1971年初版 沢田洋太郎/訳 矢吹申彦/ケース・イラスト
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「ジュヴェナイルまとめ」カテゴリー内に追加します
女性の作家とは思えないほど力強い戦争もの
空襲で崩れていく家々、生活がリアルすぎて息が苦しくなる一方で
子ども同士が結束してその日を暮らす姿に胸打たれる
同じ戦争を描いたロバート・ウェストールは
戦闘機が大好きな少年の視点から描いていて全然違った
有名な戦争映画『火垂るの墓』も子どもだけの暮らしで辛い悲劇だったが
彼らが亡くなったのとはどんな違いがあったろうか?
せっかく大人が助けようとしても、子どもたちは逃れようとした
その感覚は当時を体験しないと分からない
自分の足でも歩いたロンドンの有名な建物の数々を思い出し
大戦を越えて残っているのも感慨深い
【内容抜粋メモ】
ビルはオールドウィッチの地下鉄で少女ジュリーを見かけて声をかけ
イタリア人マルコの店で朝食をとる
母が亡くなり、父とビルは叔母の世話になっていた
学童疎開が始まり、学校が閉鎖になり、ものは配給制になった
アンダーソン・シェルター(防空壕)を庭に据えた
父が召集され、叔母はビルを疎開させた
叔母:あなたは手に余るのよ
*
汽車には子どもが大勢乗っている
婦人がサンドイッチをくれる
駅名はすべて黒く塗り潰してある(なんで?
ウェールズで降りると、小さい子からもらわれていき、ビルは残ってしまう
ある農家が説得されてビルを預かった
ビルはそこに5週間いた
主人のウィリアムズはウェールズ語しか話せない
ミセス・ウィリアムズと息子も最低限の英語だけ
ミセス・ウィリアムズは疎開者にはシラミがいるからビルを洗うと言う
逃げたビルは消毒剤のプールに落ちてひどい臭いになる
郵便局に父の手紙が着き、3ポンドを送ってくれた
駅の時刻表を見ると、列車は1日おきに1本しかない
丈夫な編み上げ靴を買い、15マイル歩いてロンドンまで汽車に乗り
バスで叔母の家に戻ると
「危険。不発弾あり」の板がかけられ誰もいない
男:
爆発物処理班が処理するまでは入れない
恐ろしい大型爆弾があって、いつ爆発するかしれない
空襲警備員が来てビルは逃げる
ぼくは自由なんだ
父が戻るまで1人で生きるんだ
*
1週間が経ち、ビルは孤独に苦しみ、ジュリーの面倒をみることにする
ジュリーはカナダに疎開される船が大西洋の真ん中で魚雷で沈み
救命ボートに乗り、別の船でサザンプトンに戻った
宿舎に残されたがイヤで逃げだした
父は召集され、どこか分からない
カナダに行く時に渡された50ポンドがある
婦人義勇隊の売店でサンドイッチとお茶を買う
ビル:僕らは目立っちゃいけない
2人はウエストミンスターホールを観に行くと半ば吹き飛ばれている
*
地下鉄で叔母の家に戻り、ナイフや懐中電灯を持ち出す
ジュリー:いわゆる不発弾もあるし、人が触ると爆発する時限爆弾もある
と聞いて恐ろしくなり、家を出る
しばらくして爆弾は爆発し、叔母の家は吹き飛んだ
ビルは教会にある戦時公営食堂やマルコの店で食いつないでいた
露天商はどこも人手不足で、手伝えばいくらかのお金になる
服は救世軍でもらったため、サイズが大きすぎる
2人はセント・ポールを観に行く
「1日の苦労はその日1日だけで十分である」
老人に声をかけられ、2人は逃げる
*
オールドウィッチ地下鉄駅のプラットホームに寝る場所がとれた
この辺は全線不通で人々があふれている
ジュリーは腕に迷子札をつけていて、その番号を覚える
空爆が近づいてくる音がする
*
1、2週間すると疎開先から子どもを連れて帰る親もいて、道で遊ぶ姿もある
空襲は何度も続いた
みんな睡眠不足で疲れ切っている
どの防空壕でも冗談を言って笑わせる人がいた
2人で店番をしていた時、目の前に焼夷弾が落ちてきた
リトル・バートがいきなり拾い上げ、防火用水に投げて無事に済んだ
地下鉄で教師の男に声をかけられ、学校に戻るよう言われて逃げだす
男:どの防空壕にも仲間がいる 逃げても仕方ないぞ 助けてやろうと言うのに!
*
チャリング・クロス駅まで来て、照明弾が夜空を明るく照らす
空襲警備員の中にジュリーのピアノの先生がいて、また逃げだす
近くに爆弾が落ちて、ビルは耳が聞こえなくなるのを防ぐために
自分とジュリーの口に指を入れる
どこもかしこも燃えて、警備員の誘導で退避場に着く
すべてが変わってしまったのに、人々は日常の生活に盲目的に固執している
トラックが来て、久しぶりにお風呂に入る
*
なにか見慣れた場所を見たくて、叔母の家に戻ると何もなくなっていた
公園の遊具で遊び、2人に笑顔が戻る
遠くに父が歩いているのを見つけて追おうとする
ジュリー:さようなら、ビル
父を追えば、ビルはまたウェールズ、ジュリーはカナダに送られる
ビルは迷って追うのを諦める
ビル:君と一緒にいたかったんだ
帰るべき家が欲しかった 相談する大人が欲しい
ビル:
君のお金は特別の支出のためにとっておかなきゃ
遊んでる余裕はない 働くには町の中心に戻らなきゃ
*
ジュリーは叔母の家に案内する
上は吹き飛ばされているが、召使の部屋だった地下室は残っていた
電気はつかないが、水道は通り、貯蔵庫には缶詰もある
ジュリーは掃除をするため残り、ビルは働きに出る
新聞は戦時下ではよく売れる
戻ると部屋は掃除され、配給の通帳を見つけて肉のスープを作ったジュリー
ビルは巡回図書館で本を借りて読んだ
夕刊に「シティ・オブ・ベナレス号沈没 全員絶望」という記事が載る
ジュリーが乗っているはずの船だった
ジュリー:お母さんに家に戻ってるんだって言わなきゃ・・・
ビルが父を諦めたのを思い出し、連絡をとるをやめる
*
ビルは野菜を売るために手押し車を修理する
通りでディッキーと名乗る男の子がずっと母親を待っているが来ない
ジュリー:捨てられたのよ、あの子
ビル:
孤児院かどこかへ入るだろうよ 僕らには面倒をみる力がない
ディッキーを連れて食堂へは行けない
ジュリーに説得されて、ディッキーを預かることにする
僕は野菜売りになんかなりたくなかった エンジニアになりたかったのだ
ビッグ・バートに聞くと、オールド・ライリーに会えば野菜を分けてくれると教えてくれる
ディッキーが震えているので、体をこすり、粉ミルクを飲ませるが吐いてしまう
ジュリー:新鮮なミルクを手に入れなくちゃ
ビルは牛乳屋に行くが爆撃を受けている
マルコの店も閉店
爆風で服が飛んで半裸で逃げる人々
台所に婦人が座り、テーブルにミルクがあるのを見つけて声をかけると死んでいると分かる
ビル:ディッキーのためなんです 許してくださいね
やっと隠れ家に戻ると、すっかり崩壊していた
*
これまで避けてきた空襲警備員、福祉委員、誰でもいいから人を呼ぶ
ビル:ああ、神さま 行って掘ってください
R(救助隊)のマークがあるヘルメットをかぶった男たちが来て
数時間も掘って、ようやく立ったまま埋もれていたジュリーが出て来て担架で運び去られた
その後、ディッキーが汚れもケガもなく出される
救助隊:おれたちは助けたんだ
*
宿泊施設で寝るよう言われ、翌日、病院に行き、ジュリーに会いたいと頼む
看護師:ジュリア・ヴァーン・グリーンならいるけど、この人じゃないわね
ビルは9つの病院を周ったがジュリーはいない
マルコの店で食べた時、ジュリアさんと呼んでいたのを聞いて思い当たり
最初の病院に戻ると、面会謝絶
看護師:母親が付き添っています ショック症で休息が必要なの
ジュリーがビルに会いたいと言い、2人は再会する
そばに母親と兄がいる
ジュリー:ディッキーもこの病院にいて、ケガはないけど、お母さんが見つからないの
兄はビルとジュリーの間になにもなかったかと質問する
ビルは傷ついて病室を出ると母親が追いかけてきて
リッチモンドの住所が書かれた名刺を出して訪ねて欲しいという
*
ビルは死ぬ気で消防署に志願するが、11月23日の夜は57日ぶりにロンドンに空襲がなかった日だった
軍隊に志願して、エンジニアの訓練を受け、数年後、戦争は終わった
セント・ポールを見に行き、雑草が荒れ地を隠している様子を見る
ここにも建物がたつことだろう
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あとがき
本書は第二次世界大戦のロンドンが舞台
1940年 イギリスは昼夜の別なくドイツ空軍の空襲にさらされた
東京大空襲では木造建築が燃えて何も残らなかったが
ロンドンはガラスが飛び散り、石くずの山ができた
学童疎開を経験した人に聞くと、疎開地に怨念じみた感情を持つ人が多い
とくに食料の苦しみが、その土地に対する憎しみになっているらしい
心の傷と体の傷を比べて、おそるべきは心の傷である