なあむ

やどかり和尚の考えたこと

サンサンラジオ369 未来を照らす灯台

2022年06月12日 05時00分00秒 | サンサンラジオ
三ちゃんのサンデーサンサンラジオ。第369回。6月12日、日曜日。

昨日は恒例の松林寺大般若祈祷会でした。
特に今年は、ウクライナ戦争の早期終息とコロナ感染症の早期終息を祈りました。
昨年同様、今年も終わってからの飲食は中止とし弁当のお持ち帰りとなりました。
酒を酌み交わしながらお寺のことや地域のこと、将来のことや愚痴や悩みも吐き出して語り合うことを楽しみにしています。
それができないのは、私としては目的の半分しか果たしていない感じです。
来年こそはと楽しみにしています。

8日水曜日、9月のシャンティ東北のイベントの打ち合わせに山元町徳本寺様にお邪魔した後に、同町の震災遺構中浜小学校に行ってきました。
あの日、上空からの映像で次々津波に飲み込まれていくイチゴのハウスが目に焼き付いています。
広く長い海岸線で、温暖な気候を活かしてイチゴ栽培が盛んな土地でした。
地震発生時間、低学年の児童は授業が終わりグランドで家族の迎えが来るのを待っていました。
今までに経験したことのないような大きな地震で、ラジオでは津波の予想が流れていました。
はじめは6~8m、10分後には到達しているところもあるという報道でした。
小学校から高台まで避難するのに20分かかります。到底間に合わないと思いました。
グランドにいる子どもたち、迎えに来た家族に、校長は「校舎に入れ」と叫びました。
高いところのない平野では、一番高いところが二階建ての学校の屋上でした。
そのうち、津波の予想は10mに修正されました。
校舎の1階の高さが約4m、2階の天井までで8m、そして、この校舎を建てる時住民の要望で設計段階から2mかさ上げされていたことを知っていました。
さらに海岸から400m離れているのでその分をざっと計算して、屋上で何とか10mの津波に耐えられるのではないかと思いました。
校長は、全校児童、教職員、近所の住民、全部を屋上に上げて、最後に自分が階段を上りました。
「この階段を上ってしまったら、助かって下りる以外、下りることはないのだ」と覚悟したことを鮮明に覚えています。
屋上には物置に使っていた片屋根のスペースがありました。
子どもたちはそこに入れて津波の様子を見せませんでした。
津波は2階の天井まで達していました。
一部は屋上まで駆け上がり倉庫の中にも侵入してきました。
先生たちは子どもたちを机の上に登らせて守ろうとしました。
そして、そこで90名は一晩過ごすことになります。
たまたま懐中電灯を持っていた人があり、それを天井に照らして過ごしました。
とても寒い夜でした。
学芸会の道具や行事に使った道具をコンクリートの上に敷いて、励まし合って過ごしました。
何度も襲ってくる余震と寒さに震えながら、子どもたちはどんな思いでこの夜を過ごしたでしょうか。
夜が明けて、津波が引いた校庭には奇跡的に瓦礫が残らず、救助に来たヘリコプターが着陸することができました。

震災後、私はここを何度も訪れ、そのまま放置された校舎を胸を痛めながら眺めていました。
心無い若者が廃墟探検のような遊びに使っているという噂を耳にしたこともあります。
令和2年9月、構想から6年を経て「震災遺構中浜小学校」として公開されました。
その時の時計が止まったままの状態で現実を今に突き付けてきます。
あの時ここにいた子どもたち、大人たちばかりでなく、卒業生、地域の人々の思いが、声が、聞こえてきそうです。
幸い、ここにいた90名は誰一人命を落とすことはありませんでした。
色んな偶然や奇跡が重なったのかもしれません。
津波が来た時のことを考えて校舎を2mかさ上げして欲しいという住民の要望がなかったら。屋上に倉庫がなかったら。津波到達が下校の後だったら。
津波が押し寄せたこの地区は、今人が住めない土地になってしまいました。居住区域ではなくなったのです。
そこにぽっかり浮かんだ島のように、この遺構は震災記録の目印になるでしょう。
未来を照らす灯台になるかもしれません。

校庭には日時計の丘がつくられ、「3月11日の日時計」と名付けられています。
3月11日の地震発生時間に影が指す場所に、流れ着いた石が置かれ、その日その時の太陽の位置を知ることができます。
それも含めて、『被災したままの状態で見学者の立ち入りを伴う公開を法的に可能とした遺構保存の手法』、
『住民や教職員、専門家らとの意見交換を重ねながら共同で整備したプロセス』、
『見学者が時の流れを感じながら震災について考える「日時計モニュメント」等による統合的なデザイン』などが高く評価され、2020年のグッドデザイン賞に選ばれています。
是非一度訪ねてみてください。ガイドの方が生の記憶を丁寧に説明してくれます。

今週はここまで。また来週お立ち寄りください。