折りしもザアザア降っていた雨は上がり、わたしの心の中のように灰色の雲が切れ、そこから日輪の光が差しているではないか。北東へ街外れの「あらくさ」から、南へ一路「梅蕎麦」へ、蕎麦のトライアングル大移動である。
ここもそれなりに街外れに位置している。入ってみると、車で旅行中のカポーがいるだけで空いていた。すでに一枚食べた直後であるにもかかわらず、「二色蕎麦」を注文する。普通の蕎麦と柚子蕎麦のカップリングである。これがものすごく細い。しかし太さに乱れもなく、ほとんど芸術作品である。
さらにコシが強い。ラーメンでは、ちぢれ麺を使ってスープとからませるが、この蕎麦は驚くほど細いので、つゆとよくからまる。いや麺が真っ直ぐなので、「からまる」というよりは、編みこんだように一体化して流れ込んでくる。味のバランスもよく、完成度が実に高い。私は大食いではないが、先ほどの天ざるをものともせずに堪能できる蕎麦であった。
私の差し出した千円札を受け取ったあと、店のお嬢さんの動きが一瞬止まった。おつりを待ってこっちも止まる。「領収書が要りますか?」と尋ねるので、「要りません」と答えたが、また一瞬空白の時間が過ぎる。「とてもおいしかったですよ」と言うと、「ありがとうございます」と答え、また空白。。。
はた、と気がついた。「もしかして、千円ぴったりですか」と聞くと、「そうです」と答えた。いつまでも見つめている変なオヤジと思ったことだろう。妙にはぢかしひ気持ちになったのであった…。