伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

朝日新聞政治部

2023-06-15 21:08:13 | ノンフィクション
 元朝日新聞記者の著者が、朝日新聞での自らの経験と朝日新聞社内の事情などについて書いた本。
 吉田調書報道の際に特別報道部デスクとして記事を出稿し停職2週間の懲戒処分を受けて記者職を解かれた著者が、「木村社長が『吉田調書』報道を取り消した2014年9月11日は『新聞が死んだ日』である。日本の新聞界が権力に屈した日としてメディア史に刻まれるに違いない」(19ページ)、「新聞ジャーナリズムが凋落する転機となった『吉田調書』事件を構造的に究明するには、それに関与した経営者、編集幹部、現場記者の人物像を詳細に描き、政治部、社会部、特別報道部がせめぎ合う『朝日新聞の社風』を伝える必要がある。とりわけ『吉田調書』事件に至るまで朝日新聞の経営や編集を牛耳ってきた政治部の実像をリアルに描くことが不可欠だと思った」(300~301ページ)と述べて書くのですから、吉田調書報道とその後の朝日新聞の対応に相当な比重が置かれるのかと思ったのですが、そこは全体の2割くらいにとどまり、さまざまな事情と配慮はあるのでしょうけれども、今ひとつ突っ込んだ記述に欠けるように思えました。そして、「朝日新聞の経営や編集を牛耳ってきた政治部の実像」というのですから、政治部の実情について批判的に書かれているのかというと、社内の対立構造や特定の人物の姿勢への批判はあっても、政治部のあり方等が批判されている場面は少なく、全体としては著者自身の政治部時代の日々を懐かしく回顧している本のように感じられます(茨城県警本部長に取り入って特ダネを連発したとか、竹中平蔵に取り入って特ダネを連発したとかの自慢話や、外務省担当時に自分が食い込めなかった官僚から情報を得て特ダネを連発した同期入社の女性記者にコンプレックスを持ちその後20年経ってもその姿を見ると卑屈になるとか…)。
 著者は政治部の実態について厳しい視線を向けるよりも、むしろ社会部を敵視し批判しているように感じられます。私は、社会部の記者としか接点がないので、社会部の方がリベラルな方向性と雰囲気を持っていると思っているのですが、そういう見方、評価もあるのだなと驚きました。対立する相手方の見方は違うものだというのは、仕事がら、日常的に経験し理解しているつもりではありますが。
 民主党への政権交代で、自民党幹部に取り入っていた新聞各社の政治部のベテラン記者がアドバンテージを失い、若手記者にお株を奪われると脅威に感じ、「民主党政権の誕生後、報道各社が厳しい論調を浴びせ、さらには民主党政権の崩壊後、安倍総理が繰り返した『悪夢の民主党政権』のイメージづくりに加担した背景には、二度と政権交代は起こしたくないという、各社政治部の先輩諸氏の警戒感があったと私は見ている」(145~146ページ)、つまり新聞・テレビ各社の政治部のベテラン記者の延命・保身の欲望が民主党政権を早期に転覆させ安倍政権を長らえさせたというのは、新聞人らしい着眼だなと思います。
 記者職を追われた後に著者が、毎朝起きてまず新聞を読むのを止め、ツィッターとネットサーフィンでニュースを見てから批判的な眼差しで朝日新聞に目を通すと、朝日新聞の記事がネット情報に比べて速さにも広さにも深さにも劣っていることを実感したとしています(266ページ)。それは、私も感じていることです(もう新聞を取っていないし、有料記事を読む気にもなれないので、ネット上の無料部分だけしか読みませんから有料記事のレベルについて論評できませんけれども)が、元朝日新聞記者までがそういうと、やっぱりそうなのかと思ってしまいます。


鮫島浩 講談社 2022年5月25日発行

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