この章は自作解題のようなものです。主として人称の問題について自作の変遷を回顧している。人称、視点などは小説を読めば分かるわけですが、あまり彼の本を読んでいない人にとっては、要領よくまとめてあるので、便利です。
最初は「僕」の一人称、「僕」と「私」の使い分け、「僕」と三人称の併用、名前なしの(一人称、三人称)、名前ありの三人称で一歩一歩自覚的に記述法の技術を向上させたというわけです。
あと、モデルの有無とかキャラクターの形成など。こうした技術的で手法的な解説の他に、自動書記的に物語が動き出す経験など、この経験は小説家にとってはよく知られた現象ではありますが、自作「たざきつくる君」の例で述べています。
これなど解説されてああそうなの、という所が多い。本当は解説されなくても直ちに読者に了解させるのが小説家の腕と思いますが、私等今更ながら「ああ、そうだったの」と思うのは鈍いからなのかな。