メランコリア

メランコリアの国にようこそ。
ここにあるのはわたしの心象スケッチです。

天人唐草 自選作品集 文春文庫 山岸凉子/著 文藝春秋

2023-05-15 12:01:53 | マンガ&アニメ
2018年初版

「マンガ感想メモリスト1」カテゴリー内に追加します



天人唐草
(私の好きなオオイヌノフグリの別名って初めて知った

羽田空港で突飛な格好をして叫んでいる女性 岡村響子 30歳







幼い頃の回想に戻る
古武士的な父親と従属的な母親

“不器用で落ち着きがない”と言われて
失敗を自分に許せず、何が正解か迷うあまり
行動を抑制するようになる響子







中学での初恋は父親と同じタイプ





高校では自意識過剰が加速してさらに自信喪失





父のコネで入社した役所で、また父に似たタイプの新井に惹かれる
派手な女性・青柳は響子と真逆のタイプで苦手

新入社員コンパで1人だけジュースを飲む響子
新井:女の子が男より飲むのは可愛くない








新井と真逆タイプの佐藤:
うまくやれないことがなんでそんなに大変なんだい?
なんでもうまくやれる素晴らしい女だ!て誰かに言ってもらいたい
他人の評価を気にし過ぎるんんだよ







チャラチャラしていると思われた佐藤が先に出世して
新井は派手な青柳と結婚したことにショックを受ける響子

母が急逝し、仕事を辞めて家事をしながら見合いをするが
控え目すぎる響子に縁はなく
父から逆に“かたくな過ぎる”と言われて戸惑う

“従順の裏に自己犠牲を払わずに済む依頼心と甘えがある”って厳しいよなあ






父が突然死 出張先とは全然違う場所で、そばにいたのは派手な愛人
父がずっと響子にこうあってはいけないといい続けた女性そのもの







ショックで落ち込んでいた帰り道、路上でレイプされ
響子:大したことじゃない 分かってくれる、あの人は・・・(父のこと?






派手なドレスを着て、金髪に染めて、空港内で奇声を上げながら徘徊する響子

“今やっと彼女は解放された 狂気というオリの中で・・・”



ハーピー
美人の編入生・川掘から死臭が漂うことに1人だけ気づく佐和
ときどき自分にだけ妖しい目を向けるのも気になる






下駄箱でストッキングの脚を見せて、誘惑されるように後をつけると
途中で見失い、怪鳥の声と死臭に逃げる

「迦陵頻伽(かりょうびんが)」
仏教のゴクラクチョウ 顔は女性、体は鳥




ギリシャ神話ではハーピーと呼ばれ、死臭を漂わせる





ハーピーは速き者という意味もあり
川掘の脚が速いことにも通じると紐づける佐和

また後をつけると、背中にコウモリの羽を見て
彼女が女面鳥獣のハーピーだと確信する







体育祭の後、シャワーを浴びているところをおさえようと忍び込み
羽の姿を見て、首を絞める







佐和:
先生、こいつハーピーなんです!
ちくしょう また隠しやがった!







セラピーを受ける佐和
死臭は“幻臭”だと言う精神科医

友人:
あいつは内向的だから 川掘さんを意識しているけど、認めたがらなかった
成績もずっと思わしくなかった



狐女 きつねじょ
9歳の理(まさる)は九曜家に引き取られる
女中・百合と主人の間の子どもだとみんな知っていながら言わずにいる

屋敷内に異形(いなり)神社があることから
近所からイナリ屋敷と呼ばれている

末娘・美央子も百合の子?と疑い、押し入れでイタズラをする

異形神社のキツネだと言う女に会う
彼女の名が聖子だと家族から聞き、親密感を覚えるが
ハッキリ「子どもは嫌い」と拒まれる







土蔵で美央子に性的いたずらをしていると
女主人が見つけて激怒し勘当する

理は同じ土蔵で夫が実の娘・聖子に産ませた子どもだと明かす
女主人:あのキツネつきの子なんだ キツネの子はやっぱりキツネだよ!








聖子に話すと
聖子:産んだ覚えはない そんな気味の悪い

理は1人で東京行きの電車に乗り
胸に青い狐火がともるのを感じる



籠の中の鳥





鳥人の生き残り「トリ」と呼ばれる一族の中で
飛ぶことが出来ずに生まれた融(とおる)

両親は亡くなり、盲目の祖母に育てられる
時々、村に呼ばれる時はごちそうをもらえるのが楽しみだが
近所の子どもから「トリ」と呼ばれて石を投げられる

急に知らない男性・人見が訪ねて来て、祖母が邪険に追い払うのを見て
実の父親ではないかと期待する







祖母は病床で、最後のチャンスに飛んでみろと言って亡くなる






1人残されていたのを、人見が引き取る
彼は父ではなく、鳥人を研究している
トリは代々、血族結婚で五体満足なのは融だけ

読み書きも知らない融を学校に通わせると
どんどん進級していくが、飛べないと分かったら
追い出されるのではないかと不安がつきまとう

人見が好きな八重子
2人が結婚したら村に返されるかもしれないと恐怖する

八重子が「いずれは融を施設に入れなきゃ」と言うのを聞き
ショックで泣いて歩いていると、人見に呼ばれ、道路に飛び出す






融をかばった人見は轢かれて即死のはずが
幽体を追いかけて連れ戻す融







これがトリの「飛ぶ」という特殊能力「死返魂」と知り
人見は融と離れることはないと約束して嬉しくて号泣する

珍しくハッピーエンド/驚



夏の寓話
海外旅行中、2週間だけペットの世話をして欲しいと言われて
夏休みを削ってイヤイヤ千葉に行く澄生

退屈して公園に行くと
いつも子どもにまざらず木陰でたたずむ少女がいて気になる





名前も住所もよく分からない様子
それとも親から知らない人に言うなと言われているのかもしれないと思う

家まで遊びに来て、いっしょに花火をしていると
少女:火がつくよ 髪に 手が燃えちゃう こわい











原爆で死んだ少女の魂だと分かる

ナジム・ヒクメットの詩







解説 失われた子どもたちの記 中島らも
この本のテーマは「迷い子」

「天人唐草」では、戦前のモラルの亡霊のような父に育てられた響子が発狂に至るまで
子どもは生きにくく、自信喪失し、内閉し、また失敗を繰り返してしまう

「ハーピー」の背景にあるのは受験システム、世間からこぼれる不安を感じる少年

「狐女」の理は、泣く前に知恵を武器に世界と対決しようとする

途方に暮れて、泣く術も知らない幼子たち
山岸凉子さんはこの子たちに救いを与えるわけではない
冷酷なのは「世界」である

僕はこの5日間、新聞で迷い子を探した
「完全自殺マニュアル」を読んで飛び降りた14歳の男の子ら

アメリカ児童養護飢饉の発表では
1979~1991年までに5万人の子どもが銃で死亡した
殺人事件、自殺、暴発事故など


これは社会問題ではなく、古代から連綿と続く生の根源的問題なのだ

行き迷い、とんでもなく間違った道をたどった成れの果て
愚鈍、忘却、教条だけが彼らに形を与えている



山岸凉子特別インタビュー 怜悧なまなざしで人間の心理に切り込む作品世界 門田恭子
山岸凉子さんの作品は怖い
「イヨウナモノに私は心惹かれる」と山岸さんは言う

「天人唐草」の響子のモデルになった女性は実際見た話!
羽田空港のロビーで「ゲェー!」という怪鳥の鳴き声が聞こえて
金髪、ド派手なドレスの女性が歩いていた

男女平等が謳われても、夫は
「君も働いていいいよ
 ただし、家のことをちゃんとしてくれるなら」
と平気で妻に言う

山岸:
父は寛容だったが、母はつねに男女の役割が頭にある人だった
羽田で見た女性は、内心怖れてきた将来の自分に思えた
他人ごとじゃないと切実な恐怖を感じた

「ハーピー」
ギリシャ神話の怪物と、心理学の本にある幻臭という言葉を結びつけた

山岸:
ディズニー映画『ファンタジア』とギリシャ神話に夢中になった
『ワルキューレ(!)』をモチーフにした
水野英子『星のたてごと』の2つに出会わなかったら
漫画家にならなかったかもしれない

ある評論家から「山岸凉子のマンガは主人公がみんな死ぬか、気が狂う作品しかない」と言われて
そんなはずないと見てみたら、ほんとうに不幸な結末ばかりで驚いたw

タブーを畏れる気持ちは全然ない
むしろそれをテーマにして読者を驚かせたい
自分の恥をさらけ出せる人だけが漫画家になれる


「籠の中の鳥」

山岸:
ある突出した能力は、なにかと引き換えでしか得られないと考えている
どこか凹んでいる代わりに、反対側が飛び出している
それが才能、芸術や科学をさらなる高みへ引き上げてきたと思う

『日出処の天子』で厩戸皇子を超能力者、同性愛者として描いた
異端とされるものに注ぐ著者のまなざしは深く、切ない


「夏の寓話」
子どもの頃、山岸さんの周りには戦争体験を持つ大人がいっぱいいた

山岸:
長崎の原爆資料館の展示室の天井から「アー」という女性の声が聞こえた
音響演出かと思っていたら、自分しか聞いてなくて背筋が凍りついた

当時の少女マンガとしては衝撃が大きく、いろんなクレームがついた
今の若い人たちにどのように届くのか、ドキドキする

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