北前船
「海」
うみが好きだから
岬の丘にのぼって海をみる
秋の 波は鋭く頭巾を鎧い
聡明なまなざしで
臨海線を洞察する
遊泳禁止の赤旗が
わすれられた色でなぶられ
補給の切れた空き缶は
きらきらと
飢餓にかがやく
かぜと砂と
波 波 波
決意した光の冷たさを
じっと耐える
--秋は
海のすがた(本性)かよ
だが 海をみよ
波を剥ぐって
表皮の下の鼓動をきけ
ある日 岬の
丘から見る海に飽きたとき
みずから坂を下りて
海のこころに手をつっこむ
ふゆや夏
春の 怠惰なめざめの朝も
憎々しげに
両手でかきまわし
あたまを下に喰らいつくのだ
網でしぼり
イカリで引き裂き
血だらけにするのだ
混沌の海には
無感動と
無目的と
みずから掴み上げた
血潮のほかに
獲物はない
にほんブログ村
詩人の目に映じる海とは、こんなものだと。
凡人の感覚では及びもつきません。
いつものことながら、そこに選択された言葉が研ぎ澄まされております。
情景を的確に捉えるとともに、そこには物語性を孕んでいますね。
そんな詩を自分も作ってみたいと憧れますが、所詮無理でしょう。
「潮騒」の海も、「太陽がいっぱい」の海も、ロマンを孕んで可能性に満ち満ちています。
一方、海には難破もあれば、津波もある。
図らずも海の諸相を見せられて、しかし相変わらず漁でにぎわう港がよみがえり、いつの日か悲嘆も怒りも呑みこまれるでしょう。
諦めに流されない海、生き残った松、乗り上げた船を象徴として、心に焼き付ける。
むかしの詩に、ものがたりを読み取っていただき感謝申し上げます。