伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

USTREAMがメディアを変える

2011-04-10 18:26:58 | 実用書・ビジネス書
 インターネットを使った生放送システムユーストリームの特徴と現状について解説した本。
 ブログが文字と画像による個人の発信を自由化したように、ユーストリームが放送の形での個人の発信を自由化しつつある状況がわかります。私自身、福島第一原発の事故後の原子力資料情報室のユーストリーム中継を見て、初めてそのことを実感したのですが、放送枠(時間)の制限やスポンサーなどの各種の制約から既存のメディアが放映できない詳細な解説や主張といった、建前発言やお茶を濁す発言でないことをきちんと時間をかけても知りたい人々のニーズを捉えうる有効なメディアとなり得るし、すでにそうなってきているのだと思います。
 ユーストリームの弱点だった視聴者への告知(集客)と個人が発信しうる故の無法化の危険が、ツイッターとの連動により改善されてきているという説明には、なるほどと感じました。中継中に番組を見つけた人がツイッターでリンク付きで紹介することで比較的同じ志向を持つフォロワーに有効に周知されていくし、中継視聴者にリアルタイムでツイートが読めるためあまりひどい中継にはリアルタイムで発信者にも視聴者にも批判が認識されてコンテンツが是正されていくことが期待されるというわけ。
 元テレビ番組制作の現場にいた著者が、テレビの衰退とユーストリームによるテレビの緩慢な死を語る下りにも説得力があります。番組制作費の削減とともにバラエティ番組での「ひっぱる」手法への不快感、そして厳しすぎるコピー制限がテレビ視聴を減らしたことが指摘されています。「無料放送にまでコピー制限をかけるというバカな国は、世界広しと言えども日本だけである」(179ページ)、アナログ放送時代にはポータブルプレイヤーや携帯、パソコンなどの別のデバイスにコピーして見ることができたテレビ番組が2003年からの規制でそれができなくなり、この間にテレビ番組を別のデバイスにコピーして見るという文化は壊滅状態になった、ここでテレビを離れた人々がユーストリームを支えているというのです。昨今、著作者というよりも著作権ビジネスで儲けている人々の保護に偏っている著作権法制と裁判所の判断にうんざり気味の私としては、ちょっと小気味いい話。
 現実にユーストリーム中継を見ても実感する、放送というもの自体が持つ実時間性(1時間の番組を見るのには1時間かかってしまうこと)と検索性のなさという弱点の克服のために、今のところボランティアによる書き起こしサービスに頼らざるを得ないというあたりの限界が指摘されていますが、乗り越えて発展して欲しいと思います。


小寺信良 ちくま新書 2010年11月10日発行
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ユダ 上下

2011-04-10 15:17:32 | ノンフィクション
 サブタイトルの「伝説のキャバ嬢『胡桃』、掟破りの8年間」が示すように大宮、歌舞伎町、六本木のキャバクラでナンバー1だったキャバクラ嬢の自伝。
 客に気を持たせて引っ張るだけ引っ張り金を使わせて行き、どの店でもナンバー1になって行った話が延々とつづられています。会社の経営者やボンボンがその気にさせられて何千万と使っていく様子は、男の性というか哀れを感じるというか。キャバ嬢の営業に嵌るタイプは「気が弱い、人見知り、結婚適齢期、友達が少ない経験人数が少ない、時間がある、ルックスに自信がないもしくは自意識過剰、見栄っ張り」(下巻119ページ)だとか。
 ストーリーとしては、高校時代に恋人に妊娠を告げたら中絶を求められたあげくに捨てられたことに恨みを持ち男への復讐としてキャバクラ嬢となって男から金を吸い上げるというモチベーションが語られていますが、相手の男がちょっとジコチュウで未熟だったというレベルでそこまで男一般への復讐と思い込めるものかなと疑問と恐ろしさを感じます。そしてその復讐を求める自分と寂しさに耐えられず恋人を求める自分の2重人格的なありようが顔を出し、ナンバー1の誇りを強調する傍ら、つまらない男と暮らし続け、客とも気を持たせて引っ張る客もいればあっさり枕をともにする客もあり、あまり一貫したポリシーは見えません。自伝だから仕方ないですが、読み物としてはすっきりしない感じです。だまし合う関係での女と男の心理と行動という面でちょっと参考になるというところでしょうか。


立花胡桃 祥伝社 2009年7月1日発行
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