コオロギ
(ウェブ画像)
ゆうべは雨も風もすごかったよ
叩きつけるような豪雨と
くさむらを巻きあげる強風に耐えて
草の根にしがみついていたんだ
こんなことは初めての経験だな
そうだよ50年に一度だというんだから
川辺で釣りをしていたおじさんたちも
昨日はそそくさと帰っていったもの
釣り人のポケットから漏れるラジオの音が
レベル5の台風が近づいているから
早め早めの避難を心がけてくださいと
繰り返しうながしていたもんな
人間さまもとにかく大変だよな
守るものがあり過ぎるからな
その点コオロギは身を守るだけでいい
与えられた命を生きて種を残すだけさ
それでも夜はホントに怖かったぜ
川の水がゴーゴーと岸をえぐるし
時たま地響きを立てて何かがぶつかる
土手の向こうの家の灯りもピリピリしてた
なんとかやり過ごして朝方まどろんだ
緊張していたから鳴く元気もなかったよ
50年に一度という危機を乗り越えたんだ
人間さまともどもほっと胸を撫でおろしたよ
ところが、なんだ・・・・このありさまは!
昼過ぎに急に濁流がおそってきて
いきなり近くの堤防が決壊したんだ
上流のダムが緊急放出した水のせいらしい
こんなのありかよ? お偉いさんよ
コオロギはじめ虫たちは濁流に流され
渦に巻き込まれて虫の息さ
土手下の家も屋根ごとゆっくり流されてさ
なに? お上のダムが危なくなったら
下々に流してもいいと法律で定めているのか
しもじもに被害が及んでも仕方がないってか
なんだか血も涙もないやり方じゃないか
台風の進路も降雨量もかなり予測できるのに
ダムはなぜ早めに放流しないのだ!
これ以上貯められない所までため込んで
一気に放出なんて仮令お代官様でも困ります
スーパーコンピューターよ 早く神になれ
正確なダム貯水予測を発表せよ
ダム管理者に早期放流の裁量権を与えよ
民は死ぬよりはのどの渇きに堪える方がいい
現行では、ダムが満杯になりそうな場合、緊急放流することが認められているが、それでも利水ラインを下回る放流はどのダムもやっていないらしい。
つまり、治水のための調節は、利水ラインという基準を守るために制限されているのだ。
確かに飲料用水・農業用水とも大事だが、昨今の異常気象下ではこれまでの基準では対処できなくなっている。
命を守るためには、台風の進路や雨雲の分布を予測して、事前に思い切った放流を考えなければならないと専門家も言っている。
事前放流や流量調節はすでにやっているが、利水ラインを大幅に下回る放流はやりづらい。
だから、ダム周辺に大雨が降ると一気に満水になってしまう。
ただし、ダムによる治水には限界があることも事実だ。どんなに準備しても、中・下流域の氾濫や堤防決壊は防げないかもしれない。
台風19号は、これまでの対策を根底からひっくり返す事象だったのだ。
ぼくたちは、どこにいても安全ではないことを肝に銘じ、注意深く行動しなければならなくなった。