なあむ

やどかり和尚の考えたこと

サンサンラジオ368 人間は生きもの

2022年06月05日 05時00分00秒 | サンサンラジオ
三ちゃんのサンデーサンサンラジオ。第368回。6月5日、日曜日。

6月となりました。
日々時は過ぎていきます。
過ぎるというよりも、時に乗って自分が運ばれていくという方が正確ですかね。
自分は動かず、時間だけが過ぎ去っていくわけではないですからね。
時間そのものが自分です。

月末の30・31日は、2年ぶりの特派布教師協議会でした。
感染対策で色々な制限はありましたが、学びの多い集まりでした。
その講師の一人、シャンティ国際ボランティア会専門アドバイザーの大菅俊幸氏が講演で紹介された、中村桂子著『科学者が人間であること』という新書を早速求め読み始めたところです。
生命誌研修者の立場から見た近代社会のありようとその問題点はとても興味のあるものでした。
文章がとても読みやすく、私の頭にもすらすらと入ってくるので楽に読めます。
本書のテーマである「人間は生きものであり、自然の中にある」という視点が貫かれています。
その中で、「便利さ」についてこう書いてあります。
「近代文明の『便利さ』『豊かさ』は物が支えてくれるものであり、物を手に入れるためのお金が豊かさの象徴になりました。便利さとは、速くできること、手が抜けること、思い通りになることであり・・・(しかしそれは)いずれも生きものには合いません。生きるということは時間を紡ぐことであり、時間を飛ばすことはまったく無意味、むしろ生きることの否定になるからです。」
映画を早送りで観たりするのは、生きることの否定になるかもしれません。
読み始めたばかりですがとても面白そうです。お勧めします。

また、東京一極集中にも触れ、「一極集中社会は、生物が生きる場としては、大きな問題を抱えています。生物とは本来『多様』なものであるのに、この社会は均一性を求めるからです」と述べています。
「均一性を求める」ということは、「個性を認めない」ということでもあります。
特にコロナ後に「同調圧力」という言葉がクローズアップされました。
周囲と同じ行動をしない人は攻撃の対象になる、というようなことです。
「あの人変わってるね」と後ろ指をさされ、無視され、排除されるというようなこともそうでしょう。
みんな変わっていて、同じ人など誰一人いないのに、仲間外れを探して攻撃する。それが、多様性を認めない社会なのです。
なので、周囲をうかがい、人の目を気にし、仲間外れにならないようにびくびくしながら生きていく、それは生き辛いですね。
生物は生活環境と密接に関わり、その環境に適用するように「進化」してきたのですから、環境が変われば生物そのもののあり様が違うわけで、東北と関東の人間が「変わって」いることが当たり前なのです。
その変わっていることを認められない社会が東京一極集中の問題点だというわけです。
もちろん、同調圧力は地方にもあります。
ただし、顔のわかる地方においては、致命的な攻撃に至るまではまずないと思います。
一部においてはグループを作り仲間外れはあったとしても、他方においてはその人ともそれなりにつき合っていく。全否定のように、存在そのものを認めないという人はいないですね。幅があるというか、グレーゾーンが準備されているように思います。

周囲の顔色をうかがうのは自分に自信がないからでしょうか。
人の意見に左右され、風に流される浮き草のように、風向きによってあっちに行ったりこっちに行ったり、結局は定まるところがありません。
しっかりと大地に足をつけて自分の足で立たなければなりません。
自分で考え、自分で決断する経験を積まなければなりません。
自分で決断して失敗したとき、その失敗から学ぶのが人間です。失敗から学び、そこから成功へのカギを見つけ、立ち直ることで自信になります。
失敗を避けて通ろうとすることは、学びのチャンスを放棄するということです。それはもったいないことです。
自分の人生の決断を他人に委ねてはなりません。人の意見を聞くことに慣れてしまうと聞かないと不安になり、何一つ自分では決められなくなります。他人依存症です。
人の意見に左右される前に、しっかりと自分と向き合い、自分の考え、自分の決断をまとめ、覚悟をもって決断を実行していく、その経験が自立の自信となるはずです。
自分を見つめる時間を持ちましょう。

大菅氏は、次のように説いていました。
「仏教は、苦しみや悲しみを取り除くことを教えているというより、苦しみや悲しみにしっかり向き合うことを通して、自分の中から智慧や慈悲という素晴らしい宝ものを掘り起こすことを教えているのではないか。」
とても示唆のある言葉でした。

今週はここまで。また来週お立ち寄りください。