伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

子どもの連れ去り問題 日本の司法が親子を引き裂く

2011-07-03 23:46:05 | 人文・社会科学系
 母親が未成年の子を連れて別居した(あるいは別居後にでも子どもを連れ去った)際に父親が子どもを連れ戻そうとしても絶望的で、離婚調停・訴訟では子どもの親権は圧倒的に母親優先で、父親の面接交渉は母親が容認しない限りほぼ絶望的で、それを子の福祉の名の下に認めている日本の家庭裁判所の実情を、ニューヨーク州弁護士で同志社大学法科大学院教授として、さらにはかつての日本での子の監護権者指定審判の当事者としての目で論じた本。
 欧米で結婚生活を送っていた外国人夫と日本人妻夫婦が離婚して夫が親権者指定されているのに妻が日本に子どもを違法に連れ去っても、日本の裁判所が子どもを夫の元に返す命令を出すことは皆無で、夫が来日して連れ帰ろうとすると犯罪とされ、法的手続をすると人身保護請求は放置して妻の親権者変更申立を待って妻を親権者に指定して妻の子ども連れ去りを追認するという、「日本は拉致大国」という欧米での認識から入るので、そういう本かと思いますが、中身の大半は国内での離婚、親権者指定、面接交渉権の話。
 私は、決して家事事件を多く手がけているわけではありませんが、弁護士の常識レベルで、未成年者の親権者指定は母親が別居するときに置いて行きでもしなければ圧倒的に母親優先で、父親が親権者指定を求めてもほとんどの場合無駄で、面接交渉権も母親が拒否すれば認められにくいし仮に合意してもなんだかんだ言って会わせないことが多いからそこにこだわるよりは他の点で交渉した方がいいんじゃないのと思ってしまっています。業界外の人からそれはおかしいと論じられると、改めて確かにおかしな実務だわねと思います。
 1つの事件で論証される話ではないですが、調停手続中に妻の元にいる9歳の娘を連れ去ろうとして誘拐罪で逮捕された元裁判官の夫の事件を取り上げて、「元裁判官でも裁判所の調停より、我が子の"拉致"を選ぶような日本の家事司法とはどのようなものなのだろうか」(55ページ)というのも、うまい。やや感情的に思える記述もありますが、全体として説得力があります。
 でも・・・私は、この本を読んで、著者のいう「人質調停」を是正すべくがんばろうと思うよりも、依頼者に日本の家事調停や審判はこういうもんだからねと紹介するのに使っちゃうでしょうね。


コリン P.A.ジョーンズ 平凡社新書 2011年3月15日発行
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