★うしろより忽然と日や梅雨あがる 加藤楸邨
★梅雨明けの鶏を追ふ歩幅かな 今井 聖
★梅雨明けや深き木の香も日の匂 林 翔
第1句、梅雨明けの一瞬というのは一般的にはあり得ないが、一人ひとりにとってはその一瞬というのはある。梅雨明けを実感した瞬間である。季節の移り変わりに敏感にアンテナを張っていないと実感することはない。作者はこの一瞬によって好ましい気分に転換し得たとである。そんな瞬間をおびき寄せた作者が羨ましい。
第2句、昔は庭で鶏を飼っていた。夕方になると鶏小屋に追いやる。どんな小さな鶏小屋でも、鶏の棚は傾斜しており、夜に産んだ卵は通路側に転がってくる。そんな昔を思い出したのだろう。今はもうそんな光景を見ることは無くなった。梅雨明けの陽射しで土も乾き、鶏の影も濃い。鶏の足の赤さも目立つ。
第3句、私は匂いを感じなくなってしまったが、確かに梅雨明けと同時の強い日の光を受けると、樹の匂いが立ち上ってくるように感じていた。今でもそんな気分になることがある。梅雨の時期の水分が陽射しをうけて立ち上るのだ。鬱屈していた生命が立ち上がるように。