伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

ルポ大学崩壊

2023-10-14 22:54:57 | ノンフィクション
 独立行政法人化と運営費交付金の削減、国立大学法人法改正による学長選考方法の自由化などによって独裁化と政府による支配が進む国立大学の惨状、私立学校法の改正で(学長・総長ではなく)理事長がトップとなり理事長の思うがままに運営できることになったことで私物化が促進された私立大学の惨状、多発するハラスメント、有期雇用職員の雇止め、非常勤教職員の雇止め等の雇用破壊、文科省役人の天下り等の実情を報じた本。
 最初に紹介されているのが、吉田寮自治会に対して訴訟提起して立ち退きを求め、タテカン(立て看板)を一方的に撤去して学生・教職員組合と対立している私の出身校京都大学です。私が在学していた頃には、まだノーベル賞受賞者輩出などよりも「反戦自由の伝統」を誇りに思う風潮があったのですが、落ちぶれ変わり果てた姿に悄然とします。
 有期雇用の職員や教職員の雇止めに関しては、裁判上、雇止めが有効とされる(労働者敗訴)ケースが相次いでいます。それは、労働契約の条項や規則、担当業務の差替えなどを工夫して、おそらくは使用者側の弁護士の入れ知恵で大学側がうまく立ち回っているためです。判決文を読んでいるとため息が出ますが、裁判所にはそういった大学側の小ずるい手法が今のところ効いています。こういったやり方は、短期的には大学側=使用者側の勝利となっていますが、このような状態が続けば、大学での有期雇用が、「大学」という言葉/ブランドが与えるイメージとは異なり、極めて不安定な労働者・研究者にとって割に合わないものだということがいずれは世に知れ渡り、大学は有能な人材を確保できなくなると、私は憂いているのですが。


田中圭太郎 ちくま新書 2023年2月10日発行

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

70歳からの正しいわがまま

2023-10-06 21:02:33 | ノンフィクション
 終末期に在宅で過ごす患者の訪問医療を行う著者が、訪問医療での自らの経験を語り、死にゆく姿ではなく、他人の考えに従うのではなく、自らの考えに基づいてギリギリまで生きたいように生きて行く患者たちの姿を見て、そのような生き方、死のあり方を勧める本。
 70にして矩を踰󠄁えよ、70歳になったら人として分別ある行動をとる、なんてことにとらわれる必要はもはやないのではないか。わがまま三昧、他人に多少眉を顰められたとしても、やりたいことをやりたいようにやっていい、やるべきだと私は思う(187ページ)というのが、この本の基本メッセージとなっています。周りの人は迷惑かもしれないけれど、死が迫っているのだし、構わない、そんなこと構ってられないということでしょうね。
 ただ、時折思うのですが、死ぬときに幸せか後悔しないかが、それまでの人生がどうであったかを打ち消してしまうほどに決定的なものなのか、それもまた悲しいなという気がします。


平野国美 サンマーク出版 2023年4月20日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

女性不況サバイバル

2023-10-03 21:13:36 | ノンフィクション
 コロナ禍の下で、元々低賃金・不安定雇用を強いられてきた女性労働者が、夫セーフティネット(働けなくなっても賃金が下がっても男性に扶養してもらえるだろうという偏見から対策がサボられる)、ケア軽視(ケア労働は家庭で女性がただでやっているような労働だから高い賃金を払うなどの必要はない)、「自由な働き方」(フリーランスは自己責任だから労働者並みに保護する必要はない)、「労働移動」(失業しても転職して別のところで収入を得ればいいから手厚く保護する必要はない)、世帯主主義(コロナ禍の下での給付金等は、「迅速な支給」のために世帯主に支給する)、強制帰国(技能実習生は妊娠したら雇止めとなっても技能実習ができないから在留資格が更新されず強制帰国となって雇用終了)という6つの仕掛けによって、さらに苦境に追い込まれたことを批判的に紹介するとともに、それと闘って成果を上げた事例を紹介する本。
 昨今の日本政府の政策や企業の姿勢への批判、それと闘うことを諦めるな、闘って勝っているケースがあるというメッセージはいいと思います。
 ただ労働者側の弁護士としては、実際にはもう少し労働者側が闘えているところがあると感じています。第1章で中心的に論じられているシフト制の労働では、近時の裁判例でも、私の実感でも、契約書上労働時間が明記されず時給だけしか定められていない場合でも、現実のシフト指定(週の労働日の日数、1日の労働時間)が数か月程度概ね一定であれば、その後に使用者側の都合でシフトを減らされたら、減らした指定が無効でその分の賃金を払えと裁判所は判断すると思います。使用者の好き嫌いでのシフト削減なら賃金全額、コロナ禍での業務縮小が合理的と考えられる場合でも労働基準法第26条の休業手当6割分は十分にいけると思います。それは裁判ではということではありますが、裁判をすればそうなるのだからという交渉も可能でしょう。
 フリーランスについても、契約書上は自営業者への業務委託でも労働の実態によっては労働者と判断されることがあります。有期契約労働者の雇止めに対しても、近年使用者側の巻き返しが強く裁判所も揺れ動いていますが、過去に数回更新しているケースでは民間なら十分闘えるケースが多くあります(公務員:会計年度任用職員と、派遣労働者については、裁判所が頑なに救済を拒否しているのでかなり厳しいですが)。
 そういったところで、労働者側の弁護士の目からは、この本のニュアンス以上に労働者側が闘って勝利できる場面も多いと感じていますので、諦めないで欲しいなぁと思います。


竹信三恵子 岩波新書 2023年7月20日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

報道弾圧 言論の自由に命を賭けた記者たち

2023-10-02 23:16:10 | ノンフィクション
 容疑者の殺害も辞さない「麻薬戦争」を推進するドゥテルテ大統領と次いで大統領となったマルコス・ジュニア政権下のフィリピン、プーチン政権下のロシア、習近平政権下の中国、内戦下のイエメンとシリア、エルドアン政権下のトルコ、皇太子(現首相)がジャーナリスト殺害を指示した疑惑が報じられているサウジアラビア、国軍によるクーデター後のミャンマーでの政権に都合の悪い報道をした記者の殺害や逮捕、いわゆる民主主義国での機密情報やフェイクニュース規制を理由とする記者・報道機関への捜索などの状況をまとめた本。
 昨今の世界の状況をおさらいするにはいい本だと思いますが、あらゆることがらについて上には上がというか下には下があるわけで、記者が次々殺されたり逮捕されている事例を並べてしまうと、少なくとも表立った形では殺されたり逮捕されていない日本の状況はまだましじゃないかという印象を与えかねません。最後に日本の状況についても、国境なき記者団の報道の自由度ランキングで安倍政権以降いわゆる先進国で例外的なほど低迷している事情を情報公開のお粗末さ、特定秘密保護法、高市発言等を挙げて述べているのですが、いかんせん迫力不足というか及び腰に見えてしまいます。もっとも、それは、日本ではまだ殺されたりするわけじゃないんだからこの程度の政権の圧力でビビったり忖度しないでもっと頑張れるだろうという形で報道側に返っていく話かと思います(映画「妖怪の孫」「分断と凋落の日本」で、ニューヨークタイムズの記者が指摘していることです:映画「妖怪の孫」についてはこちらで、「分断と凋落の日本」については2023年6月6日の記事で紹介しています)が。


東京新聞外報部 ちくま新書 2023年8月10日発行

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

雪ぐ人 「冤罪弁護士」今村核の挑戦

2023-09-14 13:36:40 | ノンフィクション
 有罪率99.9%という弁護人にとっては絶望的な日本の刑事司法の下で無罪判決14件を獲得した今村核弁護士(2020年8月没)の刑事弁護の実践、生い立ち・経歴等を描いたノンフィクション。NHKで放送した番組の制作過程での取材を元に出版したものだそうです。
 私自身、刑事事件を(刑事事件も)やっていた頃は、弁護士会内では刑事弁護についてそれなりに評価されていたと思いますが、刑事事件を(刑事事件も)やっていた22年間(1985年~2007年)で全部無罪は1度も取ったことがなく、一部無罪が1件あるだけです。私は、公判請求された後に無罪を取ることは絶望的と認識して、刑事弁護は起訴前弁護の方に力を入れて不起訴を取ることを目指してやっていました。無罪判決14件というのは、弁護士の世界では、とてつもないことです。
 無罪判決獲得に向けた今村弁護士の執念と取り組みに感銘を受けるとともに、弁護士としての経験上わかっていることではありますが、そこまでやらないと無罪判決が取れない日本の刑事裁判って何?と改めて思います。
 著者であるNHKのディレクターが、インタビューで専門は何かと問いかけた(当然聞いている方は冤罪事件が専門と言わせようとしている)ときの今村弁護士の応答が、弁護士の目からは実に切なく、また共感します。「『専門は、冤罪事件です』って言ったらさ、その瞬間に、俺の商売生命は終わりだから。…他の依頼が来なくなるから。いちばん困るような質問なんだよ!」(11~12ページ。133~134ページも同趣旨)。弁護士にとっては当たり前のことなんですが、労多くして報酬がほとんど得られない経済的に割に合わない事件について、専門の弁護士なんて報道されたら営業的にはマイナスにしかなりません(そのあたりはこちらのページで書いています→「弁護士の専門分野」)。そのことを報道側がわかっていない(弁護士は自営業なんだから報道されれば宣伝になっていいだろうくらいの姿勢でいる)ことの方に、私などは驚きます。
 マスコミの人の認識に関して、「巨体、ボサボサ頭、くたびれたスーツ、ヨレヨレタオル、ボソボソ声、無口――――。それも、凄腕弁護士のイメージからかけ離れていた。テレビドラマなどで観る『できる弁護士』と言えば…」(23~24ページ)いうのも、ノンフィクション・ドキュメンタリーやる人なら取材してわかるでしょ、テレビドラマの方がいかにいい加減で現実離れしているか、そちらをテレビ人として反省すべきでしょうに。また、「法律家が自ら『法知識だけでは勝てない』と断言していた」(184ページ)と何か意外なことのように書いていますが、刑事事件だけじゃなくて、民事事件でも、実際の裁判ではほとんどは事実認定の争いで勝負が決します。法解釈以前に証拠・証言をどう評価するかが重要です。そこでは法律以外のさまざまな領域の知識経験がものを言います。そんなこと当たり前なのに、ドキュメンタリーをやる報道人がその認識もないのか…
 そして、同業者としてさらに哀しいのが、冤罪事件で無罪判決を取った場合でさえ、依頼者(の一部だと思いますが)からは「『もともと無実なんだから、勝って当たり前』と言われるので、喜びは意外と少なくて、苦しみばかり多いんですよ」(195ページ)というところ。そして、痴漢冤罪事件で否認を続けるなら妻を逮捕すると言われて妻を守るために虚偽の自白をした夫が妻も支援活動を続けて3年以上かけて無罪判決を得ても夫は拗くれ妻との間に溝ができ結局離婚したというエピソード(111~114ページ)も、弁護士として哀しいところです。今村弁護士はそういうところも怒りに変えてエネルギーにしていたというようですが、大変な労力をかけて勝った場合でさえ報われないこういう事情が、理想に燃えていた弁護士の多くを潰しているのだと、私は思います。


佐々木健一 新潮文庫 2021年5月1日発行(単行本は2018年6月:NHK出版)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

安倍・菅政権vs.検察庁 暗闘のクロニクル

2023-09-08 21:53:11 | ノンフィクション
 安倍政権が黒川弘務(当時東京高検検事長)を検事総長にするために黒川の定年後も勤務を延長することを閣議決定し、それを後付けで正当化するために目論んだ検察庁法改正案を提出したことで世間の注目を集めた(結果的には黒川弘務の賭け麻雀が暴露されて目論見は潰えた)事件に至る検察幹部人事をめぐる安倍政権と検察庁の暗闘・駆け引きを描いたノンフィクション。
 その対象事項とタイトルから受ける印象とは裏腹に、この本のスタンスは、(安倍はさておき)菅義偉は悪くない、黒川弘務はいい人で安倍政権に便宜は図っていない、むしろ黒川の検事総長就任を潰すために早期の勇退を拒み検事総長に居座り続けた稲田伸夫にこそ問題があったというものです。菅義偉については、日本学術会議の候補者中の6名の任命拒否はまずかった(ここだけは批判的:26~27ページ)けれども、それ以外の人事(官僚の人事)は内閣が任命するのが当然という書き方で、検察幹部の人事も菅が主導したものではなく、杉田官房副長官の意向や法務省側の意向によるもののように書いています。
 著者は、毎日新聞社会部記者、朝日新聞社会部記者を経てフリージャーナリストとなっています。読売新聞や産経新聞ではなく、また政治部でもない記者が、こういう見方の本を書くことは、私には驚きでした。そして、この本が出版されたのは菅政権発足直後で、菅義偉が現役の総理大臣の時期です。官僚の人事を壟断することで権力を維持し強めてきた菅義偉をこのテーマで批判追及せずに、実は菅は悪くなかったなどと賛助賛美するのでは、現在の権力者に媚びを売るものと見え、ジャーナリストとしての姿勢に大きな疑問符を付けざるを得ません。


村山治 文藝春秋 2020年11月25日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

わたしは広島の上空から地獄を見た エノラ・ゲイの搭乗員が語る半生記

2023-08-26 00:13:19 | ノンフィクション
 広島に原爆を投下した「エノラ・ゲイ」(隊長ポール・ティベッツの母親の名前)と名付けられた爆撃機B29の尾部射撃手であり、エノラ・ゲイが投下後直ちに退避行動に出た(尾部が爆心地の方向を向いている)ために爆発の様子を唯一目撃し、その様子(有名なキノコ雲等)を写真撮影した著者の半生を綴ったノンフィクション。
 爆発の実質的に唯一の目撃者であり、また原爆投下の直接の様子を知っているという点で、貴重な記録、ではありますが、その人物自身の生い立ちとか、女性関係自慢を読む価値がどれだけあるのかという思いが募りました。
 1995年の本を今になって日本で出版すること、そして原題と大きく異なる「わたしは広島の上空から地獄を見た」という邦題をつけること、被爆2世の訳者が著者を非難すべきでないと言うこと(441~442ページ)に私は違和感を持ちました。原爆を投下するために日本に向かうエノラ・ゲイの機内にヌード写真が貼り付けられていたこと(396ページ)、原爆投下後の機内で乗組員のひとりが「あの噴煙の中にあるものは、死だけなんだ」とつぶやいたが、著者は写真を撮り続け、隊長に聞いたのは「このたびのことをやり遂げるのに、どれだけの人間がかかわったのでしょうか?」(原爆開発の苦労の話)という質問だった(415~418ページ)というのは、貴重な体験談ですが、著者の意識に投下された側が味わう「地獄」があったようには見えません。本人自身、原爆の投下を「少しも後悔していません」と述べている(441ページ)というのですし、一番最後にある「わたしは、エノラ・ゲイの尾部から見たあの朝の光景を、ほかの誰にも決して見せたくないと願っているのです」(433ページ)という2行がいかにもとってつけたようで浮いています。訳者はその2行をもって著者が良心の呵責を感じていた(被爆者たちが「あのような悲劇は二度とくり返してはならない」と悲痛な思いで訴える言葉とも重なるとまで言っています)という(441~442ページ)のですが、私にはとてもそうは感じられません。


原題:FIRE OF A THOUSAND SUNS
ジョージ・R・キャロン、シャルロット・E・ミアーズ 訳:金谷俊則
文芸社 2023年5月15日発行(原書は1995年)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

動物がくれる力 教育、福祉、そして人生

2023-08-17 22:42:26 | ノンフィクション
 不登校児童、虐待を受けた子どもたち、受刑者、障害者、重症患者らが犬、猫等とのふれあいを通じて癒やされ人生に前向きになれる様子とそのような場を設けている施設、活動についてレポートした本。
 放置すれば殺処分が待つ保護動物と虐待を受けた子どもや受刑者などをマッチングすることで、自らと似た境遇にあった動物が無条件に愛情を見せ傍に寄り添ってくれてその動物を世話し交流できる環境をつくり、人とはうまくコミュニケーションできなかった者が積極的になっていくというWin-Winの活動が多く紹介され、なるほどなぁと思います。
 虐待を受けた子どもがリラックスして証言できるように付き添うという付添犬の活動・活用が紹介されています(93~102ページ)。リラックスできること自体はいいのだろうと思うのですが、その付添犬の持ち主やその過程で関与する人から子どもが何らかの影響を受けないか、それに気を使って証言が歪まないか、私にはわかりませんが、仕事柄気になってしまいます。


大塚敦子 岩波新書 2023年4月20日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

法廷通訳人

2023-08-09 23:57:25 | ノンフィクション
 大阪地裁等で刑事裁判の韓国語の法廷通訳人を務める著者が、自分が経験した事件での法廷通訳の実情、裁判官、検察官、弁護人、被告人、その親族、被害者、傍聴人などの様子を描いたノンフィクション。
 弁護士の目には見慣れた(といっても、私はもう刑事裁判は引退状態ですので、大昔の旧聞に当たりますが)法廷の様子が、通訳人の目から見るとこういうふうに見えるのかということに興味を惹かれました。
 最後に紹介されている「げんこつで殴って金品を盗ろうとしたがかなわず、その結果相手に加療約一週間の怪我をさせた」(250ページ)という強盗致傷事件。著者が法廷通訳を務めるようになって数年が過ぎていた(248ページ)というのに、著者が強盗致傷罪の法定刑(当時は無期または7年以上の懲役)も、執行猶予がつけられない(執行猶予は3年以下の懲役でないとつけられず、法定刑が7年以上の懲役だと酌量減軽しても3年6月以上の懲役なので執行猶予にできない)ことも認識していなかったということに驚きました。法廷通訳の仕事は法廷での発言をただ通訳することなので、法律を勉強することや法律の内容を理解していることは求められていないとは言えますが、仕事としてやっていて、そういうことを知ろうとしないものなのでしょうか。
 私自身は、通訳を頼んだ事件は1件しか経験しておらず、その事件がこの件ととてもよく似た韓国人青年による
強盗致傷の捜査段階の弁護でした(その内容はこちら)ので、とても感慨深く読みました。


丁海玉 角川文庫 2020年5月25日発行(単行本は2015年12月)


コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

B-29の昭和史 爆撃機と空襲をめぐる日本の近現代

2023-08-06 20:54:55 | ノンフィクション
 第2次世界大戦時に日本各地で行われた空襲/戦略爆撃と広島・長崎への原爆投下に用いられた戦略爆撃機B-29について、その開発と利用、日本側の持つイメージ等について記述した本。
 戦略爆撃については、1848年の気球からの爆撃から説き起こし、起源についてはまぎれますが、日本の中国での戦略爆撃が当時の日本においても知られ「暴支膺懲」などと正当化されていた様子が述べられ、戦後において朝鮮戦争で日本の基地から飛び立つB-29の空襲を日本の新聞が傍観者的に報じる様子までが書かれることで、空襲の被害者という視点に偏ったスタンスを戒めています。
 著者は、技術的な面よりも、人々がB-29に対して持つイメージの方にこだわり、B-29が美しかったという意見に最後までこだわっています。人々がB-29を美しいという背景には圧倒的な力を前に敗北した劣等感があると言い、「流体力学的に洗練され美的にも機能面においても優れた造形物が、政治的に、また軍事的にも圧倒的な力関係を背景として、破壊や殺傷といった倫理上の理想とはまったく正反対の目的で量産され使用されたという、恐ろしい現実」を前に、それを単に機能美として称揚することには、政治的にも倫理的にも、ためらいを覚えずにはいられないという著者の姿勢(309ページ)は、実にまっとうなものに思えます。ジブリアニメの「火垂るの墓」について論じながら(275ページ~)、B-29を美しいと言うこと、爆撃機の「機能美」を賞賛することに批判的な意見を持つ(それでこの本をまとめている)著者が、「美しいフォルムを追求した」戦闘機設計技師を讃えるジブリアニメ「風立ちぬ」にまったく触れないことの真意は見えませんけれども。


若林宣 ちくま新書 2023年6月10日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする