1-1(PK 5-4)で勝利!
同一スポンサーによるカップ戦として30年を超える歴史を刻むルヴァンカップ。ギネス記録にも登録されているその歴史が、今シーズンよりJリーグ全60クラブが参加するトーナメント方式に大幅刷新されたわけですが。
その新方式として開催される今シーズンの大会にあって。
1回戦、2回戦と格下カテゴリクラブが格上を撃破するアップセットが、下剋上が頻発。さっそく仕様変更の意義が取り沙汰されることとなっていたなかで。
3回戦にて、最大のサプライズが。
J3・カターレ富山が、前年度J1王者・ヴィッセル神戸を撃破。
過密スケジュールをこなすにあたり、各クラブともターンオーバー編成によって出場機会の少ない選手が起用されるケースがままあるなかで。どうしてもリーグ戦が優先、それによってパワーバランスが崩れることで、下剋上にもつながる要因となっていましたが。
それでも・・・誰もが、まさかという結果。
そんなことがありえるのか?と。
ありえました。まごうことなき、現実です。
1回戦、2回戦と同様に、平日水曜日の19時キックオフの試合として行われることとなった、3回戦・神戸戦。
ただ・・・これまでと違ったのは、集客数。
メイン指定席ばかりか、ホームゴール裏さえもが前売りで完売。急遽、当日ぶんを回す措置がとられるなど。
これは、カターレの歴史のなかでもまれに見る大変な試合になるのではないかーーーそんな予感が、期待とないまぜになりながら、試合当日を迎えることとなりました。
本当に、平日か?
そう思わせられた、開場時間前の雰囲気。
今回の対戦を記念した神戸とのコラボグッズをはじめとした物販に、長蛇の列。普段では見られないような入場制限がとられていたりと。
その熱気は、あきらかに普段のJ3リーグ戦とは異なるものであり。
遠く神戸から駆け付けてくれた、ヴィッセルサポーターの方々。過去に県総での公式戦直接対決は1度だけ。11年前にも来たことがある人もいたかもしれませんが、大多数にとっては、今回が初めての富山戦であったことかと。
今シーズンのユニフォームを身に纏うなかで、その右袖には、金色に輝くJリーグロゴが。それは、前年度J1覇者にのみ許される王者の証にほかならず。
羨望を覚えるとともに、あらためて「ああ、ヴィッセル神戸と対戦するんだな」という実感が湧きました。
あきらかに、いつもと違う客の入り。ぎっしりと埋まるメインスタンドを見るにつけ、「これがもしも、清水戦のような雨の中での試合だったなら」と思えば・・・好天に恵まれてよかった、と胸をなでおろすばかり。
カターレ史上にもまれに見る注目度の試合。それがいよいよ、キックオフのときを迎えました。
大迫 勇也、酒井 高徳、山口 蛍といった日本代表として名を馳せた選手の参戦を期待した人も多かったことでしょうが、残念ながら帯同無し。リーグ戦とはメンバーを総とっかえとし、全力のターンオーバー編成とした神戸。
J1王者の原動力となった規格外選手たちはいないにせよ。それでも、井手口 陽介や 汰木 康也といった代表経験選手、サブメンバーには直近の鹿島戦にスタメン出場した宮代 大聖、本多 勇喜といったレギュラーの名も。当然ではありますが、控え主体だからと安心するわけにはいきませんでした。
過密日程っぷりはカターレにしても同じであり、やはりメンバーを大きく入れ替えることになりました。
それでも、リーグ戦とルヴァンカップここまでで、全てのフィールドプレイヤーに出場経験があり。これまでも、選手を入れ替えても戦力があからさまに落ちることはない、というところを証明してきた実績を踏まえれば。王者に挑むこの一戦に関しても、不安を覚えることもありませんでした。仮に敗れても、レギュラーではない選手の起用で戦力ダウンしたから負けた、とはならず。今のカターレの実力そのままが結果に結びつくと思えば、どんな結果になるにせよ、納得も出来ようというものと。
そんなスタメンのなかで最も目を惹いたのが、先日大怪我からの復帰を果たしたガブ。これまでは途中出場であったところ、彼自身初のスタメン起用となりました。
そして、試合開始時間。運命のキックオフのときを迎えることに。
試合開始からしばらく見ていて思ったのが、「いつも通りやれているな」ということ。
相手をリスペクトし過ぎて自分で自分の首を絞めてしまうなんてパターンも、こういったカテゴリ差のある試合では起こり得ること。相手のプレッシャーから逃げてバックパス、推進性のない横パスに終始してしまうとか。
もちろん、うまくいくばかりではないにせよ。それでもチャレンジ&カバー、しっかりと冷静にやれていた印象です。
そんななかで驚かされたのが、ガブのプレーぶり。
もともと、怪我さえなかったならば潜在能力はチームでも随一と言われていた選手ではありましたが。
格上たる神戸を相手にも、臆することなくプレー。周りがしっかりと見えている感が伝わってきました。
ボランチとしてボールを集め、要所要所へとパス。その一連の動きを見るにーーー「あれ?11カ月ほども実戦から離れていたよね?」と。
まるで、これまでも普通に試合に出場してきたかのようなプレーぶり。いや待て、初スタメンだよね?と。全然イケるじゃないか!と。
今瀬と川上の両CBの安定感。そして西矢と大迫のSB。西矢はU12で、大迫はU15で、それぞれ神戸の下部組織でプレーしていたのだとか。自身のサッカーの原点のひとつでもあるクラブを相手に、気合も入っていたとのこと。
そうした守備陣の頑張りは、良い意味で普段のリーグ戦と変わらず。緊張も、無かったと言えばウソでしょうけれど。それでプレーが委縮してしまって動けない、ということな無い。それが伝わってきました。
一方で。
忖度なく、忌憚なく言わせてもらえば・・・正直言って、神戸は物足りない印象でした。
もちろん、普段のJ3レベルを思えば、各選手のスキルの高さというものは伝わってくるのですが。
だからといって、どうにもならない差のようには感じなかった。
過去に天皇杯でJ1クラブを相手にしたときのことを思い返すと。
そもそものプレースピードが、全然普段と違っていたりとか。後方からのロングボールが、なんで吸い付くように足元に収まるの?と驚愕したりとか。
上手くはある。けれど、そういった脅威を感じるレベルか?と言えば、そこまででもなかったような。
やはり、そのあたりはターンオーバー編成ということだったのかもしれません。
いかにJ1王者とはいえ。
もちろん、Jリーグレベルを超えて世界でも通用するようなスペシャルな選手がいることは事実として。それでも、神戸の全員が全員、ひとり残らずそうしたレベルか?と言えば、そうでもないのだろうと。
まったく勝負にならないほどには、イメージされるところのJ1とJ3ほどには、戦力差はないような印象。神戸がうまくやれていないのか、カターレがよくできているのか。
ただ、それでも。
19分、神戸がワンチャンスをモノにすることに。
井手口の鋭いスルーパスに飯野 七聖が反応し、カターレ陣内深く切り込むと。マイナスの折り返しに合わせた井出 遥也にしっかりと決められてしまい、先制を許してしまいました。
なんというか、ヌルっと決まったゴール。
それまでの試合展開とか流れとかは関係なく、「ただチャンスだったから決めた」とでも云うような。
格上クラブに先制され、追う展開となった格下クラブ。俄然、カターレの不利に。
しかし。
スコアが動いた割には、その後に与える影響が小さかったように思われました。
勝利要件を満たすゴールを挙げた神戸。「ここでもう1、2点くらい追加しとけばあとは流していけるだろ」くらいに、ギアを上げてもうひとヤマくるかと思いましたが、そうでもなく。ゴールの前後で、あまり変わらなかったというか。
一方のカターレも、「J1王者に先制されてしまった!どうしよどうしよ」などと焦ってリズムを崩してしまったわけでもなく。そうして自滅しては相手の思うツボだったでしょうが、そうはなりませんでした。
最悪、ハーフコートでやっているのか?というくらいにボールを支配されてボコボコにやられる展開もあり得るか?と思っていましたが。それで叩き潰されることがあったとしても、悔しくないはずはないにせよ、受け入れ、認めはしたかもしれません。
先制点を挙げても、それまでと変わらない神戸。
それは・・・ある意味、格上クラブとしてのプライドに、欠けていはいないか?と。
ナメられてはいないか?と。
だったら。
そうした勝利への執念に欠けるというなら。そんなクラブを、やすやすと勝たせてはいけない。それはきっと、神戸のためにもならない。
わかっていた。けれど、再確認。
勝つしかないだろうよ!
後半に入っても、試合の様相は大きくは変わらず。
ときに耐える時間帯もあったりしたものの、高い集中力でしのぎきり。一方的に攻め込まれ続けて心身ともに消耗、となれば厳しかったところでしょうが、神戸の攻めも、カターレの闘志を萎ませるほどではなく。
カターレだって、やられっぱなしじゃない。もちろん、ゴールを狙っていく!
そんななかで迎えた、70分でした。
右サイドを駆けた西矢が、ゴール前へと鋭いクロス。ショウセイやヨシキが競り合うなか、それがオウンゴールを誘発し、ゴールネットを揺らすことに。
今シーズン、いやカターレ史上でも屈指の動員となったこの試合。8223人を集めたスタンドが、沸き上がりました。
追い付き、試合を振り出しに戻したカターレ。
直後に神戸は鹿島戦に先発した宮代 大聖と本多 勇喜を投入。2年前に大迫と酒井の交代出場から流れが一変してしまったことが思い出されましたが・・・むしろ、その経験があるから、でもあったでしょうか。
しっかりと集中したプレーぶりで、勝ち越し点を許さなかったカターレ。
90分で決着はつかず、ルヴァンカップ3戦連続3度目の延長戦へと突入することになりました。
1回戦では延長に入ってすぐに失点、けれどもそれをひっくり返し、勝利した山形戦。その経験もあることで、油断なく緊張感をもって臨めたカターレ。
神戸の側も、もちろんあり得る事態としての延長戦は、想定してはいたでしょうけれど。実際に延長戦を戦うこととは、また別だったかもしれません。
延長に入っても、運動量が落ちてヘロヘロとはならないカターレ。そりゃそうだ、普段から試合を通じて落ちないように留意しながらのプレーを心掛けている。それは、J3リーグとなんら変わらない。
いかに、格上であっても。チャンピオンクラブであっても。必要以上にいっぱいいっぱいになって自滅、とはならない。
伊達に2回も延長戦の末に格上撃破してきたわけじゃないんだぞ、と。
結局、延長前後半でも決着はつきませんでしたが。
カターレとしては、やるべきことをやりきった延長。むしろ神戸側のほうが、ケリをつけねばならなかったのに、出来なかったが故のPK戦突入という流れであったかと。
カターレにとって、清水戦に続き2度目のPK戦。前回と同じく、ホーム・大型ビジョン側のゴールで行われることとなりました。
ならば、やることは決まっているよな?とばかりに。ゴール裏に集結、青い壁となって神戸を威嚇するホームのファン・サポーター。
その気迫が伝わったのか。
先攻・神戸の1人目、宮代のキックがクロスバーを叩き、失敗。地鳴りのような歓声に包まれるスタジアム。
対して、カターレ1人目は途中出場の松本。
もちろんプレッシャーはあったでしょうが、しっかりと決めきり、リードした状態で2人目以降に。
その後は双方ともに全員が成功し、5人目へ。
カターレの5人目は、川上。
先の県選手権決勝でPKを蹴ったマテウスや、今回1人目として成功させた松本など、FW選手は普段からPKの意識も高いことでしょうけれど。DFである川上にとってみれば、こういった機会でなけばキッカーとはならないであろうなか。
それでも。
チームの勝利のために、決めきるのみ。
表情に、恐れや悲壮感はなく。落ち着いてその右足から蹴り込まれたボールが、低い弾道でゴール左隅に吸い込まれ。
歓喜の瞬間。
21時30分を過ぎて鳴り物応援が禁止となっていたスタジアムですが、この日いちばんの大歓声に包まれたのでした。
1月下旬、ルヴァンカップの組み合わせが発表されたときには・・・このような事態を予想していた者が、どれだけいたことかと。
十中八九、いやそれ以上。誰もが神戸の突破を予想し、せいぜいでも清水にワンチャン、いや、それとてかなり低い可能性としての想定だったことかと。
誰も、J3の富山が1stラウンドを突破するなど、思っていもいなかったでしょう。
しかし、やってのけた。
まごうことなき、現実です。
まさしく、ジャイアントキリング。史上最大のアップセットが成し遂げられたのでした。
勝敗を分けたのは、どの部分だったのか?
一言でいえば、今シーズンカターレのスローガンでもある、「覚悟」といった部分でしょうか。
言ってはなんですが、神戸の側には覚悟が足りていなかったように見えました。
過密日程のなかで、中2日で移動を伴うアウェイ戦。しかも、今までプレーしたことのない初見のスタジアムとなれば。アウェイクラブとしてのディスアドバンテージというものは、間違いなくあったでしょう。
ただ、それでも。
神戸にとってこの3回戦は、2回戦の今治戦に続く今大会の2戦目です。
今治戦も90分では決着がつかず、延長戦を制しての勝ち上がりでした。一筋縄ではいかない大会だという認識は、既にあったはずです。
その流れからの富山戦。今治戦と同等か、あるいはJ2の2クラブを撃破して勝ちあがっている富山がそれ以上なのでは?またも難儀してしまうのでは?という認識は、持ってしかるべきではなかったか。
そのあたり、どうにも緩さというか甘さと言うかが、あったような気がします。
そりゃ、神戸の内情についてつぶさに知っているわけでもなんでもない以上、憶測でものを言うのも失礼な話ではありますが。
ただ、ひとこと言わせてもらうならば。
2年前の天皇杯で。このままいけば勝てるかも!ジャイアントキリング達成も!というカターレの淡い希望を、ハンパない実力でもって叩き潰してくれたのは、他ならぬあなた方ヴィッセル神戸なのですよ?と。
2年ぶりの再戦、ふたたび実力差をみせつけられてコテンパンに、という怖れも、やはりあったでしょう。それでなくとも、J1王者への畏怖は、あって当然とさえ言えて。
けれど、それを受けいれてなお、勝利への意思を貫いた。
そんなカターレの覚悟が、最大のサプライズに、ジャイアントキリングにつながった。そう思います。
同じくPK戦にまでもつれながらも、J1札幌に惜敗した長野。琉球もセレッソ大阪に敗れたことで、カターレがJ3唯一のプレーオフステージ進出クラブとなりました。
この夢には、まだ続きがある。
次戦・天皇杯1回戦の関西大学戦は、すぐにやって来ますが・・・それでも。
このクラブ史に刻まれる歓喜を、ひととき心にきざみつけようと。
おめでとう、カターレ富山!