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伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

情報倫理 技術・プライバシー・著作権

2017-06-04 23:25:44 | 人文・社会科学系
 近年の情報技術やインターネットとそれに伴うプライバシー、著作権保護のあるべき姿などについて、論じたエッセイ(小論文?)集。
 みすず書房の本にしては、「軽い」本です。第5章以外は「月刊みすず」連載の時事評論的な文章を出版したものでテーマと書きぶりに軽さが感じられ、著者のスタンスも時事のテーマについて鋭く論ずるというよりは困惑と懸念を示し折衷的な対処を示唆するものが多いことから(憂鬱な雰囲気があるものはありますが)重厚な印象がなく、そして紙質の選択のためと思われますが500ページを軽く超える厚さの割に軽くて持ち運びが容易です。
 おそらくは連載時にテーマを絞っていなかったのを単行本化するに当たり分類して章立てしたためでしょうけど、後半に行くほど、章のタイトルに無理がある感じがして、読後感は今ひとつです。連載時以後の事情の変化等について丁寧にフォローして本文の加筆や注記をしている点は好感が持てますが。
 著者の姿勢は、国家による情報統制・規制については慎重に、一私企業が情報のインフラを独占することには危惧感があり、著作権は当然の権利ではなくその保護の範囲は政策的な判断が必要で現在の保護は業界団体の圧力の影響を受けフェアユースを損ねているように思われる、というようなところにあるようですが、いろいろと気配りをするせいか歯がゆさが残ります。
 権力者の行為に対しては、明確な批判がなされない印象を持ちましたが、攻撃からデータを守るために「ウィキリークスは、スイスのドメインを取得するとともに、憲法で定められた通信の秘密を厳格に守るとするスウェーデンの企業にデータを預けた」ということを「国境を越えてデータを移動させることで、情報の自由を守る点では、タックスヘイブンを利用して、自ら居所を転々と変えて資産を守る富裕層と似ている」(425ページ)と、権力に対抗するウィキリークスを不正な経済的利益を得るための多国籍企業の行動になぞらえるというセンスには驚きました。


大谷卓史 みすず書房 2017年5月1日発行
コメント (2)
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