■『エゴール少年 大草原の旅』(未知谷)
アントン・P・チェーホフ/作 エカテリーナ・ロシコーワ/絵 中村喜和/訳
大好きな未知谷の「チェーホフ・コレクション第19弾」。
2011年5月初版だから、本当に生まれたての本
一家を支えるため「チュホンテ」というペンネームで小編をたくさん書いていたところ、
彼の才能に注目した老大家が「大きな作品を書きなさい」とススメて、
自分が10代の頃に大草原を渡った思い出+その後の取材を元にして書き、
本名で正式に発表したデビュー作!
「チェーホフ・コレクション」のために訳者が半分割愛したため、原作はより長く饒舌とのこと。
続編も書くつもりでいたが、なくなってしまったのは残念。
物語の季節は7月の早朝。今ごろ読むのにちょうどよかったのは偶然か?
▼あらすじ
9歳の少年エゴールは、上流志向の母(未亡人)の意向で、ギムナジア(中学校)入学のため、
羊毛を売りに行く商人の伯父イワンと、主任司祭フリストフォールに連れられて、
果てのないロシアの大平原(ステップ)を四輪馬車で行く。
どこに行くかも分からず泣くエゴールに「学問は光、無学は闇。神さまにおすがりすればよい」と慰める司祭。
途中、ユダヤ人のモイセイの宿屋に立ち寄り、取引する商人ワルラーモフ(カザック)の所在を聞き、
司祭と叔父は回り道になるため、少年は荷馬車隊に乗せられる。
富豪のドラニツカヤ伯爵夫人などが探しているワルラーモフとは一体どんな人物なのかと少年は気になる。
休憩した場所に立つ2本の十字架は、かつて草刈人夫が商人の親子を殺害して金を盗んだ時のものだという。
偶然、そこで小柄なワルラーモフに出会って驚く少年。
その夜、激しい雷雨に遭い、茣蓙(ござ)をかぶっただけの全員は全身ずぶ濡れになる。
町に到着し、叔父らと合流した少年は、昨夜の嵐の寒さとショックで病を得るが、
司祭に胸にバターと酢を塗ってもらうと、翌朝はすっかり具合が良くなり、
叔父とともに母の昔の友だちナスターシャの家を訪ねる。
ナスターシャの家は遠く、彼女に少年を預かってもらい勉強させたい旨を話すと感激と興奮で泣き出してしまう。
翌朝、叔父と司祭はそれぞれ少年に10コペイカのお駄賃をあげて、町を去る。
もうそれきり会えないのではないかと思った少年は、ステッキを振る2人を涙で見送り、
これからどんな生活が自分を待っているのかと、未知の生活に思いを馳せるのだった。
「エゴールは、自分にって、今まで経験してきたすべてのことが、この人々と一緒に煙のように消えたのだと感じた」
まだ幼い子どもの初めての旅が、行けども、行けども、枯れ草と地平線ばかりでは、
不安感は計り知れないものだろう。
圧倒的な自然の前では、人はちっぽけな存在で、なすすべがないことを見事に描き出している。
鉛筆で荒涼とした枯れ草の群れを描いたエカテリーナの絵も、少年の心情を浮き上がらせるようで素晴らしい。
エゴール少年の家はいくらかの余裕があるようだが、
宿屋の主人が彼らに極端にへりくだった態度をとっていたり、
昔の友だちの子どもを見た時のナスターシャの感動っぷりは尋常じゃないところを見ると、
当時のロシアの民族や身分の違いといったものも反映しているんだろう。
以前読んだチェーホフ作品にもバターと酢を塗る民間療法が出てきたけど、何に効くんだろう?
サモワールは毎回出てくる。
スメタナ(サワークリームの一種)ぬりの丸パンとか、糖蜜菓子とかってやたらと美味しそうだけど、どんなだろう?
ブーリャン草=ロシアの野に生える灌木の一種
トウダイ草=日当たりのよい荒地や畑などに生える二年草。茎や葉を傷つけると白い乳液を出す。全草にわたり有毒。
小ロシア人(ウクライナ人)
イトスギ=ヒノキ科イトスギ属の総称。サイプレス。イエス・キリストが磔にされた十字架は、この木で作られたという伝説がある。
ヤグルマギク=ヨーロッパ原産。もとは麦畑などに多い雑草。
アントン・P・チェーホフ/作 エカテリーナ・ロシコーワ/絵 中村喜和/訳
大好きな未知谷の「チェーホフ・コレクション第19弾」。
2011年5月初版だから、本当に生まれたての本
一家を支えるため「チュホンテ」というペンネームで小編をたくさん書いていたところ、
彼の才能に注目した老大家が「大きな作品を書きなさい」とススメて、
自分が10代の頃に大草原を渡った思い出+その後の取材を元にして書き、
本名で正式に発表したデビュー作!
「チェーホフ・コレクション」のために訳者が半分割愛したため、原作はより長く饒舌とのこと。
続編も書くつもりでいたが、なくなってしまったのは残念。
物語の季節は7月の早朝。今ごろ読むのにちょうどよかったのは偶然か?
▼あらすじ
9歳の少年エゴールは、上流志向の母(未亡人)の意向で、ギムナジア(中学校)入学のため、
羊毛を売りに行く商人の伯父イワンと、主任司祭フリストフォールに連れられて、
果てのないロシアの大平原(ステップ)を四輪馬車で行く。
どこに行くかも分からず泣くエゴールに「学問は光、無学は闇。神さまにおすがりすればよい」と慰める司祭。
途中、ユダヤ人のモイセイの宿屋に立ち寄り、取引する商人ワルラーモフ(カザック)の所在を聞き、
司祭と叔父は回り道になるため、少年は荷馬車隊に乗せられる。
富豪のドラニツカヤ伯爵夫人などが探しているワルラーモフとは一体どんな人物なのかと少年は気になる。
休憩した場所に立つ2本の十字架は、かつて草刈人夫が商人の親子を殺害して金を盗んだ時のものだという。
偶然、そこで小柄なワルラーモフに出会って驚く少年。
その夜、激しい雷雨に遭い、茣蓙(ござ)をかぶっただけの全員は全身ずぶ濡れになる。
町に到着し、叔父らと合流した少年は、昨夜の嵐の寒さとショックで病を得るが、
司祭に胸にバターと酢を塗ってもらうと、翌朝はすっかり具合が良くなり、
叔父とともに母の昔の友だちナスターシャの家を訪ねる。
ナスターシャの家は遠く、彼女に少年を預かってもらい勉強させたい旨を話すと感激と興奮で泣き出してしまう。
翌朝、叔父と司祭はそれぞれ少年に10コペイカのお駄賃をあげて、町を去る。
もうそれきり会えないのではないかと思った少年は、ステッキを振る2人を涙で見送り、
これからどんな生活が自分を待っているのかと、未知の生活に思いを馳せるのだった。
「エゴールは、自分にって、今まで経験してきたすべてのことが、この人々と一緒に煙のように消えたのだと感じた」
まだ幼い子どもの初めての旅が、行けども、行けども、枯れ草と地平線ばかりでは、
不安感は計り知れないものだろう。
圧倒的な自然の前では、人はちっぽけな存在で、なすすべがないことを見事に描き出している。
鉛筆で荒涼とした枯れ草の群れを描いたエカテリーナの絵も、少年の心情を浮き上がらせるようで素晴らしい。
エゴール少年の家はいくらかの余裕があるようだが、
宿屋の主人が彼らに極端にへりくだった態度をとっていたり、
昔の友だちの子どもを見た時のナスターシャの感動っぷりは尋常じゃないところを見ると、
当時のロシアの民族や身分の違いといったものも反映しているんだろう。
以前読んだチェーホフ作品にもバターと酢を塗る民間療法が出てきたけど、何に効くんだろう?
サモワールは毎回出てくる。
スメタナ(サワークリームの一種)ぬりの丸パンとか、糖蜜菓子とかってやたらと美味しそうだけど、どんなだろう?
ブーリャン草=ロシアの野に生える灌木の一種
トウダイ草=日当たりのよい荒地や畑などに生える二年草。茎や葉を傷つけると白い乳液を出す。全草にわたり有毒。
小ロシア人(ウクライナ人)
イトスギ=ヒノキ科イトスギ属の総称。サイプレス。イエス・キリストが磔にされた十字架は、この木で作られたという伝説がある。
ヤグルマギク=ヨーロッパ原産。もとは麦畑などに多い雑草。