伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

非暴力直接行動が世界を変える 核廃絶から気候変動まで、一女性の軌跡

2024-08-12 21:15:09 | ノンフィクション
 反核・平和運動(米軍基地のフェンスの金網切断、基地内への立ち入り、原子力潜水艦への接近等)、サラワクでの熱帯雨林保護運動(伐採用の荷船の占拠)、パレスチナでのイスラエル人の入植(パレスチナ人からの土地強奪)への抗議行動、済州島での海軍基地建設阻止闘争(フェンスの金網切断、敷地内立ち入り)、気候変動への緊急対処を求める行動(道路封鎖等)、サウジアラビアへの武器売却に対する抗議行動などさまざまな市民運動を立ち上げたり参加し、率先して行動して、度々収監された運動家である著者が、運動の経験や裁判、刑務所での暮らし等について語った本。
 多数の運動での身を挺しての活動には頭が下がります。済州島では運動の旗頭故にみんなが尻込みするフェンスの切断を自分がやらざるを得なかったという武勇伝とも愚痴とも言える記載もありますが(129ページ、230ページ)。
 非暴力不服従運動では、運動側のダメージを最小限にとどめ効果を最大限にするための、権力側との交渉・根回し、メディアとの連携を含めた周到な計画が重要だと私は考えています。この本ではその点についてもふれる部分(付録1D:201~205ページ、付録7の一部:271~273ページなど)も見られ参考になりますが、そういう部分もより詳しく紹介した本がもっとあった方が運動の発展には有用だと思います。


原題:Activism For Life
アンジー・ゼルター 訳:大津留公彦、川島めぐみ、豊島耕一
南方新社 2024年2月25日発行(原書は2021年)
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消費者金融ずるずる日記

2024-07-19 21:10:06 | ノンフィクション
 中堅消費者金融に勤務して取立や不動産担保ローンの勧誘等に従事していた著者の在勤中の経験と、自らが多重債務者となった顛末などを告白する本。
 著者の勤務先の消費者金融が、本文でもプロフィールでも「デック」と記載されています。明らかに違法な行為をしていたことも書かれているのでぼかしているのかと思いましたが、後半では後にシティグループに買収されてCFJになったとはっきり書いている(161ページ)のですから、素直に「ディックファイナンス」と書けばいいのにと思います。著者が「チンピラ風かつ対面型」でそこに勤める知人は「どう見ても一昔前の田舎ヤクザ」(61ページ)という「E社」は文句を言われるだろうからイニシャルというのはまぁわかりますが(私もかつてはE社の野太い声のH管理部長と夜間に電話で不穏なやりとりをしていました)。
 取立に行って借主(債務者)に他社から借りてでも払ってくれと言ったり(54ページ)、不動産名義人が明らかに認知症患者なのに医者に現金1万円入りの封筒を差し出して「問題なし」の診断書を書いてもらって不動産担保ローンを成立させた(147~154ページ)とか、違法行為をしていたことが堂々と書かれています(後者なんてもう犯罪でしょ)。まぁこういうことやってるだろとは思っていましたけど、実体験として書かれるとやはり重い。


加原井末路 三五館シンシャ 2024年6月24日発行
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ルポ歌舞伎町の路上売春 それでも「立ちんぼ」を続ける彼女たち

2024-05-05 20:08:19 | ノンフィクション
 毎日新聞社会部記者の著者が歌舞伎町の路上売春に興味を持ち、路上売春者の支援活動をするNPOの相談室を訪れた者らに取材を続けて書いたノンフィクション。
 登場し紹介されている売春者の行き場のなさにまず胸が痛みます。虐待の連鎖みたいな話でなくても、なにか受け止められる場がないものかと思います(ふと、昔はやった麻丘めぐみの「芽ばえ」を思い起こし、日本社会は昔からそういう危うさを孕んでいたのかと思ってしまいました)。
 掛けでホストクラブに通わせて多額の料金請求をして払えなくなると売春を勧めるホストなど、若い女性を食い物にする連中に対する怒りをかき立てられます。ホストや、売春者の弱みにつけ込む買春客などもまた、さまざまに追いつめられた被害者である(より弱い者にさらにしわ寄せしている)という側面もあるとは思いますが。
 そういった構造を捉えて悲しみがなくなる/減るように社会をよくしていきたいという考えが摩耗してあまり語られなくなる(この本もそういった大きな話はなし)中、ボランティアで支援活動を続ける人たちの姿にはただ頭が下がります。


春増翔太 ちくま新書 2023年11月10日発行
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アメリカから見た3・11 日米両政府中枢の証言から

2024-05-02 23:30:00 | ノンフィクション
 福島原発事故直後の数日間の日本政府の内情と混乱、アメリカ政府の対応と困惑ぶりを事故後12年を経てNHK記者である著者が関係者にインタビューした本。
 アメリカから見たというタイトルながら、アメリカ側の見方等の話は3割くらいで、日本の官邸でのやりとりが中心のおおかたこれまでに聞いたことが再確認されている本という印象を持ちました。
 事故後12年を経てこそようやく明らかにできる真実、なんてことならいいのですが、むしろ12年経ってもなお現在の政権や当時の政権関係者の立場を気遣い忖度した発言に終始するのだなと感じました。
 私には、アメリカ政府の方よりも、3月15日未明に撤退を口にしていた東電に菅首相らが乗り込んで撤退はあり得ないと演説した後、小部屋で菅首相が東電の勝俣副社長に改めて「絶対に撤退はない。何が何でもやってくれ」と言ったところ、勝俣副社長は「はい。子会社にやらせます」と答えたと同行していた寺田首相補佐官が証言した(140~141ページ)というのが興味深く思えました。


増田剛 論創社 2024年2月20日発行
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漫画を描く 凜としたヒロインは美しい

2024-03-30 22:44:30 | ノンフィクション
 漫画家里中満智子が、作品を描く姿勢、これまでに描いてきた作品やこれまでの人生などについて語った本。
 里中作品については子どもの頃~若い頃に読んだ記憶があり、タイトルも覚えていなかったのですが、「男のことばなんか信用しちゃいけない 男にとって行動が第二 ことばは第三の価値しかない」(149~150ページ)というのを読んで、これは読んだことがあると覚えていました。発行年を見ると、私が中学生のときです。で、作者はこの台詞を書いたとき、第一の価値を考えていなくて、あちこちから第一の価値は何だという質問が来て困ったと告白しています(149~150ページ)。そうだったのか…当時、この第一の価値について答える台詞(本文ではタネ明かしをせずに、151ページの絵で答えを示しています)、わりと感動した覚えがあるのですけど。
 さまざまな個性と主体性を追求してきた作者の姿勢にはもともと共感を覚えていました。この本で説明されているところでそれが強められたところもありますが、スペースシャトルの搭乗ツアーにポンと1000万円払って申し込んだ話(197~199ページ)とか政府や自治体の委員とかの話は、功成り名を遂げるとそうなるものとは思いますが、私にはちょっとねというところでした。


里中満智子 中央公論新社 2024年1月25日発行
日本経済新聞「私の履歴書」
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インタビュー大全 相手の心を開くための14章

2024-03-25 21:30:14 | ノンフィクション
 インタビューで相手から話を聞き出す、特にこれまで明かしていなかったことを聞き出すための準備や会話での心がけやテクニックを解説した本。
 あくまでもインタビューに応じた基本的には話をしたい人から友好的に聞き出すという条件でのことですので、私たちが裁判で行う尋問とは場面や条件が異なるのですが、自分と相手ですいすいわかって進めてしまうと第三者が聞いた(読んだ)ときにわかる話になっていない(相手の言葉にできていない=大事なところが相手の言葉として記録に残っていない)というミスに注意(141~143ページ)とかは、証人尋問などにも通じる話です。
 そういう点以外でも、尋問の場以外でもさまざまな場面で情報を聞き取るしごとには、心がけとしてためになりそうなところが多々ありました。


大塚明子 田畑書店 2024年2月20日発行
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剱の守人 富山県警察山岳警備隊

2024-03-08 21:28:55 | ノンフィクション
 剱・立山エリアを中心に山岳救助に取り組む富山県警察山岳警備隊に同行取材して、訓練、パトロール、救助の実情、歴史や装備、隊員やサポートする人々の様子などを綴ったノンフィクション。
 人の命がかかった仕事で、それ故に時期を問わず緊急出動を余儀なくされる、その仕事自体が足場の悪さ、雪や霧などの厳しい環境の下で、谷底に落ちたり滑落した人を救い出し負傷者などを背負ったりして山小屋などまで運び送り届けるという危険があり体力を消耗するものなのですから、ただただ頭が下がります。救助要請があった場合だけでなく、登山者の様子を把握して遭難していないかを気にして積極的に確認作業をしている(もちろん、いつもしているわけではないでしょうけど)ことまで書かれていて驚きました。
 2021年10月末に立山に行き、登山はまったくしませんでしたが、室堂の賑わいや雪深さ、霧などは体感しました。そのときは存在も気づきませんでしたが、室堂警備派出所などにここで書かれている人たちが詰めていて活動していたのだなぁと感慨深く思いました。


小林千穂 山と渓谷社 2024年1月10日発行
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ルポ新大久保 移民最前線都市を歩く

2024-02-15 22:53:34 | ノンフィクション
 著者が大久保2丁目、百人町に居住して生活しながら見聞きした外国人、日本人住人や商店主、従業員らの話や生活状況などを綴ったノンフィクション。
 著者自身は長らくタイに居住してきて東南アジアや南アジアの下町が住みやすいと感じているもので、基本、アジアからの移民に親和的ですが、元週刊誌記者・ジャーナリストのためか、外国人を嫌い交わらない日本人の実情にも度々触れる配慮をして、よくいえばさまざまなことがらや人々に目を配り、悪くいえば八方美人的な書きぶりです。
 大久保、新大久保は、韓流ブームの聖地、コリアンタウンという印象が強いですが、そうなったのは2000年頃からと古い話ではなく、しかも2011年の福島原発事故でそれまで外国人の中で多数派だった中国人・韓国人が避難して、入れ替わりにベトナムやミャンマー、インド、ネパールなどからの移民が増え、国際色豊かになっているとのことです。
 外国人に対して不安や不気味さを感じる日本人が多いと思いますが、外国人から見ると「日本は、実はこわい国だ。ヤクザでもない一般人が、いきなりブチ切れて怒鳴ってきたりする。ささいなミスで激怒し、肩がぶつかっただけで睨まれる。僕も10年のタイ暮らしから帰ってきたばかりの頃は、本当にこわかった。日本人とは、なんと好戦的な人々かと思った。立場の弱い外国人はとくに、日本人のパワハラの餌食になりやすい」(260ページ)というのは目からウロコです。


室橋裕和 角川文庫 2024年1月25日発行(単行本は2020年9月、辰巳出版)
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完全版 袴田事件を裁いた男 無罪を確信しながら死刑判決を書いた元エリート裁判官・熊本典道の転落

2024-01-20 23:06:09 | ノンフィクション
 2023年3月に事件発生から実に57年を経て再審開始決定が確定した死刑冤罪事件袴田事件の1審で無罪を確信しながら他の2人との多数決に敗れて泣く泣く死刑判決を起案した主任裁判官であり、その後まもなく裁判官を辞め、2007年にそのことを公表した熊本典道元裁判官のその後を取材して書いたノンフィクション。
 裁判官を辞めて弁護士になり、安田火災(現損保ジャパン)の顧問弁護士として年収1億円以上を得て豪遊していた時期もあるのに、弁護士も辞め生活保護を受けるに至ったという経緯・原因は、著者の取材開始時には本人が高齢となり記憶も怪しい状態だったこともあり、「ボクには、正直よくわからない。端緒が袴田事件にあったことに何の疑いもないが、それが後に人生を破綻させるまでの影響をもたらしたかどうかは答えられない。そもそも熊本自身がよくわからないと言う転落の原因が、他人のボクにわかろうはずもない」(200ページ)とされています。え~と…このサブタイトルからして、それがテーマの本じゃないんですか、これ?
 日本の刑事司法の現状や問題点、袴田事件の捜査と裁判の問題を感じ取るにはいい本だと思いますが、焦点を当てた熊本元裁判官の人物像と人生については、今ひとつ何が言いたいのか、何のために書いているのかが判然としないという感想を持ちました。
 なお、この本の中で何度か紹介されている袴田事件と熊本裁判官を描いた2010年公開の映画「BOX 袴田事件 命とは」についてはこちらで書いています。


尾形誠規 朝日新聞出版 2023年8月30日発行
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ルポ無縁遺骨 誰があなたを引き取るか

2024-01-13 23:54:58 | ノンフィクション
 有名人であっても家族・親族がいても遺骨の引き取り手がなく自治体が保管して埋葬するケースをとっかかりに、終活、身寄りのない高齢者の処遇をめぐる問題、無縁墓、墓じまい等の関連する話題を取材して報じた本。
 「無縁遺骨を追った連載ルポを朝日新聞ではじめ、死の『ダイバーシティ(多様性)』ともいえるカオスに足を踏み入れた」(235ページ)と著者があとがきで述べているとおりの本だと思います。
 最初の方で書かれている引き取り手のない遺体/遺骨を行政が保管して苦慮している姿は、映画で見た「アイ・アムまきもと」(2022年、阿部サダヲ主演)の世界(映画の原作というかアイディアはイギリスの話だったのですが)が既に日本でそれ以上の状態だったことを意味しています。ちょっと驚きました。


森下香枝 朝日新聞出版 2023年11月30日発行
朝日新聞連載

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