一時太陽が顔を出したが、すぐに隠れてしまった。再び顔を出すような雲ではない。これほどまでに雲の多い冬の空は記憶にはない。
時々戸建ての家の庭の片隅に千両の赤い実が目を惹きつける。常緑樹の緑の葉に小さな赤い実が映えて美しい。冬枯れの庭の数少ない色彩を添えて目立つ。しかし赤い実は花ではないために強い自己主張はちがちがう。どちらかというと静的なたたずまいの印象を持つ。
しかし次の二句はこの実千両に動きを添えている。
★山より日ほとばしりきぬ実千両 永田耕一郎
★いくたびも病みいくたび癒えき実千両 石田波郷
第1句、低い太陽の光線による影はあっという間にこちらに迫ってくる。まさに「ほとばしる」ように進んでくる。そして眩しい。この冬の太陽の光線がセンリョウの赤い実を照らす。この太陽の「ほとばしり」を受けとめてセンリョウ自身も光に共鳴し振動する。
第2句、病み、癒えを長い周期で繰り返す。そのサイクルの中でしみじみと赤い実千両を認識したのであろう。退院が冬なのか、入院が冬だったのかは不明である。しかしその様が希望と安堵の赤に見えたのであろう。静かなたたずまいのセンリョウが時間を超えて目の前に再生する。過去と現在を行き来している。