メランコリア

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ここにあるのはわたしの心象スケッチです。

『エゴール少年 大草原の旅』(未知谷)

2011-06-29 12:55:51 | 
『エゴール少年 大草原の旅』(未知谷)
アントン・P・チェーホフ/作 エカテリーナ・ロシコーワ/絵 中村喜和/訳

大好きな未知谷の「チェーホフ・コレクション第19弾」
2011年5月初版だから、本当に生まれたての本
一家を支えるため「チュホンテ」というペンネームで小編をたくさん書いていたところ、
彼の才能に注目した老大家が「大きな作品を書きなさい」とススメて、
自分が10代の頃に大草原を渡った思い出+その後の取材を元にして書き、
本名で正式に発表したデビュー作!

「チェーホフ・コレクション」のために訳者が半分割愛したため、原作はより長く饒舌とのこと。
続編も書くつもりでいたが、なくなってしまったのは残念。
物語の季節は7月の早朝。今ごろ読むのにちょうどよかったのは偶然か?


あらすじ
9歳の少年エゴールは、上流志向の母(未亡人)の意向で、ギムナジア(中学校)入学のため、
羊毛を売りに行く商人の伯父イワンと、主任司祭フリストフォールに連れられて、
果てのないロシアの大平原(ステップ)を四輪馬車で行く。

どこに行くかも分からず泣くエゴールに「学問は光、無学は闇。神さまにおすがりすればよい」と慰める司祭。
途中、ユダヤ人のモイセイの宿屋に立ち寄り、取引する商人ワルラーモフ(カザック)の所在を聞き、
司祭と叔父は回り道になるため、少年は荷馬車隊に乗せられる。
富豪のドラニツカヤ伯爵夫人などが探しているワルラーモフとは一体どんな人物なのかと少年は気になる。

休憩した場所に立つ2本の十字架は、かつて草刈人夫が商人の親子を殺害して金を盗んだ時のものだという。
偶然、そこで小柄なワルラーモフに出会って驚く少年。
その夜、激しい雷雨に遭い、茣蓙(ござ)をかぶっただけの全員は全身ずぶ濡れになる。

町に到着し、叔父らと合流した少年は、昨夜の嵐の寒さとショックで病を得るが、
司祭に胸にバターと酢を塗ってもらうと、翌朝はすっかり具合が良くなり、
叔父とともに母の昔の友だちナスターシャの家を訪ねる。

ナスターシャの家は遠く、彼女に少年を預かってもらい勉強させたい旨を話すと感激と興奮で泣き出してしまう。
翌朝、叔父と司祭はそれぞれ少年に10コペイカのお駄賃をあげて、町を去る。
もうそれきり会えないのではないかと思った少年は、ステッキを振る2人を涙で見送り、
これからどんな生活が自分を待っているのかと、未知の生活に思いを馳せるのだった。

「エゴールは、自分にって、今まで経験してきたすべてのことが、この人々と一緒に煙のように消えたのだと感じた」


まだ幼い子どもの初めての旅が、行けども、行けども、枯れ草と地平線ばかりでは、
不安感は計り知れないものだろう。
圧倒的な自然の前では、人はちっぽけな存在で、なすすべがないことを見事に描き出している。
鉛筆で荒涼とした枯れ草の群れを描いたエカテリーナの絵も、少年の心情を浮き上がらせるようで素晴らしい。

エゴール少年の家はいくらかの余裕があるようだが、
宿屋の主人が彼らに極端にへりくだった態度をとっていたり、
昔の友だちの子どもを見た時のナスターシャの感動っぷりは尋常じゃないところを見ると、
当時のロシアの民族や身分の違いといったものも反映しているんだろう。

以前読んだチェーホフ作品にもバターと酢を塗る民間療法が出てきたけど、何に効くんだろう?
サモワールは毎回出てくる。
スメタナ(サワークリームの一種)ぬりの丸パンとか、糖蜜菓子とかってやたらと美味しそうだけど、どんなだろう?


ブーリャン草=ロシアの野に生える灌木の一種
トウダイ草=日当たりのよい荒地や畑などに生える二年草。茎や葉を傷つけると白い乳液を出す。全草にわたり有毒。
小ロシア人(ウクライナ人)
イトスギ=ヒノキ科イトスギ属の総称。サイプレス。イエス・キリストが磔にされた十字架は、この木で作られたという伝説がある。
ヤグルマギク=ヨーロッパ原産。もとは麦畑などに多い雑草。

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『ホルテンさんのはじめての冒険』(2007)

2011-06-29 12:39:32 | 映画
『ホルテンさんのはじめての冒険』(O'HORTEN)(2007)ノルウェー
監督:ベント・ハーメル
出演:ボード・オーベ、ギタ・ナービュ、ビョルン・フローバルグ ほか

trailer

「人生は手遅ればかりだ。逆に言えば何でも間に合う」

またまた、ほっこり系のヨーロッパ映画を借りてみた
穏やかな夢を観ているようだった。
なんだか父親の世代ってこんな感じだな。実直に仕事して、人間関係は不器用だけど、
自分の好きなものに対しては決して譲らない。
そして、どこか間抜けた人間的なユーモアも隠し持ってるんだ。

story
首都オスロと第2の都市ベルゲンを結ぶ“ベルゲン急行”の運転士オッド・ホルテンは、
勤続40年にして67歳で定年を迎えようとしていた。
前日、同僚から賞をもらって、ささやかな慰労会が行われ、こうゆう席が苦手なオッドは
「明日も仕事があるから」と飲み会を断ろうとしたが断りきれず。

タバコを買いに行って、会場となってるビルに入ろうとしたら、出入口の機械が壊れてる。
仕方がないので、改装中の足場を登って、入れそうな窓から忍び込むと、
その家の少年に見つかって、「寝るまでいて」と頼まれ、ついついうとうとして翌朝に
そうして、どんどん奇妙な出来事が起こっていく・・・


道も凍ってしまうほど寒いノルウェーの冬景色を走ってゆく電車が
いくつもトンネルを過ぎてゆくオープニングシーンから始まって、
同僚が催す慰労会では、「この汽笛は何線?」みたいなオタククイズを出してたり、
鉄道ファンにも堪らない1本

日常からちょっとだけズレたところに、あったかい人情がたくさんつまってる。
いかにも真面目な紳士風なボード・オーベの円熟味が最高。

映画を観るなら90分くらいがちょうどいい。
「キッチン・ストーリー」「酔いどれ詩人になるまえに」など、同監督のほかの映画もぜひ観てみたい。


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『水木しげる 鬼太郎の天国と地獄』(小学館)

2011-06-29 12:28:14 | 
『水木しげる 鬼太郎の天国と地獄』(小学館)

自伝にも書いてあったが、水木さんは幼少の頃、のんのんばあに連れられて、
正福寺にある地獄極楽を描いた絵を飽きずに何時間も見ていたという。
本書は、『入門百科シリーズ』(懐かしい!)「鬼太郎の天国・地獄入門」の復刻版で、
分かり易い文と迫力のある絵で、日本をはじめ、世界各国の「天国・地獄」観を書いている。
著者も言っている通り、それぞれ特色があっても、全体的な様子が似通っているのがフシギ。

ほかにも『水木しげるの妖怪百科シリーズ』がある。

目次はこちら

<気になる言葉>
再生リング=指輪を握って生まれる子ども。輪廻転生か?
ニライカナイ(沖縄の常世の国)
高天が原(天)⇔芦原の中つ国(人の住む世界)
根の国
補陀落浄土
『往生要集』=源信によって書かれた地獄についての教科書。日本の地獄絵はこの本が元。
輪廻転生
六道
八大地獄
三途の川の奪衣婆
人間道=不浄の相、苦しみの相、無常の相
黄泉の国(この神話に出てくる黄泉醜女(よもつしこめ)に食べ物を与えて、その間に逃げるってゆうところが、ちょっと動物っぽくって可愛いといつも思ってしまう
西方極楽浄土=阿弥陀如来が蓮の上に座している。

『マヌ法典』
インドの古書。バラモン教の宗教書。宇宙はリタという法則にしたがって動いているという。人間はカースト制度によって4つ(バラモン、クシャトリア、バイシャ、シュードラ)に分けられ、上位3つはさらに4段階に分けられる。学生期(勉強する)→家長期(結婚して子どもをもうける)→林住期(孫が生まれ、一家の繁栄を見届けてから、森林に住む)→遊行期(静かに死を待ちながら各地を巡って修行する)

ほう都観(ほうとかん)@四川省=ほう都をそっくりまねて造られた寺院。

エジプト『死者の書』
人間は死後、地下の国「ツアト」に行く→天空船に乗って→オシリスの法廷で裁かれる→合格者は「セケト・ヘテプト」(天国)へ。太陽神ラーの楽園。

『バルド・ソドル』
チベットの『死者の書』。バルドは中陰。死んで生まれ変わるまでの49日間のこと。
死ぬ瞬間に「クリヤー・ライト」を見る。大日如来ほか7人の平和の神々の光を浴びる。次は忿怒の神々に会う(平和の神の怒りの姿)。恐怖で気絶し、再び新しい肉体で生まれてくる。


p.153
「私たちは、生きていくうちに、いろいろなつらいことや苦しいこと、そして恐ろしいことを体験する。しかし、そのくらいのことでへこたれたり、逃げだしたりしてはいけない。また、どうしても耐えられないようなことでも、よく考えてみると、自分の邪悪な心が造りだす幻覚であることが多い」という教訓でもある。


ダンテ「神曲」
ヨーロッパの天国と地獄。地獄の川アケロンテを渡ると、地上に一番近い地獄リンボに出る→審判者ミノスが裁く→スティーゼの沼(怒りっぽい人たちの地獄)、自殺者の森では怪鳥がついばむetc...→最後の地獄には帝王ルチフェロ→煉獄→天国へ。
ダンテは、ほかにも「新生」「饗宴」を書いた。

スウェルデンボルグ「霊界日記」「天国と地獄」
人間から肉体、知識、記憶などを取り除くと、最後に残るのは霊魂だと言った。
天国には喧嘩、憎しみ、妬みがない。天国の食べ物は酸素や二酸化炭素に匂いをつけたもの/驚
地獄は、我がままな霊たちが集まって、自分のことしか考えないため、つまらないことで怯えたり、喧嘩をしているという。


<その他関連>
ウェルギリウス=古代ローマの詩人。「アエネイス」は、ウェルギリウスの最大の作品であり、ラテン文学の最高傑作とされる。
プレフェート・デュフォ(ハイチ)
ゲーテ「ファウスト」

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