世界遺産センター」に行ったときに、館内に、東海道から富士山頂に至る広大な景色を描いた「富士曼荼羅絵図」がありました
そして、その絵図の下方には、駿河湾と三保の松原が描かれ、三保の松原は、富士登山の入口の位置づけになっていますから、この曼荼羅絵図を強調すれば世界遺産に含められたのでは?
おっしゃる通り初老の男性の夢物語です。
長く書くとボロが出ますので、男の意地を見せたところで終わりにしました。
世界遺産に登録されたこともあって、富士山の外国観光客の人気がすごいようですね。
三保の松原もひっくるめて世界遺産へと目論んだのですが、こちらは除外されて残念でした。
45キロも離れていても遠景の富士山が綺麗に見える場所として知名度が上がり、合わせて羽衣伝説も知られるようになりました。
小説にしたくなるような話ですね。
男は我慢の動物ですが、いざとなうと決断するところを書いてみました。
初老の男性のホンワカと抱く夢物語なのでしょうか
「三保の松原の伝説」ロマンがありますね。
羽衣の美女。。。遠景の富士山にも似合いますね。
外国の方に富士山が凄い人気の様で、ニュースでも騒がれています。
現実を逃避して、小説の世界に浸るのもイイです。。。(^∇^)